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しおりを挟む気がついたら、リリアは知らない場所にいた。こんな場所はあっただろうか。庭園の一部だと思うが、どこだかわからなかった。見つけたベンチに腰を下ろす。
マリアンヌが城にいたということは、もしかしたら彼女が殿下の婚約者として決定したのだろうか。いや、もしかしたら殿下はマリアンヌを断るためにわざわざ呼んだのかもしれない。お茶会も自分の味方を増やすため。ひょっとしたら、あのお菓子に毒を仕込んでリリアに渡すのが目的かもしれない。
そうだ、マリアンヌは公爵家の令嬢。断るにしても礼儀を尽くさなくてはならない。自分が選ばれるのは決定しているのだ。焦らなくても大丈夫。リリアはいつものように本を開いた。
今日は後ろの方のページにしよう。リリアは開いたページに目を落とす。いつものように文字を読まずにただ眺めるだけ。しかし、今日は何かが違う気がする。文字がいつもより濃く、浮かび上がったように見える。目の焦点がうまくあっていない感じなので、リリアは瞬きをした。
しかし文字は浮かび上がって見える。リリアはその言葉を口に出した。何の意味もない言葉のはずだった。
空気が急に冷たくなった。陽が差していたはずだったのに暗くなる。雨でも降るのだろうか。リリアは天を見上げようとして異変に気がついた。何かがおかしい。その何かがわからないが、動かすこともできないくらいに体が硬くなっている。ゾワゾワする気持ちの悪い感覚。
無理矢理に体を動かし、ようやくリリアは天を見ることができた。そこには太陽を覆い隠す何かがあった。大きな黒い何か。それが魔物だとわかるまでどのくらいの時間がかかっただろう。それは一つの大きな魔物ではなく、たくさんの大きな魔物だった。それらが空から近づいてくる。
魔物はすぐ近くまで来ている。自分はやられてしまうだろう。恐怖でリリアは動けなかった。しかし。
何か音がしたかもしれない。気がつけば魔物はいなくなっていた。暗かったはずだが、今はもう太陽の光が自分に降り注がれていた。夢だった?リリアは自分を抱きしめた。自分の腕は冷たく鳥肌がたったままだった。
リリアは膝の上に置いていた本に目を戻した。白紙だった。確かに文字が書かれていて、その文字が濃く浮かび上がったのを見たはずだ。だが今は白紙になっている。
「こんなところに!」
「避難しますよ、急いでください!」
騎士たちが慌ただしく走ってくる。
「魔物がまた出ました。至急避難してください!」
やはり魔物は現れていたのだ。リリアは本を手にすると立ち上がった。
『今の時間、リィは日課の散歩と読書だ。早く連れ戻してくれ!』
『殿下、騎士が向かっています。落ち着いてください』
『うるさい!マリアンヌなんか無視して早くリィを城に呼べばよかったんだ』
婚約はリリアとすること、マリアンヌは公爵家から除籍され国外追放になること。それを知ったマリアンヌが泣き叫び暴れ出したので殿下はその処理で追われていた。気づけば魔物が現れ、愛しのリリアが危険になってしまった。。。
ついさっき魔物の襲来を目の当たりにしたはずだが、リリアはすっかり忘れてしまった。そしていつものように想像を始め、口元をニヤつかせている。
「いくら騎士とはいえ、こんな貧乏くじ引きたくなかったよ」
「あのドレス、骨董市で手に入れたのか?程度が悪すぎるだろう」
騎士たちはリリアを誘導しながら小さな声で話している。その様子もリリアは自分に都合よく解釈し、より一層想像を深めていくのであった。
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