43 / 220
43
しおりを挟む何とか朝食を終え、私は玄関でお父様たちの出勤を見送る。準備ができるのを待っていると、ノートル様とライアンの会話が聞こえてきた。
「これ、何をするために開発されたのですか?」
「うーん、何だろう?とりあえず作ってみたとか?
何を言っているのだろう、と何気なく彼らの方を見た。ノートル様の手には何やら黒い紐のようなものが見える。指でつまんでビヨーンと伸ばしているように見える。
ま、まさか、あれはゴム?
この世界にゴムはなかったはずだ。髪を結びたいと思ってもリボンで止めることしかできず、何気に苦労していた。あれがあれば・・・。
私は迷わずノートル様のところに向かう。
「マリアンヌ様、どうされました?」
ノートル様はにこやかに私を見ている。相変わらず綺麗なお顔である。着物を着せたいとやはり思うが、その気持ちを押しとどめる。
「それは・・・?」
「何かに利用できないかと作ってみたのです」
「使いみちないでしょう。伸び縮みする紐なんて」
呆れたようにライアンが言うが、私はノートル様の手を掴んだ。ノートル様も驚いたように目を見張るが、そんなことどうでもいい。
「み、見せてください!」
私は奪うように彼が持つ紐を手にする。何度も伸び縮みさせる。ゴムだ。
「こ、これ。いただけませんか?」
私の様子にノートル様は引いている。淑女としてよくない行動であることはわかっているが、そんなこと気にしてはいられない。
「どうぞ。持っていても使いみちがないし、困っていたのですよ」
「ありがとうございます!」
使いみちが思い浮かばないとは。とりあえず、これで髪が結べる。私がニヤニヤしているのを彼らは不思議そうな表情で見ていた。
エイアール家の使用人の人たちは全員元気に目覚めた、セバスチャンが仕事内容などを指示した後は彼らを使用人専用のダイニングへ案内した。彼らの朝食はビュッフェスタイル。好きなように取って食べられるように大皿に料理を山盛りにした。
「うぉぉぉぉ!」
「すごい!」
「なんだ、これは!」
私はキッチンにいたのだが、その声が聞こえてきた。りんごが大量にあったのでアップルパイを作ろうと思う。お兄様やお父様用には一人分用に作って、家用には切り分けられるように作るつもり。
大所帯になったので食事の用意は大変かと思ったが、やはり何か魔法のようなものがあるのかあっという間に出来上がっていく気がする。キッチンの中と外の時間の経ち方が違うのかよくわからない。とにかく、アップルパイと並行して昼の準備もする。
お茶の時間になり、焼き上がったアップルパイを持っていく。アイスクリームがあれば良かったが、残念ながらそれはなかった。今日はステファニー様とダニエル様とで頂く。
「まぁ、美味しいですわ」
一口食べたステファニー様は頬を押さえてつぶやく。その仕草や顔つきが色っぽい。美しい方とは何をされても美しいのである。
「美味しいですね、母上」
ダニエル様も嬉しそうである。私もいただく。中のリンゴはやや酸っぱかったが、それがパイと合わさって本当に美味しかった。我ながら上出来だと思う。
「りんごは正直あまり好きではなかったのですが、こうやって調理されると美味しいですね
」
そうだ、料理人がいないせいで食事に生のりんごを齧っていた人は多い。そのためりんごは飽きてしまい、好んで食べてはいなかったのだろう。おそらくお父様やお兄様もそうだろうと思う。パイにしたら食べてくださるだろうか。お二人を見ながら私はそんなことを考えていた。
266
お気に入りに追加
1,074
あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~
明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる