52 / 220
52
しおりを挟む
「真理子!」
なんと、そこは一つの部屋になっていた。窓もない4畳半くらいの狭い白い壁の部屋。そこにいたのはマリアンヌである。マリアンヌは真理子、とこちらを見て言った。つまり私は真理子に戻っているのだろうか。
よくわからないが、確かに目の前にいるのは金髪碧眼、フリルのついた華やかなドレスを着たマリアンヌ。では、と自分の体を見たら毛玉だらけのスウェットを着ている。間違いなく真理子だ。少し残念な思いもしたが、自分は真理子なのだから仕方がない。
「ここは?」
「よくわからないのよ。私は真理子の部屋にいたはずなの」
「私はキッチンでご飯を作っていたわ」
お互いの無事を思いながらも私はマリアンヌを盗み見た。私がマリアンヌになっていたことを考えたら、マリアンヌは私になっていたのであろう。貴族として生まれ育ったマリアンヌがド平民の私になるなんて、とんだ悲劇だ。
「真理子ったら、すごいお酒を飲んだのでしょう?気持ち悪かったわ」
顔を顰めてマリアンヌが言う。その言い方はとても可愛らしかった。怒っているはずなのだが、拗ねているみたいでなんとも愛らしい。レオポール兄様がマリアンヌを溺愛するのもわかる気がした。
「ごめんね」
私は素直に謝る。そうだ、あの日はどうにも落ち込んでお酒を飲まずにはいられなかった。
「真理子は働いていたのでしょう?」
「えぇ」
とは言うもののそれは過去のことだ。あの時は失業していて生活は困窮していた。マリアンヌが私になったらどうなるのだろう。彼女はまだ12歳。働く年齢ではないのだ。
「あのね、キョウコさんが家に来たの」
「キョウコさんが?」
キョウコさんとは私のイトコである。私の15歳上で、彼女は高校を卒業してすぐ都心で一人暮らしを始めた。そのためあまり付き合いがなかったのだ。私が就職することになりアパートから電車で15分程度のところに住んでいると分かって一度挨拶に行ったことがあるが、ほとんど疎遠状態だった。
私が実家にも帰らず連絡もあまりないと両親がキョウコさんに言ったため、キョウコさんは心配になって訪ねてくれたらしい。私になっていたマリアンヌは、シツギョウしてシツレンもして自暴自棄になっていた私の心を感じて辛くなったそうだ。それで心配してくれたキョウコさんに心を許し、思う存分泣きながら全てを訴えたらしい。
最初は私の気持ちで話していたはずが途中からマリアンヌ自身の気持ちにもなって、ついには自分が真理子かマリアンヌかわからなくなったそうだ。
確かに、その気持ちはわかる気がした。からだはマリアンヌでも中身は真理子。そう思いながらもマリアンヌの考えていたこともわかるのだ。
「それでね、キョウコさんのところで働くことにしたのよ」
「キョウコさんのところで?」
「キョウコさんはネイルサロンっていうの?そういうお店をいくつか経営していて、私に経理の仕事を任せてくれたの」
「経理?マリアンヌにできるの?」
私はびっくりして言った。マリアンヌの世界とは違うのだ。できるとは思えない。
「真理子がやっていた仕事でしょ。だからね、私にもできたの」
マリアンヌは嬉しそうだ。彼女の笑顔を見て安心した。
「それにね、ネイルのこととか色のことなんかキョウコさんに言ったら、私のアイデアを参考にしてくれたりするの。社交界でドレスの話をするみたいで面白いの」
12歳のマリアンヌが32歳の真理子になって不幸でしかないと思っていた。でもマリアンヌの笑顔は違う。
「私ね、真理子になれて本当に幸せなの。生きてるって気がするの。今まで自分で何かをしたことがなかったから」
「私も。マリアンヌになれてよかった。毎日料理をしているの。加護を授かったってみんな喜んでいるのよ」
「へえぇ、そうなのかぁ」
マリアンヌはニコニコ笑っているが、加護と口に出して思い出した。加護なんか本当はないのだ。
「私が料理できるのは知識があるから。加護でもなんでもない。でもこれから加護があるか鑑定するんだって」
私は頭を抱えた。
「加護なんてないのよ。どうしたらいい?」
