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しおりを挟むエビフライを取られて不機嫌になったユエンであったが、いつまでも不貞腐れるわけにもいかなかった。形だけではあるが2人に謝罪を受け、ユエンは別の食べ物を取り出した。とり肉の照り焼きという料理のようである。
2人の目が釘付けになっているので、仕方なく2人の分も出す。今度は取られないように自分の分は自分の近くに引き寄せた。ワインを継ぎ足し、気持ちも新たに仕切り直しである。
「それはそうと、スティラートのことだ」
その名前を聞きユエンは顔を曇らせた。
「魅了の魔術の一種と思います」
側で見たドミニク様がそう言うなら間違いないだろう。魅了とは人の気持ちや思考を思い通りにする禁断の魔術。当然そんな魔術は許されておらず、使用した者は死刑である。
「本人たちは当たり前ですが否定していました。一緒に暮らすうちにエイアール家が自然とジュリア嬢を慕うようになったと言っています」
「しかし、魅了の術は今できる者はいないはず」
先代の国王が即位した直後、反対派の貴族が魔術師を雇い魅了の術を使ったことがあった。側妃の1人が産んだ子どもを国王に、と結構な数の貴族が魅了の術を使われ反乱が起きたのだ。反乱を抑えた後、先代国王は魅了の術を禁止し使った者は死刑にするとした。術を使った魔術師やその弟子まで死刑になったと聞く。
「でもあの行動は話に聞いていた魅了の術そのものでした」
本人の意思を無視して思い通りの行動をさせる禁断の魔術。先代の国王が残した資料では、術にかかっていたときのことを覚えている者もいたそうだ。やりたくないのに体が動き、残忍なことをしてしまったと後悔して自ら命を絶った者が何人もいたという。
「スティラート家は他にも疑念があります。使用人についても釈然としません」
陛下は腕組みをし、天井を仰ぎ見た。真剣に考えている仕草である。スタンピード直前、彼らは使用人を大量に募集した。公爵家だというのに紹介者も不要で何の資格もない者たちを大量に雇ったのだが、実際雇われたという家族が城に探しに来ても見つからないと言う。
「魔獣の通り道になったとの見解も実際は違うのではないかと言う者がいます」
それはユエンとしても初耳だった。スティラート家は国内でも被害が一番大きかった。広大な土地と屋敷なのに跡形もなくなってしまったのだ。
「どういうことだ?」
「魔獣がどこから現れたのかわかっていません。王都の結界が剥がされたのなら、魔獣は王都の端、例えばレグニントン山あたりから王都に入ったと仮定できます」
確かにレグニントン山には魔獣が多く住む。騎士たちも山に入って訓練をしている。
「しかし、レグニントン山に一番近いとされるバーンヒル家の被害は比較的少ないですし、その近辺の被害も極端ではありません」
「まさか・・・?」
ユエンは自分の考えていることが恐ろしくなり、口に出すのが躊躇われた。その思いは陛下にも伝わったようだ。陛下がワインを口にした。ゴクン、という音が聞こえた。
「スティラート家から魔獣が発生し、そのために結界が剥がれたと仮定するとしっくりくるのです」
ドミニクは目を逸らさずに言い切った。
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