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「殿下、今後は先触れをお出しください」
殿下がお帰りになる、とわかりお母様とフランツお兄様が見送りに現れた。お母様は笑顔だが目が笑っていない。おそらく、いやきっとお母様はご立腹である。それもかなりである。
「先触れならレオポールに託したぞ」
ケロリと殿下は言う。
「先触れとは、前もって出すものです。決して、先触れの馬の後ろをついていくものではありません」
レオポール兄様の顔に青筋が出ていた。
「馬車に追いかけられる身にもなってください」
「は?馬車に勝てない程度の馬術なのか、騎士団の副団長なのに」
全力疾走する馬の後ろから同スピードで走る馬車。危険ではないか。中には王族が乗っているのだ。御者の方と馬さんには何か褒美を出してほしい。
「婚約者に会いに行くのに先触れは必要なのか?」
厳密にはまだ婚約していないから婚約内定者じゃないのかな。
「女性には支度というものがあるのです。男性に最高の自分を見てほしいと思うものですから」
静かに穏やかにお母様は話すけど、目つきは険しい。ピキーンとした緊張感が漂っている。
「いや?リイはいつだって最高だし?」
すでに愛称で呼んでいることに気がついたのか、リイのところでお母様とフランツ兄様の顔つきが変わった。簡単に愛称呼びを許したのは良くないのだろうか。ふしだらな、とか言われないよね。
というか私の今の格好、メイドが着るようなシンプルなワンピースだ。髪も適当にシュシュでまとめているだけ。こんな格好で婚約者予定の一国の王子と対面したのか。今更ながら恥ずかしくなった。
「服装で飾り立てる必要はないだろう。なんなら寝起きの姿でもリイは問題ないし」
「殿下!」
フランツ兄様に耳を押さえられた。寝起きって、やばくない?わかって言ってるのかな、殿下は。
「と、に、か、く!」
お母様がその後何か言っているのはわかったが、何を言っているかわからなくなった。私はフランツ兄様に耳を押さえられたままだからだ。でも周りの様子から殿下は相当怒られているように見えた。
「わかった、もうわかったから」
フランツ兄様の手が私の耳から離れた。それでも殿下はにこやかに言った。
「では、リイに城に来てもらうのはどうだろう?」
へ?何故行かなくてはならないのだろう。何しに?オセロ?
「そうだ、宰相と一緒に来てくれたら問題解決だ!」
何が問題なのかわからない。殿下はこれ以上ない名案を閃いたとばかりに嬉しそうである。
「リイ、どうだろう?」
突然私の意見を聞かれた。お母様もお兄様たちも私をじっと見る。何を言えばいいか?正解はどれだ?私に意見を聞かないで~と汗が出そうになる。
「お、お父様の意見に従います!」
やむなく私は答えた。丸投げしてしまえ。お母様もお兄様たちも安心したような顔である。よかった、これが正解らしい。
「わかった」
素直に殿下はうなづいた。お父様ならなんとかしてくれるだろう。殿下も馬車に向かおうとしたので、帰ってくれるらしい。
「あっ!マリアンヌ嬢」
帰る気満々だったはずのアレンが急に振り向いて言った。
「近衛にも何か料理をお願いします!」
了承しないと帰ってくれなそうなので、私はうなづいた。
「ではそれを持って近く登城くださいね。待っています。待っていますからね!」
アレンは何度も私に言い、ようやく馬車は動き出したのだった。疲れた。もう1杯コーヒーを飲もう。
殿下がお帰りになる、とわかりお母様とフランツお兄様が見送りに現れた。お母様は笑顔だが目が笑っていない。おそらく、いやきっとお母様はご立腹である。それもかなりである。
「先触れならレオポールに託したぞ」
ケロリと殿下は言う。
「先触れとは、前もって出すものです。決して、先触れの馬の後ろをついていくものではありません」
レオポール兄様の顔に青筋が出ていた。
「馬車に追いかけられる身にもなってください」
「は?馬車に勝てない程度の馬術なのか、騎士団の副団長なのに」
全力疾走する馬の後ろから同スピードで走る馬車。危険ではないか。中には王族が乗っているのだ。御者の方と馬さんには何か褒美を出してほしい。
「婚約者に会いに行くのに先触れは必要なのか?」
厳密にはまだ婚約していないから婚約内定者じゃないのかな。
「女性には支度というものがあるのです。男性に最高の自分を見てほしいと思うものですから」
静かに穏やかにお母様は話すけど、目つきは険しい。ピキーンとした緊張感が漂っている。
「いや?リイはいつだって最高だし?」
すでに愛称で呼んでいることに気がついたのか、リイのところでお母様とフランツ兄様の顔つきが変わった。簡単に愛称呼びを許したのは良くないのだろうか。ふしだらな、とか言われないよね。
というか私の今の格好、メイドが着るようなシンプルなワンピースだ。髪も適当にシュシュでまとめているだけ。こんな格好で婚約者予定の一国の王子と対面したのか。今更ながら恥ずかしくなった。
「服装で飾り立てる必要はないだろう。なんなら寝起きの姿でもリイは問題ないし」
「殿下!」
フランツ兄様に耳を押さえられた。寝起きって、やばくない?わかって言ってるのかな、殿下は。
「と、に、か、く!」
お母様がその後何か言っているのはわかったが、何を言っているかわからなくなった。私はフランツ兄様に耳を押さえられたままだからだ。でも周りの様子から殿下は相当怒られているように見えた。
「わかった、もうわかったから」
フランツ兄様の手が私の耳から離れた。それでも殿下はにこやかに言った。
「では、リイに城に来てもらうのはどうだろう?」
へ?何故行かなくてはならないのだろう。何しに?オセロ?
「そうだ、宰相と一緒に来てくれたら問題解決だ!」
何が問題なのかわからない。殿下はこれ以上ない名案を閃いたとばかりに嬉しそうである。
「リイ、どうだろう?」
突然私の意見を聞かれた。お母様もお兄様たちも私をじっと見る。何を言えばいいか?正解はどれだ?私に意見を聞かないで~と汗が出そうになる。
「お、お父様の意見に従います!」
やむなく私は答えた。丸投げしてしまえ。お母様もお兄様たちも安心したような顔である。よかった、これが正解らしい。
「わかった」
素直に殿下はうなづいた。お父様ならなんとかしてくれるだろう。殿下も馬車に向かおうとしたので、帰ってくれるらしい。
「あっ!マリアンヌ嬢」
帰る気満々だったはずのアレンが急に振り向いて言った。
「近衛にも何か料理をお願いします!」
了承しないと帰ってくれなそうなので、私はうなづいた。
「ではそれを持って近く登城くださいね。待っています。待っていますからね!」
アレンは何度も私に言い、ようやく馬車は動き出したのだった。疲れた。もう1杯コーヒーを飲もう。
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