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しおりを挟むマーサの入れてくれたお茶を一口飲むと、体の奥深くから大きなため息が出てしまった。
「はぁー、お茶が美味しい・・・」
12歳じゃないな、32歳が知らずに出てしまった。だが、そんなことを気にしていられなかった。そもそも何が疲れるんだろう。みんないい人なのに。あの押しの強さだろうか。でもこの先家族になる人たちだ。慣れていくしかない。私はそんなことを考えていたのだが。
気がついたら何かが変だった。音が聞こえない。周囲を見渡せば、誰もいない。あれ?と思い立ち上がった。すると、周囲のものが消えて私は1人で何もない場所に立っていた。たった今まで公爵家の応接間にいたはずなのに。
「ここは・・・」
その瞬間、目の前に男の人が立っていた。黒髪で長身の男性だ。顔を見てゾッとした。瞳が赤いのだ。
「誰?」
「お前がマリアンヌ・・・、だな」
声が聞こえてきた。彼の口は動いていなかったが、おそらく声の主はこの彼なのだろう。彼はこちらを見ているのだが、赤い瞳は何を見ているのかよくわからなかった。
「違う世界から中身を入れ替えるとは、女神はとんでもないな」
中身が違うことがバレている。
「俺はお前の言葉で言うと、悪魔だ」
悪魔か。女神がいるのだから悪魔もいるだろうな。私は楽観的に考えていた。なんとなく何かあれば女神様がなんとかしてくれると思っていた。
「そもそも人間が俺を呼び出したのだ。呼び出した以上は代償をもらう義務がある」
「義務って・・・」
「お前たちが魔物と呼ぶものになってもらった。魔物はお前たち人間に狩られる。狩られる時の恐怖を俺は糧としているのだ。唆して結界を剥がして魔物を発生させたら、面白いように狩ってくれたからな」
悪魔はニヤリと笑った。嫌な感じだった。
「魔物にしてしまえば一度死んでもまた生き返る。しかし!」
そこで悪魔は言葉を止めて私を睨みつけた。赤い瞳が不気味だ。
「お前の料理を食べた男が魂を浄化させてしまった。もう生き返ることはできなくなった」
え?それってスティラート公爵は死んだと言うこと?私の料理を食べて?
「そうだ、お前の料理だ」
私の心の中がわかるのか、悪魔はニヤニヤしている。
「お前のせいでスティラート公爵とやらは死んだのだ」
悪魔は嬉しそうだ。私の様子を見て楽しんでいる。
「それにだ」
悪魔はなおもニヤニヤしだした。
「リリア・マロウとやらはお前のせいで不幸になったと言っていた。みんなお前のせいで不幸になったのだ」
「私のせい?」
「そうだ」
悪魔のニヤニヤが止まらない。何度も私に言って聞かす。お前のせいで不幸になった、と。
私のせいで?私は悪魔を見た。赤い瞳は私を見ているのだろうか。
「お前は中身が違うのだろう。この世界の人間ではない。それでどうだろう?リリアはお前になりたいと言っていた。罪滅ぼしのためにリリアの願いを聞いてやるべきではないか?」
私のせいでみんな不幸になった?私のせいでスティラート公爵は死んだ。リリア・マロウも私がいなければ私を襲うこともなく、牢に入ることもなかった。みんな、私のせい。私が悪い。
「そうだ、マリアンヌ、お前が悪い」
気がつけば、悪魔ではなくフランツ兄様がいた。
「マリ、君は本当は僕の妹ではないのだろう?」
私は息を飲んだ。フランツ兄様は知っている。私が本当はマリアンヌではないことを。
「俺の妹をどこにやった?」
レオポール兄様だ。剣を私に向けている。私の首元には剣先があった。
「わ、私・・・」
涙がこぼれ落ちた。大事なはずの人を騙していた。
「私、私は・・・」
どこから説明したらいいだろう。何て言えばいいだろう。泣きながら、私はただ立ち尽くしていた。
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