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騎士たちにエスコートされ、リリアは部屋まで戻ってきた。
「いいですか、絶対部屋から出ないでくださいね」
騎士に念押しされリリアはうなづく。
『はぁ、何で俺たちが』
『運が悪かったよな』
『明日には殿下のものになってしまうのだから、いっそ会わないままでいたかったよ』
『でも会えたおかげで幸せを祈ることができる・・・』
いつものように想像していると、リリアはついさっき魔物に会ったことは幻だったような気がしていた。それよりも殿下だ。殿下はいつプロポーズをしてくれるのだろう。マリアンヌは無事に公爵家を追い出されただろうか。いや、マリアンヌの前で殿下がプロポーズしてくれた方がいい。追いすがるマリアンヌに殿下がキッパリと通告するのだ。
「はぁ、なんで俺たちが」
「運が悪かったよな」
「虫干し中のアンティに出会うなんて」
若い騎士たちの間で、リリアはアンティと呼ばれていた。アンティとはアンティークが由来である。時代遅れのドレスに古ぼけた本を持つ令嬢。誰かが何代か前の姿絵のようだ、と言い出したのがきっかけである。そして彼女が庭園のベンチに座る姿を虫干しと呼んでいた。
「本当に神出鬼没だよな」
「そういえば、殿下も危うく出くわすところだったらしい。関係者以外侵入禁止なのに堂々と入ってきたそうだ」
「はぁぁ、迷惑だよなぁ」
彼らはそう言いながら持ち場に戻ろうと歩いていた。しかし突然何かを感じ、2人はほとんど同時に振り返った。見えたのは窓辺に立つリリアの姿。リリアは彼らを見ているようだった。表情は見えない。しかし彼女が笑っているとわかった。
瞬間、2人は同時に走り出した。一刻も早くその場から立ち去りたかった。全身の血が逆流したような気持ちの悪さを感じていた。
しばらく走り続け、2人はようやく止まった。
「なぁ、なんか変じゃなかったか?」
「あぁ、アンティが・・・笑ってた・・・」
理由はわからない。彼女が笑っていたら何が変なのだろうか。いや、笑っていたかどうか実際にはわからない。なのに笑っていたとわかり、そしてそれがとてつもなく恐怖を感じたのだ。2人同時で。
「気にするのはやめよう」
「そうだな」
2人は何もなかったことにし、任務に戻った。
殿下がリリアにプロポーズをし、リリアはサーキス家の養女になった。レオポールとフランツはリリアの兄となる。それを不服と思ったマリアンヌは常にリリアを虐めていた。リリアの食事に虫を入れたり、リリアの靴に針を仕込んだり、ならず者を雇ってリリアの乗る馬車を襲わせたり、階段が滑るようにしてリリアを落とそうとしたり、リリアのドレスが店から届かないようにしたり。とにかく悪質なことをするのだが、全てレオポールやフランツによって阻止される。そしてマリアンヌは追放され魔獣が住む暗黒の森に送られる。そしてリリアは殿下と結婚するのだ。
そんな想像をリリアは楽しんでいた。今一番楽しい想像は、マリアンヌが断罪される場面である。彼女は惨めに泣き叫びながらも罪を認めない。それをレオポールやフランツが罵るのだ。想像をしていると、それが本当のような気がしてくる。
『いつもこの本を読んでいるね、どの話がおすすめ?』
殿下に問われ、リリアは3番目の小説と答える。本はいくつかの短編小説で構成されている。
『主人公の気持ちの移り変わりが見事で感銘を受けましたわ』
リリアはそう言って目を瞑り、ほおっと息を吐く。その仕草は何度も練習をした。まるで目の前に殿下がいるように。
ちなみに3番目の小説は、ある身分の高い若い男性が叔父と「恋愛」を楽しむという話である。当初はそのつもりもなかった主人公が徐々に叔父との「恋愛」に身を任せていく様がかなり過激で際どい、と当時好事家の間で評判になった。読んでいないリリアはそのことを知らない。
リリアは本を胸に抱きしめ、殿下を思い浮かべる。リリアの中の殿下はいつもリリアに微笑んでくれる。
そうだ、殿下に会いに行こう。
殿下は今魔物討伐で忙しい思いをしているはずだ。きっとリリアに会いたいと思っているはずだ。魔物討伐で疲弊している殿下を守れるのはリリアだけのはずである。
待っていてください、殿下。
