美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

50

「しかし、美味しいですねぇ」

　2つ目のアップルパイを食べ終わり、ゲルリーは笑顔である。

「とりあえず、午後から鑑定をすることにしましょう」
「そんなに急に？」
「すぐにやっておかないと、ジュリア嬢が動き出すと思いますよ。国民に向けて好き勝手に言いふらし出したら、目も当てられないじゃないですか」

　それは確かにその通りだった。

「ではすぐに準備に取り掛かるように」

　陛下の言葉にゲルリーは丁寧に挨拶をする。全くの世間知らずではないようだ。ユエンは少しだけ感心をした。挨拶をしただけで感心することでもないのだが、ゲルリーがどこかそういう雰囲気のある人物のせいかもしれない。

　ゲルリーは部屋を出ようとドアに向かい歩き出したのだが、歩きながらしきりに首を傾げたり両手を握ったり開いたりを繰り返した。

「どうしたのだ？」

　その仕草を不審に思いユエンは声をかけた。

「なんか、変なんですよね」
「変？」
「えぇ、魔力がみなぎるというか」
「え？」

　ユエンも魔力は多い方であるが、みなぎるという感覚を感じたことがなかった。そのためゲルリーの言っていることが理解できなかった。だがゲルリーは何かを考えるように立ち止まったまま静止した。

　部屋の中の者たちは彼の様子を注意深く観察をしていたのだが、何が起きているかはわからなかった。魔法省に入る人物は魔力が人より多く、そのためか魔力に対しても敏感である。それは一般人には理解できないものなのだ。

　やがてゲルリーはニヤリと笑った。そして何度も満足そうにうなづき出した

「ゲルリー？」

　ユエンが話しかけると、ゲルリーは満面の笑みで彼を見てきた。

「公爵様、早く私はマリアンヌ嬢にお会いしたいですね」

　彼はそういうと走り出した。

「ゲルリー！」
「陛下の御前でございますぞ！」
「なんと、失礼な・・・」

　大臣たちが諌めるが、ゲルリーは振り返りもせず走って行ってしまった。

「まあ、良い」

　諦めたように陛下が言う。今までにも同じようなことはあったのだ。ゲルリーは魔法馬鹿。それが陛下の彼に対する印象であった。

「それよりもマリアンヌ嬢を魔法省へ。加護があるのは明らかであるから、終わったら婚約についても耳に入れることにしよう」

　いよいよだ、とユエンは思った。わかっていたことであるが、少し寂しい気持ちもある。

「かしこまりました」

　ユエンはそう答え、屋敷に戻る準備を始める。昼食は屋敷でマリアンヌと取ろう。今日は何だろうか。ユエンはそんなことを考えていた。