美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

文字の大きさ
上 下
104 / 220

104

しおりを挟む

 朝からリリアは落ち着かず、部屋の中をウロウロと歩き回っていた。ついに殿下がリリアにプロポーズをするのだ。落ち着いていられるわけがない。しかし、リリアは落ち着かなくてはならない。殿下の思いに気づいていたと悟られてはいけないのだ。

 ドアがノックされ王宮からの使いの人が来る。
『リリア・マロウ様ですね』
 ドアを開けると若い使いの男性は顔を赤らめながら尋ねる。
『殿下からお連れするようにと言いつかりました』
『殿下?どうしてですか?』
 リリアが質問しても彼らは何も答えない。リリアは彼らに従い後をついていく。
『ついに殿下のものになってしまうのか』
『あぁ、残念だが仕方ない。しかし本当に清楚なお方だ。アレとは大違いだ』
『比べものにならないだろう。天下の悪女 マリアンヌとは』

 リリアはそんな想像をし、気持ちを落ち着かせる。想像は進み、城の中に入るのだが見たことがないので朧げなことしか思い浮かばない。その後殿下のプロポーズを阻止しようとマリアンヌがリリアを襲おうとする。そこに現れるのがレオポールとフランツだ。彼らは妹であるマリアンヌを叩き蹴飛ばし剣を突きつける。
『お兄様、ひどい』
『ひどいのはお前だろう』
『そうだ、お前なんか妹ではない』

 そこまで想像し、リリアは立ち上がった。窓の外を見ても何も変化はない。城から使いの人が来る様子もない。今度は鏡に映る自分を見る。

 今彼女が着ているドレスは、母が昔着ていたものだ。当時でもそれほど高いものではなく、保存状態もいいわけではなかったので色褪せている。デザインも古臭く、野暮ったい。おまけにサイズも合っていないのだが、彼女は【清楚で慎み深い】と思われると信じていた。

 今日は来ないのだろうか。もしかしたら、リリアがいつものように庭で読書をしていると思って探し回っているかもしれない。そう思うと、リリアは例の本を持ち外に出ることにした。

 外に出ると、いつものように令嬢たちが集まって騒いでいた。相変わらずうるさい連中だ。彼女は眉間に皺を寄せる。今日は令嬢だけではなく、その母親たちも集っている。

「リリア様、ごきげんよう」

 彼女たちがリリアを見つけ挨拶をしてくる。彼女の姿を見てギョッとした顔をしたが、それは一瞬のことだったのでリリアは気にしなかった。古いドレスを着ている自分を嘲りたいのだろう。すると殿下が言うのだ。『彼女の慎み深さ、思慮深さこそが私の求めていたものなのだ』。この言葉だけのために彼女は古いドレスを着ているのだ。

「先ほど、マリアンヌ様とお茶会をしてきたのです」
「本当にお優しくてお綺麗な方でしたわ」
「皆様へとお菓子を持たせてくださったのです。どうぞ」

 差し出されたお菓子は見たことがないものだった。お茶会?なぜ私は呼ばれなかった?そうか、私が殿下に選ばれると知って焦ったのだ。せいぜい私に意地悪をしなさい。すればするほど、殿下は私を愛しマリアンヌは排除されるのだから。

「お城の中に入ったのは初めてだったから緊張しましたわ」
「私も。でもマリアンヌ様にお会いしたら、緊張もなくなりました」
「私も」

 今なんて言った?お城の中?お茶会はお城で行われた?マリアンヌもお城?まさか。

 目の前が真っ暗になった。周りの声が遠くに聞こえる。リリアはゆっくり歩き出していた。これは自分の足だろうか。右足と左足が交互に動いて前に進んでいく。普段考えたことがないことをリリアはぼんやり考えていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。 異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。 持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。 これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

処理中です...