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「これ、中身はりんごじゃないか?」
「あ、そうですね」
「りんごってこうやって食べるんだ」
彼の目はキラキラと輝いて見える。マリアンヌの料理を食べた人間は大抵同じ顔つきになる。
第一王子 アルバート様。ドミニク様に連れられて、今日は騎士団の練習に参加している。ひとしきり練習が終わり、部隊の仲間と一緒にマリアンヌの料理を食べている。
「アップルパイというものらしいですね」
マリアンヌのメモにはそう書いてあった。俺が伝えると、「パイとは何だ?」と聞かれた。知らないと答えると、憮然とした表情になった。
「作ったのはマリアンヌ嬢だろう。マリアンヌ嬢に聞いた方が早いのではないか?」
ドミニク様に言われ、「マリアンヌ・・・」と彼は小さくつぶやいた。ドミニク様の意味ありげな笑顔に俺は納得した。ついに来たのかと思う。
マリアンヌがアルバート様の婚約者に内定したのだろう。ドミニク様が今日アルバート様を連れてきたのはマリアンヌの料理が目的なのか。何も知らず調子に乗って鍛えてしまった。
マリアンヌが嫁に行ってしまうのは寂しい。だがそれはいつか来ることである。相手がアルバート様というのはどうなのかまだよくわからない。マリアンヌを大切に扱ってくれればそれでいい。
国のことを思うなら、ジュリア嬢にならなかったことが救いだ。言ったら何だがジュリア嬢ではアルバート様が気の毒すぎる。
「マリアンヌ嬢は料理の加護があるのか」
「はい、最近になって加護を受けたと思います」
「そうか」
彼はそう言ってアップルパイをじっと見つめている。
「マリアンヌ嬢の料理はすごいぞ。今まで食べたことがないものばかりだ」
ドミニク様は興奮したように話し出した。
「叔父上はそんなにたくさん召し上がったのですか」
「いや、牛丼だけだ」
「ギュウドン?」
「そうだ、あれは素晴らしい食べ物だ。おそらく神がマリアンヌ嬢に命じられた食べ物だろう」
「神が?」
「そうだ、アルバート。あの牛丼はマリアンヌ嬢の全てを物語っている。マリアンヌ嬢は牛丼のように素晴らしい女性なのだ」
ドミニク様は目を瞑り、昨日のマリアンヌを思い出しているのか口元は優しげに緩んでいる。
「食べてみたいです。ギュウドン」
アルバートが言う。熱にうかされたかのように、どこか遠くを眺めながら彼はギュウドンとつぶやいた。
「卵があるとまた格別なのだ」
「卵・・・」
2人の王族の会話に入らない方がいい。俺はそう判断した。そろそろ休憩時間は終わりだ。
「た、大変です!」
「どうした?」
部下が血相を変えて走り込んできた。息を整えながら彼は一気にしゃべる。
「ジュリア・スティアート公爵令嬢が聖女として覚醒されたそうです!」
は?聖女?俺は思わずドミニク様を見た。ドミニク様もポカンとした顔をしてこちらを見ていた。
「あいつが?」
仮にも公爵令嬢をあいつ呼ばわりとはマナー違反であるが、ドミニク様を責める気は起きなかった。面倒なことになった、と俺は思う。それは全員が同じ思いだった。
「あ、そうですね」
「りんごってこうやって食べるんだ」
彼の目はキラキラと輝いて見える。マリアンヌの料理を食べた人間は大抵同じ顔つきになる。
第一王子 アルバート様。ドミニク様に連れられて、今日は騎士団の練習に参加している。ひとしきり練習が終わり、部隊の仲間と一緒にマリアンヌの料理を食べている。
「アップルパイというものらしいですね」
マリアンヌのメモにはそう書いてあった。俺が伝えると、「パイとは何だ?」と聞かれた。知らないと答えると、憮然とした表情になった。
「作ったのはマリアンヌ嬢だろう。マリアンヌ嬢に聞いた方が早いのではないか?」
ドミニク様に言われ、「マリアンヌ・・・」と彼は小さくつぶやいた。ドミニク様の意味ありげな笑顔に俺は納得した。ついに来たのかと思う。
マリアンヌがアルバート様の婚約者に内定したのだろう。ドミニク様が今日アルバート様を連れてきたのはマリアンヌの料理が目的なのか。何も知らず調子に乗って鍛えてしまった。
マリアンヌが嫁に行ってしまうのは寂しい。だがそれはいつか来ることである。相手がアルバート様というのはどうなのかまだよくわからない。マリアンヌを大切に扱ってくれればそれでいい。
国のことを思うなら、ジュリア嬢にならなかったことが救いだ。言ったら何だがジュリア嬢ではアルバート様が気の毒すぎる。
「マリアンヌ嬢は料理の加護があるのか」
「はい、最近になって加護を受けたと思います」
「そうか」
彼はそう言ってアップルパイをじっと見つめている。
「マリアンヌ嬢の料理はすごいぞ。今まで食べたことがないものばかりだ」
ドミニク様は興奮したように話し出した。
「叔父上はそんなにたくさん召し上がったのですか」
「いや、牛丼だけだ」
「ギュウドン?」
「そうだ、あれは素晴らしい食べ物だ。おそらく神がマリアンヌ嬢に命じられた食べ物だろう」
「神が?」
「そうだ、アルバート。あの牛丼はマリアンヌ嬢の全てを物語っている。マリアンヌ嬢は牛丼のように素晴らしい女性なのだ」
ドミニク様は目を瞑り、昨日のマリアンヌを思い出しているのか口元は優しげに緩んでいる。
「食べてみたいです。ギュウドン」
アルバートが言う。熱にうかされたかのように、どこか遠くを眺めながら彼はギュウドンとつぶやいた。
「卵があるとまた格別なのだ」
「卵・・・」
2人の王族の会話に入らない方がいい。俺はそう判断した。そろそろ休憩時間は終わりだ。
「た、大変です!」
「どうした?」
部下が血相を変えて走り込んできた。息を整えながら彼は一気にしゃべる。
「ジュリア・スティアート公爵令嬢が聖女として覚醒されたそうです!」
は?聖女?俺は思わずドミニク様を見た。ドミニク様もポカンとした顔をしてこちらを見ていた。
「あいつが?」
仮にも公爵令嬢をあいつ呼ばわりとはマナー違反であるが、ドミニク様を責める気は起きなかった。面倒なことになった、と俺は思う。それは全員が同じ思いだった。
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