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しおりを挟む光り出した宝石を手にスティラート公爵はニヤリと笑う。ジュリアもニヤニヤと笑っている。
「我の言うことだけを聞くのだ!」
低めの声で公爵は言う。まるで芝居のように気取った声を出している。
急に手を誰かに取られた。アルバート王子が私を自身の後ろに引き寄せる。目の前のお父様がその様子を見て、少しだけ瞳が泳いだ。だがすぐに王子の前に立つ。おかげで公爵の様子が見えなくなった。
「あー、はいはい」
「立派な宝石デスネー」
魔法省の人の声が聞こえてきた。
「な、何?何故言うことを聞かないのだ」
公爵の焦る声。
「わ、我の言うことを聞くのだ!」
「あー、今悪魔の術を使っちゃってますねー」
「言い逃れできませんねー、現行犯ですねー」
公爵をからかっているような声が聞こえてくる。
「お、お前たち。私は公爵だぞ。平民風情が偉そうに」
公爵と魔法省の人たちの声の合間に聞こえてくるのは、女性の甲高い声。
「あんたたち。私を何だと思ってるのよー」
「近づくんじゃないわよ」
「聖女の私に逆らったらどうなるかわかってるの?」
そんな声がだんだん遠ざかっていく。おそらく拘束されて連れていかれたのだろう。結局、私には何も見えなかった。
「陛下の御前で悪魔の術とは」
「全く、呆れました」
陛下を見ると、どこか楽しそうな様子で笑顔を見せている。私は見られなかったのだが、きっと面白いことになっていたのかもしれない。公爵の声は必死だったから、きっとあの宝石を掲げて何度も叫んだのだろう。
「だが、悪魔の術は何故効かなかったのだ?」
「それはおそらく、マリアンヌ嬢の料理のおかげと思います」
え?私?お父様の体が動いたので、みんなの様子がようやく見えた。そこに残っていたのは、陛下、ドミニク様、お父様にゲルリー、そしてアルバート王子。魔法省の人たちはいなくなっていた。
「マリアンヌ嬢の料理を食べると魔力がみなぎるのです。魔法省の者たちにも惜しみなく与えてくださったおかげで、あの悪魔の力に負けることはなかった。この場には一時的ですが、結界が張られたのです」
ゲルリーの説明に私は驚いた。私の料理にそんな力があるわけがない。
「それでは、マリアンヌ嬢の料理をもっと魔法省内で振舞ってもらえれば、王都の結界も張ることができると?」
いやいやいや、そんな簡単にできるわけないでしょう。
「そうです。まずはこの宝石から悪魔の力を取り除きましょう」
ゲルリーの手には公爵が持っていたはずの悪魔の宝石があった。公爵から取り上げたのだろう。手のひらほどの大きな宝石は怪しく光っている。
「そ、それ。持ってて大丈夫ですか?」
怖くなって私は聞いた。さっきまで公爵が持っていた悪魔の術に使った宝石である。我の言うことを聞けーとゲルリーが言ったら、みんなゲルリーのいうことを聞いちゃうかもしれないではないか?
「大丈夫ですよ。私が力を今抑えています」
にこやかにゲルリーが言うが、油断はできない。
「私の料理で魔力が増えるとは思えませんが、とりあえず料理はご用意します」
私はそう言うと、早速バスケットの中に手を突っ込んだのだった。
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