美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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 正式な婚約発表は数日後に行われるそうだ。お父様とレオポールお兄様は慌ただしくお城に帰っていった。私はお母様、フランツ兄様と部屋に残り、入れ直してもらったお茶を飲んでいた。

 私はぼんやりとこの世界のことを考えていた。マリアンヌは12歳、アルバート王子は15歳。日本で生活していた時、12歳は子どもだったし結婚なんて空想上のものだった。実際のところ、32歳になっても結婚は空想のものではあったけど。

 簡単に婚約、結婚なんていっているが、相手は一国の王子。将来は国王になるであろう。そうすると結婚している私は皇后となる。大丈夫なのだろうか。

「マリアンヌ、ドレスを作らないとね」

 ぼんやりしている私を気遣っているのか、お母様を見るとにっこりと微笑んでいた。しかしすぐに視線を私の服装に向けた。料理をするので今日も地味めなワンピースに袖はシュシュで捲っている。

「マリは何でも似合うだろうけど、これぞ公爵家ってところを見せないとね」

 フランツ兄様はニコニコと笑って私の頭を撫でてくれる。しかしこの服装を絶対奇妙に思っているだろう。公爵家の令嬢の服装とは思えないくらいに地味。財力があるのにこんなに地味な服装では威厳が保てないのだろうか。お金を使うことも必要だろうし。

「そのドレスの腕のところはどうなっているの?」

 お母様は私の腕の辺りを見ている。私は袖についていたシュシュを外した。肘まで上がっていたドレスの袖が手首まで下がる。

「何?これ・・・」

 お母様は呆然とした様子だった。袖を捲るという行為はこの世界では下働きの下女がやるようなことだ。火を使うのでピラピラした袖は危険なので私は捲っていたが、本来キッチンから出るときは下ろすべきなのだ。お父様やレオポールお兄様があまりそういうことを言わなかったので気づかなかったのだが、お母様ははしたないと思っているのかもしれない。

「ノートル様が伸び縮みするヒモを作られたので、余っていた布で作ってもらいました。とても便利なんです」

 お母様は恐る恐るシュシュを手に取るとビヨーンと伸ばしたり、自分の袖につけてみたりしている。やがて、私を見ると興奮したように言った。

「すごいわ」

 お母様の頬が赤く染まっている。綺麗な上に色っぽい。女で娘である私でもゾワゾワしてしまう。お母様、魔性の女?

「ステファニー様にもそうおっしゃって頂いて、売り出すべきと・・・」

 ドキドキが止まらず、私は小声になってしまった。

「何ですって?」

 お母様は驚くほど大声で言った後、勢いよく立ち上がった。

「すぐにステファニーを呼んでちょうだい」

 部屋の隅で控えていたマーサがその勢いに駆け出した。足が悪いはずだが大丈夫なのだろうか。すぐにステファニー様がやってきた。

「まあ、お戻りになっていたとは知らずご挨拶が遅れ、大変申し訳ございません」

 ステファニー様は青い顔をし、丁寧に頭を下げている。屋敷に避難している身でありながら、その家の女主人が戻っているのに挨拶をしないなどもってのほか。ステファニー様の具合がまた悪くならなければいいけど。私はハラハラしながら様子を見ていた。まさか、お母様、ご立腹ではないよね。

「いいのよ、そんなこと。それより」

 お母様はステファニー様の挨拶も切り上げさせ、シュシュを見せた。

「これを商品化するって?」

 お母様の勢いが怖い。あれはハギレで作ったものだ。あんなものが売れるとは思えない。やめなさいと止めるつもりなのだろう。

「はい、今そのつもりで宰相様のご判断をいただこうと思って準備をしておりましたの」
「私が請け負うわ」

 見るとお母様の目が輝いている。

「まあ、そうしていただけると」
「ノートル、ですわね。確かレオポールのところの。会って専売契約をしないと」

 お母様が紙とペンを取り出し、何やらメモをし出した。

「これはすごいわ。袖を上げるだけでイメージが変わる」
「綺麗な布地で作れば貴族の子ども用にもできますわ」
「いいわね」

 お母様とステファニー様の勢いが増してきた。2人の笑顔がだんだんドス黒く見えてくる。

「忙しくなるわよ」
「宜しいですわ」

 私はなぜか会社員時代の残業時を思い出したのだった。


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