なんと、そこは一つの部屋になっていた。窓もない4畳半くらいの狭い白い壁の部屋。そこにいたのはマリアンヌである。マリアンヌは真理子、とこちらを見て言った。つまり私は真理子に戻っているのだろうか。
よくわからないが、確かに目の前にいるのは金髪碧眼、フリルのついた華やかなドレスを着たマリアンヌ。では、と自分の体を見たら毛玉だらけのスウェットを着ている。間違いなく真理子だ。少し残念な思いもしたが、自分は真理子なのだから仕方がない。
「ここは?」
「よくわからないのよ。私は真理子の部屋にいたはずなの」
「私はキッチンでご飯を作っていたわ」
お互いの無事を思いながらも私はマリアンヌを盗み見た。私がマリアンヌになっていたことを考えたら、マリアンヌは私になっていたのであろう。貴族として生まれ育ったマリアンヌがド平民の私になるなんて、とんだ悲劇だ。
「真理子ったら、すごいお酒を飲んだのでしょう?気持ち悪かったわ」
顔を顰めてマリアンヌが言う。その言い方はとても可愛らしかった。怒っているはずなのだが、拗ねているみたいでなんとも愛らしい。レオポール兄様がマリアンヌを溺愛するのもわかる気がした。
「ごめんね」
私は素直に謝る。そうだ、あの日はどうにも落ち込んでお酒を飲まずにはいられなかった。
「真理子は働いていたのでしょう?」
「えぇ」
とは言うもののそれは過去のことだ。あの時は失業していて生活は困窮していた。マリアンヌが私になったらどうなるのだろう。彼女はまだ12歳。働く年齢ではないのだ。
「あのね、キョウコさんが家に来たの」
「キョウコさんが?」
キョウコさんとは私のイトコである。私の15歳上で、彼女は高校を卒業してすぐ都心で一人暮らしを始めた。そのためあまり付き合いがなかったのだ。私が就職することになりアパートから電車で15分程度のところに住んでいると分かって一度挨拶に行ったことがあるが、ほとんど疎遠状態だった。
私が実家にも帰らず連絡もあまりないと両親がキョウコさんに言ったため、キョウコさんは心配になって訪ねてくれたらしい。私になっていたマリアンヌは、シツギョウしてシツレンもして自暴自棄になっていた私の心を感じて辛くなったそうだ。それで心配してくれたキョウコさんに心を許し、思う存分泣きながら全てを訴えたらしい。
最初は私の気持ちで話していたはずが途中からマリアンヌ自身の気持ちにもなって、ついには自分が真理子かマリアンヌかわからなくなったそうだ。
確かに、その気持ちはわかる気がした。からだはマリアンヌでも中身は真理子。そう思いながらもマリアンヌの考えていたこともわかるのだ。
「それでね、キョウコさんのところで働くことにしたのよ」
「キョウコさんのところで?」
「キョウコさんはネイルサロンっていうの?そういうお店をいくつか経営していて、私に経理の仕事を任せてくれたの」
「経理?マリアンヌにできるの?」
私はびっくりして言った。マリアンヌの世界とは違うのだ。できるとは思えない。
「真理子がやっていた仕事でしょ。だからね、私にもできたの」
マリアンヌは嬉しそうだ。彼女の笑顔を見て安心した。
「それにね、ネイルのこととか色のことなんかキョウコさんに言ったら、私のアイデアを参考にしてくれたりするの。社交界でドレスの話をするみたいで面白いの」
12歳のマリアンヌが32歳の真理子になって不幸でしかないと思っていた。でもマリアンヌの笑顔は違う。
「私ね、真理子になれて本当に幸せなの。生きてるって気がするの。今まで自分で何かをしたことがなかったから」
「私も。マリアンヌになれてよかった。毎日料理をしているの。加護を授かったってみんな喜んでいるのよ」
「へえぇ、そうなのかぁ」
マリアンヌはニコニコ笑っているが、加護と口に出して思い出した。加護なんか本当はないのだ。
「私が料理できるのは知識があるから。加護でもなんでもない。でもこれから加護があるか鑑定するんだって」
私は頭を抱えた。
「加護なんてないのよ。どうしたらいい?」
249
お気に入りに追加
1,074
あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる