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「マロウ伯爵を覚えているでしょうか。リリア嬢の祖父に当たる先代の当主のほうです」
ゲルリーの問いにアルバート以外はうなづいた。
「ドミニク様もご存じですか」
「覚えていると言うより、知識として聞いたくらいだが」
「はい、もう20年近く前のことになります。当時貴族の間で流行った本」
そこでゲルリーはコホン、と咳払いをしてアルバートをチラリと見た。その様子にアルバートは首を傾げる。
「未成年だが、聞かせて構わない」
陛下のお許しが出たのでゲルリーは話を続けた。
「当時風紀を乱す本が流行りました。かなりの高額でその本は取引されました」
ゲルリーの言葉の選び方を聞いてアルバートはどんな本か理解したようだ。小さくうなづいている。
「本を売っていたのはマロウ伯爵です。反王政派の資金源にもなったと言われましたが、マロウ伯爵が事故で急死したため、真相がはっきりしませんでした」
ゲルリーは1冊の本を机に置いた。
「これ、リリアが持っていた・・・」
古ぼけた重厚な装丁の本。リリアがいつも大事そうに抱えていた本である。
「この本はおそらくマロウ伯爵が持っていた原本。世に出ていた本は写本と思われます」
「作者不明と言われていたが、マロウ伯爵が作者だったのか?」
「しかし、あんな内容のものをマロウ伯爵が書けるものか?」
陛下と宰相は疑問を口にした。マロウ伯爵はあまり出来のいい人物ではなかったと聞いている。伯爵家に生まれたのでそれなりの教育を受けてはいるが、勉強は好きではなく、かといって武術などに才能があったわけでもなかった。だが、口がうまく社交界では人脈を築いていた。
「作者は別人です」
ゲルリーはそう言って本を開いた。
「作者はファング・ブライア。スティラート公爵の母君の兄です」
「スティラート公爵の母・・・」
「彼女は王族に対して異常な執着がありました。先王の側妃になろうと画策したようですが、失敗に終わっています。彼は妹のためにあらゆる手を尽くしたようですね」
「あらゆる手・・・」
「つまり、悪魔と手を組みました」
サラリとゲルリーは言った。他の者は息を飲み、ゲルリーを黙って見つめている。簡単に悪魔と手を組んだと言ったが、それが容易なわけではない。かなりの代償が伴うはずだ。
「ブライア家は侯爵家だったが後継者がいないので断絶になったはずです。ファングが若くして亡くなったからだったと記憶しています」
宰相が記憶を頼りに言う。ファングが死んだのは悪魔と手を組んだから?しかし側妃になりたいという妹のために命を賭けるものだろうか。
「妹のためだったかは、今となってはわかりませんがね」
ゲルリーは小さくため息をついた。
「私は昨夜この本を読みました。5話までは世に出ている本と同じでしたが、この本には別の話がありました。悪魔へ願いごとを叶えてもらう方法が書かれていました」
「読んだ・・・のか?」
「一晩であれを・・・」
陛下と宰相、ドミニクは驚愕した目で彼を見た。
「わ、私も読みたいです」
アルバートが目をキラキラさせていた。彼は将来のために知識を得ようと考えていたため、純粋に本ならなんでも読みたいと思っただけだった。
「だ、ダメだ」
「そうです、あんな醜悪なもの」
「本なら他にもあるんだから」
3人は必死になっていた。あの本は全員が読んだことがある。悪友に唆されて、なんとなく好奇心で。きっかけはそれぞれだがとにかく読んだ。難解で意味がわからないところも多々あるのだが、あれはこういう意味だったという解説本が別にある。それも読むと全員が愕然とし、しばらくは茫然自失の状態で過ごした。
3人は「嵌まらなかった」が、「嵌ってしまった」人たちもいる。殿下が万一でも「嵌ってしまった」場合、大変に困難な状況に陥る。彼らはそれを阻止するため、全員で引き止めたのであった。
ゲルリーの問いにアルバート以外はうなづいた。
「ドミニク様もご存じですか」
「覚えていると言うより、知識として聞いたくらいだが」
「はい、もう20年近く前のことになります。当時貴族の間で流行った本」
そこでゲルリーはコホン、と咳払いをしてアルバートをチラリと見た。その様子にアルバートは首を傾げる。
「未成年だが、聞かせて構わない」
陛下のお許しが出たのでゲルリーは話を続けた。
「当時風紀を乱す本が流行りました。かなりの高額でその本は取引されました」
ゲルリーの言葉の選び方を聞いてアルバートはどんな本か理解したようだ。小さくうなづいている。
「本を売っていたのはマロウ伯爵です。反王政派の資金源にもなったと言われましたが、マロウ伯爵が事故で急死したため、真相がはっきりしませんでした」
ゲルリーは1冊の本を机に置いた。
「これ、リリアが持っていた・・・」
古ぼけた重厚な装丁の本。リリアがいつも大事そうに抱えていた本である。
「この本はおそらくマロウ伯爵が持っていた原本。世に出ていた本は写本と思われます」
「作者不明と言われていたが、マロウ伯爵が作者だったのか?」
「しかし、あんな内容のものをマロウ伯爵が書けるものか?」
陛下と宰相は疑問を口にした。マロウ伯爵はあまり出来のいい人物ではなかったと聞いている。伯爵家に生まれたのでそれなりの教育を受けてはいるが、勉強は好きではなく、かといって武術などに才能があったわけでもなかった。だが、口がうまく社交界では人脈を築いていた。
「作者は別人です」
ゲルリーはそう言って本を開いた。
「作者はファング・ブライア。スティラート公爵の母君の兄です」
「スティラート公爵の母・・・」
「彼女は王族に対して異常な執着がありました。先王の側妃になろうと画策したようですが、失敗に終わっています。彼は妹のためにあらゆる手を尽くしたようですね」
「あらゆる手・・・」
「つまり、悪魔と手を組みました」
サラリとゲルリーは言った。他の者は息を飲み、ゲルリーを黙って見つめている。簡単に悪魔と手を組んだと言ったが、それが容易なわけではない。かなりの代償が伴うはずだ。
「ブライア家は侯爵家だったが後継者がいないので断絶になったはずです。ファングが若くして亡くなったからだったと記憶しています」
宰相が記憶を頼りに言う。ファングが死んだのは悪魔と手を組んだから?しかし側妃になりたいという妹のために命を賭けるものだろうか。
「妹のためだったかは、今となってはわかりませんがね」
ゲルリーは小さくため息をついた。
「私は昨夜この本を読みました。5話までは世に出ている本と同じでしたが、この本には別の話がありました。悪魔へ願いごとを叶えてもらう方法が書かれていました」
「読んだ・・・のか?」
「一晩であれを・・・」
陛下と宰相、ドミニクは驚愕した目で彼を見た。
「わ、私も読みたいです」
アルバートが目をキラキラさせていた。彼は将来のために知識を得ようと考えていたため、純粋に本ならなんでも読みたいと思っただけだった。
「だ、ダメだ」
「そうです、あんな醜悪なもの」
「本なら他にもあるんだから」
3人は必死になっていた。あの本は全員が読んだことがある。悪友に唆されて、なんとなく好奇心で。きっかけはそれぞれだがとにかく読んだ。難解で意味がわからないところも多々あるのだが、あれはこういう意味だったという解説本が別にある。それも読むと全員が愕然とし、しばらくは茫然自失の状態で過ごした。
3人は「嵌まらなかった」が、「嵌ってしまった」人たちもいる。殿下が万一でも「嵌ってしまった」場合、大変に困難な状況に陥る。彼らはそれを阻止するため、全員で引き止めたのであった。
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