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しおりを挟む王族の配偶者は、公爵か侯爵、もしくは他国の王族とされている。複数人の候補者から選別されるが、候補者がいない場合はどうなるか。伯爵か子爵から候補者を探し、公爵家か侯爵家に養子に出すのである。この国では前例がないが、他国ではよくあることらしい。
そんな話をリリアは以前父から聞いた。もしかしたらお前も候補になれたかもな、そう言って父は笑った。マリアンヌ嬢が誕生したからそんなことにはならないけど、と続けたのだが、リリアの耳には入っていなかった。
私はいずれ公爵家の養女になる。そして婚約者候補となり、殿下に選んでもらえる。彼女はそう思い込んでいた。しかも公爵家はいくつかあるのだが、何故か彼女はサーキス家の養女になると思っている。
『兄上、今日もリリアの隣に座りましたね、今日は僕の番でしょう』
『フランツ、リリアは僕が好きなのだよ』
2人の兄が自分を取り合い喧嘩が始まる。
『やめてください、兄様。私はお二人とも好きですわ』
『リリア、なんて可愛いんだ』
『そうだな、殿下には渡したくないな』
そんな想像をしてリリアはうっとりとする。
『それにくらべて』
『そうだな』
2人の視線の先にはマリアンヌがいる。
『何でこの家にお前なんかがいるんだ』
『そうだ、汚らわしい。さっさと出ていけばいいのに』
『兄様、マリアンヌをいじめないで。妹じゃないですか』
『何を言っているんだ、僕たちの妹はリリア、お前だけだよ』
『そうだよ、リリア。あっちへ行こう』
ベンチに座り本を広げたまま、リリアはそんなふうに想像を楽しんでいた。子供の頃、リリアの両親はほとんど家に戻らず遊び回っていた。リリアは使用人に育てられたようなもので、ほとんど放置されていた。そのため1人の時間を埋めるために色々と想像して楽しむようになったのだった。
最初は両親と食事を楽しむことやドレスやおもちゃを買ってもらうといった、現実に近い想像だった。しかしそのうちに現実から遠く外れた想像をするようになる。頭の中で楽しむだけなら問題はない。だがサーキス家の養女となりいずれ殿下と結婚するという想像をしているうちに、彼女の中ではそれが現実になるはずだと思うようになった。
現実にならないのは、マリアンヌが自分をサーキス家の養女にしないようにしているからである。彼女がいなければレオポールやフランツの寵愛を受けるのは自分である。リリアの中ではマリアンヌは自分のポジションを奪っている極悪非道な女であった。
リリアはマリアンヌが婚約者に内定したことを知らない。
『私と将来を共にするのは、リリア、君だ』
殿下はリリアに向かいてを差し伸べる。その手をリリアが取ろうとすると
『ふざけないで!殿下の婚約者は私よっ!』
マリアンヌが飛び出し、リリアを突き飛ばす。
『こんな女!』
突き飛ばされ倒れたリリアをなおも傷つけようと、マリアンヌが蹴ろうとする。そんな彼女に剣を突きつけるレオポール。
『なんて女だ』
リリアを優しく助け起こすのはフランツだ。
『だからこんな女、さっさと修道院にでもやって除籍すればよかったのに』
冷たい目で殿下が言う。
『申し訳ございません。ですが、そんなことをすればリリアに危害を与えると脅されていて・・・』
『何?マリアンヌは絞首刑だ』
リリアの想像はその後も続く。その顔はとても物静かで清楚な貴族の顔とは程遠いのだが、通りかかる騎士が怯えていることなど夢中になっているリリアは気づかないのだった。
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