リリアは誰もいないのに微笑んだ。
「いいですか、絶対部屋から出ないでくださいね」
騎士に念押しされリリアはうなづく。
『はぁ、何で俺たちが』
『運が悪かったよな』
『明日には殿下のものになってしまうのだから、いっそ会わないままでいたかったよ』
『でも会えたおかげで幸せを祈ることができる・・・』
いつものように想像していると、リリアはついさっき魔物に会ったことは幻だったような気がしていた。それよりも殿下だ。殿下はいつプロポーズをしてくれるのだろう。マリアンヌは無事に公爵家を追い出されただろうか。いや、マリアンヌの前で殿下がプロポーズしてくれた方がいい。追いすがるマリアンヌに殿下がキッパリと通告するのだ。
「はぁ、なんで俺たちが」
「運が悪かったよな」
「虫干し中のアンティに出会うなんて」
若い騎士たちの間で、リリアはアンティと呼ばれていた。アンティとはアンティークが由来である。時代遅れのドレスに古ぼけた本を持つ令嬢。誰かが何代か前の姿絵のようだ、と言い出したのがきっかけである。そして彼女が庭園のベンチに座る姿を虫干しと呼んでいた。
「本当に神出鬼没だよな」
「そういえば、殿下も危うく出くわすところだったらしい。関係者以外侵入禁止なのに堂々と入ってきたそうだ」
「はぁぁ、迷惑だよなぁ」
彼らはそう言いながら持ち場に戻ろうと歩いていた。しかし突然何かを感じ、2人はほとんど同時に振り返った。見えたのは窓辺に立つリリアの姿。リリアは彼らを見ているようだった。表情は見えない。しかし彼女が笑っているとわかった。
瞬間、2人は同時に走り出した。一刻も早くその場から立ち去りたかった。全身の血が逆流したような気持ちの悪さを感じていた。
しばらく走り続け、2人はようやく止まった。
「なぁ、なんか変じゃなかったか?」
「あぁ、アンティが・・・笑ってた・・・」
理由はわからない。彼女が笑っていたら何が変なのだろうか。いや、笑っていたかどうか実際にはわからない。なのに笑っていたとわかり、そしてそれがとてつもなく恐怖を感じたのだ。2人同時で。
「気にするのはやめよう」
「そうだな」
2人は何もなかったことにし、任務に戻った。
殿下がリリアにプロポーズをし、リリアはサーキス家の養女になった。レオポールとフランツはリリアの兄となる。それを不服と思ったマリアンヌは常にリリアを虐めていた。リリアの食事に虫を入れたり、リリアの靴に針を仕込んだり、ならず者を雇ってリリアの乗る馬車を襲わせたり、階段が滑るようにしてリリアを落とそうとしたり、リリアのドレスが店から届かないようにしたり。とにかく悪質なことをするのだが、全てレオポールやフランツによって阻止される。そしてマリアンヌは追放され魔獣が住む暗黒の森に送られる。そしてリリアは殿下と結婚するのだ。
そんな想像をリリアは楽しんでいた。今一番楽しい想像は、マリアンヌが断罪される場面である。彼女は惨めに泣き叫びながらも罪を認めない。それをレオポールやフランツが罵るのだ。想像をしていると、それが本当のような気がしてくる。
『いつもこの本を読んでいるね、どの話がおすすめ?』
殿下に問われ、リリアは3番目の小説と答える。本はいくつかの短編小説で構成されている。
『主人公の気持ちの移り変わりが見事で感銘を受けましたわ』
リリアはそう言って目を瞑り、ほおっと息を吐く。その仕草は何度も練習をした。まるで目の前に殿下がいるように。
ちなみに3番目の小説は、ある身分の高い若い男性が叔父と「恋愛」を楽しむという話である。当初はそのつもりもなかった主人公が徐々に叔父との「恋愛」に身を任せていく様がかなり過激で際どい、と当時好事家の間で評判になった。読んでいないリリアはそのことを知らない。
リリアは本を胸に抱きしめ、殿下を思い浮かべる。リリアの中の殿下はいつもリリアに微笑んでくれる。
そうだ、殿下に会いに行こう。
殿下は今魔物討伐で忙しい思いをしているはずだ。きっとリリアに会いたいと思っているはずだ。魔物討伐で疲弊している殿下を守れるのはリリアだけのはずである。
待っていてください、殿下。
リリアは誰もいないのに微笑んだ。
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