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ついさっきの出来事を思い出して、私は体が震えた。怖くて怖くてたまらない。あの女の人の顔。般若のような、と言うのは比喩ではないと分かった。本当に人は鬼のように恐ろしい顔をして恐ろしいことをするものなのだ。
髪を振り乱し、どう考えても古臭いドレスを着た女の人。一瞬幽霊かと思った。そんな人が私に馬乗りになって髪を掴まれ顔を叩かれた。意味不明のことを言っていた。国外追放?修道院へ行く?
「ごめん、ごめんね。マリ。僕が近くにいたのに。マリをこんなめに合わせて」
混乱しているのか兄様は何度も謝りながら、ギュッと力強く抱きしめてくれた。私は兄様にしがみつき、小さな子どものように泣きじゃくった。
「なんで・・・、なんで、あの人・・・」
「頭のおかしい人なんだよ。怖かったね、もう大丈夫だから」
兄様が子どもをあやすように頭を撫で、抱きしめてくれる。
「リリン、大丈夫か?顔を見せてごらん」
レオポール兄様だ。顔を上げてレオポール兄様の方に向こうとした。でもその瞬間にレオポール兄様の向こうに誰かがいると分かったら、恐怖で体が固まりまたフランツ兄様にしがみついた。
「大丈夫、メイドが様子を見に来てくれたんだよ」
「兄上、あの女を思い出すからメイドは少し外してください」
「そうだな」
そんなやりとりが聞こえ、しばらくしたら再度レオポール兄様の声が聞こえた。恐る恐る顔を上げる。目の前にはレオポール兄様がいた。
「レ・・・オ、ポー・・・」
レオポール兄様といいたいのにうまく言葉が出ない。
「よっぽど怖かったんだな」
「当たり前だ、あの女」
フランツ兄様からレオポール兄様に抱きしめられる。
「なんで、あんな女を野放しにしてたんですかっ」
「分かってる、これは騎士団の落ち度でもある。だがあんなことをするとは思わなかったんだ」
「それにしたって・・・」
2人の話していることは聞こえてはいた。でも耳に入るのに言葉の意味がよくわからなかった。まるで意味のないことを話しているように聞こえる。
「天使ちゃん!」
「マリアンヌちゃん!」
お母様と皇后陛下だ。私はなんとか顔を上げ2人を見ようとした。
「まぁ!」
2人の驚いたような声が聞こえた。
「大丈夫だ」
お父様の声だ。お父様の手が私の頬を撫でる。冷たいようなそれでいて温かい何かが頬に当たる。とても気持ちがいい。
「少し寝なさい。大丈夫だから」
私は目を閉じた。でも1人になるのが怖い。
「大丈夫よ、天使ちゃん。そばについているから」
お母様の声だ。
「マリアンヌちゃんには私がついているわ」
皇后陛下の声もする。私は1人ではないんだ。誰かの手を強く握りしめた。
「リィ・・・」
殿下の声だろうか。側にいるのかな。確認できないまま、私はゆっくり眠りに落ちていった。
髪を振り乱し、どう考えても古臭いドレスを着た女の人。一瞬幽霊かと思った。そんな人が私に馬乗りになって髪を掴まれ顔を叩かれた。意味不明のことを言っていた。国外追放?修道院へ行く?
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兄様が子どもをあやすように頭を撫で、抱きしめてくれる。
「リリン、大丈夫か?顔を見せてごらん」
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「大丈夫、メイドが様子を見に来てくれたんだよ」
「兄上、あの女を思い出すからメイドは少し外してください」
「そうだな」
そんなやりとりが聞こえ、しばらくしたら再度レオポール兄様の声が聞こえた。恐る恐る顔を上げる。目の前にはレオポール兄様がいた。
「レ・・・オ、ポー・・・」
レオポール兄様といいたいのにうまく言葉が出ない。
「よっぽど怖かったんだな」
「当たり前だ、あの女」
フランツ兄様からレオポール兄様に抱きしめられる。
「なんで、あんな女を野放しにしてたんですかっ」
「分かってる、これは騎士団の落ち度でもある。だがあんなことをするとは思わなかったんだ」
「それにしたって・・・」
2人の話していることは聞こえてはいた。でも耳に入るのに言葉の意味がよくわからなかった。まるで意味のないことを話しているように聞こえる。
「天使ちゃん!」
「マリアンヌちゃん!」
お母様と皇后陛下だ。私はなんとか顔を上げ2人を見ようとした。
「まぁ!」
2人の驚いたような声が聞こえた。
「大丈夫だ」
お父様の声だ。お父様の手が私の頬を撫でる。冷たいようなそれでいて温かい何かが頬に当たる。とても気持ちがいい。
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「大丈夫よ、天使ちゃん。そばについているから」
お母様の声だ。
「マリアンヌちゃんには私がついているわ」
皇后陛下の声もする。私は1人ではないんだ。誰かの手を強く握りしめた。
「リィ・・・」
殿下の声だろうか。側にいるのかな。確認できないまま、私はゆっくり眠りに落ちていった。
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