美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

56

「うん、美味しいよ。マリアンヌ」

　お父様と昼食。今日はお父様と2人きりだ。お父様は先ほどから何度もいかに昼食が美味しいかを興奮気味に語ってくれている。私はチラリとお父様を見るが、すぐに視線を逸らす。

「あ、ありがとうございます」

　お礼を言いながらも、やはり無理だと思う。お父様はナポリタンを食べ、口の周りがオレンジ色になっている。ものすごいイケメンのお父様の唇がオレンジ色。それがすごく可愛らしく、私はまともに見られない。見たら絶対吹き出す。

　しかしお父様は気づいていないようである。

「やはり女神の加護を受けたマリアンヌの料理は最高だな」

　食べ終わったお父様はようやく口をナフキンで拭う。ナフキンがオレンジに染まった。この世界に漂白剤はないから落ちないだろうな、と思う。が、もしかしたら女神様が出してくれるかもしれない。

　食事をコピーする機械など、女神様はどういう神経をしているのかわからない。食事からこの世界に活力を、と何かのキャッチコピーみたいに言っていた。必要なものはなんでも用意してくれるみたいだったから、醤油や味噌もあるのだろう。

　なんだか安心した。お金を気にせず作りたいものを作ればいいのである。量を作るのもコピー機があるので大丈夫。一つ作ったらそれがいくらにでも増える。そしてそれを喜んで食べてくれる人がいる。

　とにかく料理だけしていればいいのである。何も考えず作りたいものを作りたいだけ作る。考えてみたら、私もこの世界で満足している。

「鑑定はすぐ終わるから」

　お父様の言葉に思い出した。食事が終わったら魔法省に行って鑑定があるのだ。女神の加護は確実だから安心ではある。だが、ジュリアの鑑定も一緒だろうか。まさか同時ではないと思うが、顔を合わしたくない。

「加護があると分かったら、何かあるのでしょうか」
「陛下から正式に認定される。認定式用にドレスを作らないとな」

　ドレス！そんな面倒なものはどうでもいいのだけど、おそらくそんなわけにはいかない。

「お嬢様、そろそろお支度を」

　メアリとマーサがいつの間にか部屋の隅で待機していた。よく考えたら、マリアンヌになって初めて屋敷の外に出る。魔法省のある建物は宮殿の近くにあるそうだ。

　そこで初めて思い至る。もしかしたら、きちんとしたドレスを着なくてはいけないのではないか？確かきちんとしたドレスはコルセットで体を整えるもので・・・。

　自分で作ったものではあるが、3食プラス2回のおやつをモリモリと食べていた。ずっと楽チンなワンピースを着ていた。たいして運動もしていなかった。そしてたった今、昼食を食べた。

　ハイ、マリアンヌの体は今すごく健康的で。つまりはキュウキュウなドレスを着るには大変な不都合があるわけで。

「マーサ！　きちんと押さえててくださいね！」
「了解！　メアリ、まだまだいけるわ。締めて！」
「追加の人員を呼ぶわ。マリアンヌ様の晴れ姿ですもの」
「ギヤ～～～！」
「マリアンヌ様！　公爵家の御令嬢がそのようなお声を発してどうします！　気合いですわよ。気合い！」

　エイアール家のメイドさんたちも総動員で私は今作り替えられていた。この世界で満足していたはずだが、これだけはいただけない。息すら吸えないくらいに苦しい。

「メアリ、まだよ。もう少しいけるわ！」
「マリアンヌ様、まだ行きますよ！」
「ギエェぇぇ～～～！」

　自分の声とは思えないくらいの声が出た。