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しおりを挟む「ミャー」
「かわいいな」
「赤いリボンがよく似合ってるわね」
「ふわふわして撫でると気持ちいいな」
ブラッドリータンゴという魔物に扮した悪魔を家族は絶賛可愛がり中である。あいつも悪魔のくせに「ミャー」とか「ニャゴ」とか鳴いて可愛い子ぶるものだから、全員メロメロ状態になっているのだ。
私はといえば、家族たちのそんな様子に引いてしまっている。相手は悪魔だ。確かに黒い子ネコは可愛いが、さっきまで悪魔だったことを考えたら純粋に可愛がれない。
「ん?リリン、怖くないよ。こっちに来てごらん?」
「兄上、やはりマリに魔獣は・・・」
「天使ちゃん、この子も可愛いけど、天使ちゃんの方が何倍も可愛いわよ」
「なんだ、そういうことか」
悪魔の猫に引いてるだけなのが、みんなが自分より魔獣に夢中なのが気に入らなくて拗ねてると勘違いされた。お父様に抱き上げられてしまう。
「ごめんごめん、意外に魔獣が可愛かったから」
「マリの方が可愛いに決まってるだろう?」
【ふふふ、諦めて俺様を愛でるのだ】
ニャーという声と一緒に悪魔の地声も聞こえてきた。
【この声はお前だけしか聞こえていない。これからお前とは仲良くやっていくのだからな】
私は仲良くするつもりはないのだが、家族はこの子を飼うつもりだ。
「リリン、名前をどうする?」
「マリが決めてあげないと」
兄様たちがニコニコと笑って私を見ている。それは理想的とも言える家族団欒のひとときだ。この子が悪魔じゃなければいいのだ。つい先ほどまで苦しめられていた悪魔の正体がコイツです!と言ったらどうなるだろうか。
【さっさと俺にふさわしいカッコイイ名前をきめろ】
ニャーニャーとかわいらしい声にみんなは聞こえているが、私には悪魔の声が同時に聞こえる。悪魔につける名前なんて思い浮かばない。しかし家族たちの期待のこもった目が私を見てくる。
「じゃあ・・・、クロ」
嫌がらせのつもりでわざとつまらない名前を提案した。
【何?そんな名前許さんぞ】
悪魔が抗議の声を上げるが
「うん、いいね。クロ」
「クロ、可愛い響きだ」
「天使ちゃん、命名センスもあるわね」
「クロ、クロ、クロ・・・。ふふっ、この子も気に入っているようだね」
家族たちは意外に気に入ってしまったようだ。
【そんな名前嫌だぞ。おい、そんな名前で呼ぶな、やめろ】
悪魔は嫌がっているようだが、名前はクロで決定してしまった。
【チクショウ】
文句を言っているが、その声はニャーニャーという猫の鳴き声で家族たちには聞こえている。まさか悪態をついているとは知らず、可愛い可愛いと目尻を下げていた。
しかしなんで悪魔が魔獣の姿で私のところに来たのか。面倒ごとはもうゴメンだ。とりあえずは魔獣の黒猫を撫でてやる。気持ちいい。スベスベしている。
【どうだ、俺を可愛いがれ】
クロと命名された悪魔は私の顔を見てニャーと子猫らしく鳴いたのだった。
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