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しおりを挟む「とりあえず、話を戻しましょう」
コホン、とわざとらしい咳払いをし、ゲルリーは彼らを見た。アルバートがあの本を読むかどうかはどうでもいい。おそらく、近いうちに読んで後悔するに違いないとゲルリーは思っている。
「そうだ、とにかく話を続けよう」
真面目な顔で陛下が話を促す。宰相もドミニクも黙ってゲルリーを見ている。
「でも」
アルバートが口を開いた。
「何故、悪魔に願いを叶えてもらう方法がわかっているのに側妃になれなかったのですか?」
「確かに、その通りだ」
先王、つまりは陛下とドミニクの父、アルバートの祖父は側妃を何人も持った。ドミニクの母もその1人である。側妃といえど王族の一員、と当時は娘を進んで差し出す貴族は多かった。
「間に合わなかったのでしょう」
「間に合わなかった?」
「ファングが死んだ後にスティラート公爵との結婚が決まりました。ご存じかわかりませんが、スティラート公爵は再々婚で親子ほど歳が違います」
ファングが原因不明の病で急死したため、ブライア侯爵家は跡継ぎがいなくなった。やむなくファングの妹が婿を取るか養子を取るかするしかなくなったのだが、手頃な婿も養子も見つからない。しかもブライア家の財政状況は決して良いわけではなかった。そのため、スティラート公爵家に身売りに近い状況で嫁いだのだ。
ゲルリーは本をパラパラとめくった。アルバートの目が釘付けになっている。何かの拍子に文章の一部でも見えるのではないかという期待の目である。そんなに読みたいものだろうかとゲルリーは思う。だが、それも若さゆえというものだろうと納得する。
「マロウ伯爵とファングは親しい間柄だったようです。マロウ伯爵はファングが亡くなった時に彼の遺品から書き留めていた小説を見つけました。それで本を作成したのです」
「え?彼の遺志だったのか?」
「おそらくファングの意志は無視しています。この本の最後に嘘くさい下手くそな文で彼を称えていますね」
「マロウは何も知らずに本にしてしまったのか?」
「マロウでは内容を理解できなかったでしょう」
なんとなく高尚な文体の小説を本にして、適当な貴族に売りつけた。それが思いの外評判になり、マロウはそれで結構な金持ちになったのだ。
「悪魔に願いを叶える方法は小説とはいえませんから、写本になった段階で削除されたのでしょう。不幸中の幸いと言えますね」
「はあ・・・。つまり反王政派の資金源など言われていたが、それは嘘だったのだな」
「当時、先王に対して色々考えていた人物は多かったでしょう。反王政派などと言って本を買わせたんじゃないでしょうか。貴族は意味もなく結託しようとしますからね」
ゲルリーはそう言うとニヤリと笑った。
「それはそうと」
全員がゲルリーを見た。次は何を言うのだろうか。彼の言葉を待っていると
「お腹が空きましたね。何か食べましょう」
それを合図に誰かのお腹がクーと鳴るのが聞こえた。
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