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しおりを挟む「お嬢様」
「ダニエル!」
セバスチャンと一緒に現れたのは、ベルナルト様であった。
「あ、兄様」
呼ばれたダニエル様はニコニコして、呑気な感じでベルナルト様を見ている。
「おはようございます。今朝はずいぶんごゆっくりですね。僕はもうマリアンヌ様と朝食を頂いてしまいましたよ。とても美味しゅうございました。父様と母様はいかがされていますか?」
「いかがされていますじゃないだろう。そんな格好で」
ダニエル様はゆっくりと自分の胸元を見て、あっと声を上げた。起きてすぐ、着替えもしないで部屋を出てしまったのだ。しかも格上になる公爵令嬢であるマリアンヌとその格好で朝食を食べていた。貴族のマナーとしても最悪である。
「今すぐ部屋に戻って着替えなさい」
ベルナルト様の叱責に小さく返事をしてダニエル様は戻っていった。歩きながら振り返り、小さく手を振っている。天使だ。可愛すぎる。私はその仕草を見て心の中でつぶやいた。あんな天使のダニエル様を傷つけたジュリアをなんとかやっつけてやりたい。
「申し訳ございません。マリアンヌ様。後で父からも正式に謝罪をさせていただきますので」
ベルナルト様が90度にお辞儀をした。彼の後頭部を見ながら、謝罪は必要ないと答える。
「で、でもそれでは」
「風邪をひくかもしれないのに私も何も言わずにいましたわ」
「ベルナルト様、お嬢様もこうおっしゃっていますし」
セバスチャンの取りなしでベルナルト様も頭を上げてくれる。
「ありがとうございます。母の様子を見て来ましたが、元気そうでした。あちこちに飾られた花をたいそう喜んでおりまして」
「あれらは全てお嬢様のアイデアです」
セバスチャンが食い気味に胸を張って言う。得意げな表情である。
「なんと、斬新な」
ベルナルト様の驚き方は大袈裟に見えるのだが、セバスチャンはにっこりと満足げに微笑んでいる。
「お嬢様はステファニー様、ダニエル様を大変心配されておりまして。なんとかご安心して滞在されるよう心を砕かれていたのです」
「なるほど」
ベルナルト様は大きくうなづいた。セバスチャンも気を良くしたのか、同じようにうなづいている。
「やはり心のお優しいお方ですね」
「左様でございますとも」
なんかもういいや、と私はキッチンに戻ることにする。
「今もダニエル様のために窓辺にテーブルを寄せられて」
「おぉっ。花が綺麗に見えるではありませんか」
「そうです。そのための演出であります」
「これはすごい」
すごいの?これが?彼らの声を聞きながら、昼はどうしようかと考えた。お父様とお兄様の差し入れもあるし、エイアールの方々の分もあるし。とにかく大量に作ろう。まずは材料を見ないと。そう思いながらも、私はジュリア様への仕返しについて考えていたのだった。
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