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リリアは薄ら笑いを浮かべて現れた。いつものように古ぼけた本を胸に抱き、当たり前のように騎士に話しかけた。
「ごきげんよう」
「どうしてここに?部屋から出ないように言いましたよね」
最初にリリアを見つけた騎士たちは驚いたが、なるべく穏やかな声を出した。相手は伯爵家の令嬢である。みだりに怒ってはいけないだろう。
『なぜここに?まさか自分に会いにきてくれたのだろうか?』
『自惚れるな、俺に会いに来てくれたに決まっているだろう』
リリアはいつものように目の前の騎士たちの会話を想像した。なぜか今日は本当に聞こえた気がした。いや、気がしたのではなく本当に聞こえたのだ。だからこれは真実で彼らは本当にそんな会話をしたのだ。
『殿下に会いに来たのか?』
『殿下に会わせたら彼女は殿下のものになってしまう。それだけは阻止したい。自分はリリア様のことが好きなのだ。殿下には敵わないけど、でもこの気持ちだけは真実だ』
分かっているわ、でもあなたの気持ちには応えられないの。だからリリアはとびっきりの笑顔で彼らを見る。
『リリア様、その笑顔を自分だけのものにしたかった。でもあなたには殿下が・・・』
『リリア様はなんてお優しい。でもその優しさは今の自分には毒のようなもの』
1人の騎士はそっと目を伏せた。もう1人の騎士は黙って下を向いた。リリアの気持ちは痛いほど分かっている。自分は選ばれないのだ。
リリアの笑顔を見た騎士たちは直視できずに目を逸らした。ただ人が笑っただけなのに、なぜこんなに恐怖を感じるのだろうか。彼らは早くリリアから逃れたかった。
「早く部屋に戻ってください」
「外出禁止令が出たのをご存知でしょう」
彼らはなんとか平静を装い、とにかく彼女が早くこの場から立ち去ることを望んでいた。
「私、殿下にお会いしに来たの。取り次いでくださらないかしら?」
しかしリリアは涼しい顔でこんなことを言い出した。なぜ取り次いでもらえると思っているのか。彼女の話し方はどこか芝居かかっているように聞こえる。まるでおばあさんが気取って話しているような、彼女の服装同様古臭い喋り方だ。やがて何人もの騎士がやってきた。
「いい加減にしてください」
「殿下がお会いになるわけないでしょう」
騎士たちの口調がずいぶん変わってきたのに、相変わらずリリアは微笑みながら
「今が大変な時だと分かっているんです。だからこそ殿下にお会いしないと」
などと言う。話がまるで通じない。
「なんでここにいるんだ!」
「外に出るなと言っただろう!」
やがて騎士たちは遠慮なくリリアを怒鳴りつけた。我慢の限界だった。貴族の令嬢がこんなふうに男に怒鳴られたら通常は恐怖を感じると思われる。しかし彼女は気にした様子もない。
『なんでここにいるんだ』
『外に出るなと言っただろう』
『殿下のものになるなんて許さない』
『絶対に殿下には会わせないぞ。君は僕のものなのだから』
彼らの心の声が聞こえた。でもリリアは諦められない。殿下こそがリリアの運命の相手だからだ。その時、リリアは気がついた。部屋の中で行われていること。
『私はリリアと結婚する。マリアンヌ、さっさと諦めて修道院にでも行ってくれ』
『殿下。私を選ばなかったら、リリアの命もどうなるかわからないわよ』
『卑怯だぞ、マリアンヌ。リリアに何をするつもりだ』
マリアンヌは殿下を脅し、レオポールやフランツにも言うことを聞かせようとしている。
殿下、レオポール様、フランツ様。私がお救いします。
「ごきげんよう」
「どうしてここに?部屋から出ないように言いましたよね」
最初にリリアを見つけた騎士たちは驚いたが、なるべく穏やかな声を出した。相手は伯爵家の令嬢である。みだりに怒ってはいけないだろう。
『なぜここに?まさか自分に会いにきてくれたのだろうか?』
『自惚れるな、俺に会いに来てくれたに決まっているだろう』
リリアはいつものように目の前の騎士たちの会話を想像した。なぜか今日は本当に聞こえた気がした。いや、気がしたのではなく本当に聞こえたのだ。だからこれは真実で彼らは本当にそんな会話をしたのだ。
『殿下に会いに来たのか?』
『殿下に会わせたら彼女は殿下のものになってしまう。それだけは阻止したい。自分はリリア様のことが好きなのだ。殿下には敵わないけど、でもこの気持ちだけは真実だ』
分かっているわ、でもあなたの気持ちには応えられないの。だからリリアはとびっきりの笑顔で彼らを見る。
『リリア様、その笑顔を自分だけのものにしたかった。でもあなたには殿下が・・・』
『リリア様はなんてお優しい。でもその優しさは今の自分には毒のようなもの』
1人の騎士はそっと目を伏せた。もう1人の騎士は黙って下を向いた。リリアの気持ちは痛いほど分かっている。自分は選ばれないのだ。
リリアの笑顔を見た騎士たちは直視できずに目を逸らした。ただ人が笑っただけなのに、なぜこんなに恐怖を感じるのだろうか。彼らは早くリリアから逃れたかった。
「早く部屋に戻ってください」
「外出禁止令が出たのをご存知でしょう」
彼らはなんとか平静を装い、とにかく彼女が早くこの場から立ち去ることを望んでいた。
「私、殿下にお会いしに来たの。取り次いでくださらないかしら?」
しかしリリアは涼しい顔でこんなことを言い出した。なぜ取り次いでもらえると思っているのか。彼女の話し方はどこか芝居かかっているように聞こえる。まるでおばあさんが気取って話しているような、彼女の服装同様古臭い喋り方だ。やがて何人もの騎士がやってきた。
「いい加減にしてください」
「殿下がお会いになるわけないでしょう」
騎士たちの口調がずいぶん変わってきたのに、相変わらずリリアは微笑みながら
「今が大変な時だと分かっているんです。だからこそ殿下にお会いしないと」
などと言う。話がまるで通じない。
「なんでここにいるんだ!」
「外に出るなと言っただろう!」
やがて騎士たちは遠慮なくリリアを怒鳴りつけた。我慢の限界だった。貴族の令嬢がこんなふうに男に怒鳴られたら通常は恐怖を感じると思われる。しかし彼女は気にした様子もない。
『なんでここにいるんだ』
『外に出るなと言っただろう』
『殿下のものになるなんて許さない』
『絶対に殿下には会わせないぞ。君は僕のものなのだから』
彼らの心の声が聞こえた。でもリリアは諦められない。殿下こそがリリアの運命の相手だからだ。その時、リリアは気がついた。部屋の中で行われていること。
『私はリリアと結婚する。マリアンヌ、さっさと諦めて修道院にでも行ってくれ』
『殿下。私を選ばなかったら、リリアの命もどうなるかわからないわよ』
『卑怯だぞ、マリアンヌ。リリアに何をするつもりだ』
マリアンヌは殿下を脅し、レオポールやフランツにも言うことを聞かせようとしている。
殿下、レオポール様、フランツ様。私がお救いします。
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