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しおりを挟むリリア・マロウ伯爵令嬢。彼女は魔獣に屋敷を壊され避難してきた。毎日のように警備にあたる近衛騎士から報告が上がる、今一番の要注意人物であった。
毎日彼女は庭園の中を歩き回り、ベンチに座って本を開く。だが本を読んでいる訳ではなく、ただ開いているだけという。反王政派が何かを企てているのでは、と話題になり騎士たちは緊張しつつ彼女を監視していた。
「とにかく気持ち悪いです。たまにニマーと笑みを浮かべたり」
「やけにこっちの目を見て挨拶をしてきたりします」
「それにあの本・・・」
リリアが装丁を気に入り小道具として愛用しているあの本は、ある秘密があった。
「男同士の恋愛なんて、面白いのかね」
報告を聞いたドミニクは呆れたように言った。数十年前、作者不明のあの本は貴族界でかなりの大金で取引された幻の本であった。内容は、男性同士のかなり激しい恋愛のやり取りや加虐趣味のある人物の話など。つまりは表立って読むのを躊躇われるような内容の本である。婉曲的で比喩的表現を多用していることから文学に革命をもたらしたなどと言う者もあったが、結局は一部の好事家が好んだだけと思われた。
一般的にはそういったことになっている。しかし実はあの本は当時の反王政派が資金集めに利用していたという話もあった。その中心人物がマロウ伯爵。リリアの祖父である。だが彼が急死したため、真相はわからない。反王政派がいるかどうかも活動を行うつもりかどうかも定かではない。
そんななか、孫であるリリアがあの本を持ち王城内の庭園を歩き回る。まさかここに来て反王政派の仲間と連絡を取ろうとしているのか?近衛だけではなくドミニク率いる騎士団も集まり、対策を立てることになった。王子の婚約を機に彼らは活動を再開しようとしている。彼らはそう思っていた。リリアが自分にそんな疑いをかけられていて、毎日さりげなく騎士が監視していたことに気づいていない。
『この人が殿下の思いびとか・・・』
『こら、余計なことを考えるなよ。我々には高嶺の花なんだ。思っても報われないだけさ』
リリアは目の前にいる騎士が小声でそんなことを言い合う様子を想像して楽しんでいた。それに今日は大きな収穫があった。立ち入り禁止の柵を乗り越えた甲斐があったというものだ。
殿下は確かにあの場所でプロポーズをすると言った。しかもリィと自分の名前を呼んだのだ。彼は自分のことを愛称でリィと呼んでくれた。自分のことをかなり愛してくれているのだ、とリリアは盛大に勘違いをしていた。そして当たり前のようにニンマリと微笑む。その顔を見て騎士たちが震え上がっているのを、リリアはまたまた勘違いをする。
『あの微笑み、自分に向けてくれたのか。なんてお優しい女神様か?』
『勘違いするなよ、あの微笑みは俺に向けてくれたものだ』
『この方にお仕えできるのか、近衛になってよかったな』
震えているのを照れていると勘違いするリリアは、騎士に促されて一般向けの庭園に戻ってきた。内緒にするはずが本人に見られて殿下はバツが悪い思いをされているだろう。そう思い、素早く戻ったのだ。
「とにかく、十分注意をするように」
ドミニクの合図で近衛も騎士団も姿勢を整え緊張を高めた。普段はいがみ合う間柄だが、マリアンヌを守るという目的は同じだった。レオポールは屋敷より城の方がマリアンヌは安全かもしれないと考えるのであった。
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