美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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 報告書を読み終えたユエンは、あまりの内容にしばらく動けなかった。両手でこめかみをマッサージする。気持ちを落ち着かせようとし、引き出しの奥から白ワインの瓶を取り出した。何かのお祝いで誰かにもらったものだ。職場で酒を飲むつもりは毛頭なく、持ち帰るのを忘れていたものだった。

 以前からスティラート家の横暴な態度は問題視されていた。何度か状況を確認しようとしたが、それなりの理由がないと難しかった。スタンピードという非常時であり、結界は剥がれたままである。その対策もできないまま、高位貴族の行動を批判すれば他の国民が黙っていないであろう。

 今回マリアンヌの提案に乗りエイアール家を迎賓城から移動させるという名目で、城内に入りスティラート家の様子を探るという目的が叶った。しかしその際にとんでもない事実が発覚したのである。

 エイアール家の人たちが何らかの魔術にかかり、意図せぬ行動をしたのだ。

 移動することにはエイアール家は全員同意した。知らせを聞いたときには安堵や歓喜の表情があったという。支度をし、いざ移動しようとなった時にジュリア嬢が上の階から降りてきた。

「皆様、どうされたのですか」

 ジュリア嬢の姿を見るとエイアール家の人たちは明らかに動揺し、顔色が悪くなる者や震え出す者がいた。夫に支えられていたステファニー様は夫の手を振り払った。弟のダニエルの手を握っていたベルナルトも手を振り払われ、足を蹴られた。

 そしてエイアール家の人たちはジュリア嬢を見ると口々に言い出したのである。

「ジュリアサマハ オウツクシイ」

 騎士たちは唖然とした。そのときジュリア嬢は優雅に微笑んでいたという。

「皆様、ここから出ようとおっしゃるのですか?」
「ソンナコトハ ゴザイマセン」
「ワレワレハ ジュリアサマノ シモベデス」

 ジュリア嬢の問いかけに口々と返すのだが、目はうつろで動きもぎこちない。

「皆様、移動はされたくないようですわ」

 ジュリア嬢はニンマリと笑い、彼女の後ろからスティラート公爵が悠然と現れた。

「ステファニー様はエイアール家はスティラート家の分家になるとおっしゃっていましたな。ダニエル様をうちの養子にしてほしいと懇願なされたのです」

「そんな話は聞いていませんぞ」

 エイアール侯爵が反発したが、

「ステファニー様とダニエル様のご意思ですからなぁ」

 と、スティラート公爵は顎髭を撫でながら笑った。

「この移動は王命である。全員、移動に同意しないのなら、反逆罪として召し捕らえる!」

 王弟のドミニク様が発言し、ようやく移動が叶った。その際、スティラート公爵とジュリア嬢はニヤニヤと笑っていたという。

 半ば拘束するように騎士たちがエイアール家の人たちを外に出した。彼らは特に抵抗することはなかったが、生気もなく目つきも怪しかった。馬車に乗せベルナルトがマリアンヌから預かった食べ物を渡した。全員が行儀も忘れ、一心不乱に貪ったそうである。

 報告書にはそこまでのことが記載されていた。しかし、その後のことを新たにレオポールから聞いていた。無事に我が家に着いたときは全員が疲れてはいるようだが、それなりにまともに見えた。しかしマリアンヌの前でまた全員が異常な状態になり、「ジュリアサマハ、オウツクシイ」と始まったそうである。

 マリアンヌがどれだけ驚き恐怖を感じたかと思うと、ユエンは自然と唇を噛み締めていた。だがマリアンヌは冷静にトレーを床に叩きつけて大きな音はさせ、彼らの意識を覚醒させたという。

 同じことが起きないよう、レオポールと騎士団のノートルが屋敷に泊まると連絡があった。自分も戻りたいが今はできない。ノートルは魔術について詳しいのでエイアール家の様子を見て対策がわかるかもしれない。しかし、マリアンヌによからぬ感情を抱かないとも限らない。そこをきちんとしておけ、とレオポールに目で合図した。口に出さずともわかるであろう。そしてレオポールもその意を汲み取り、マリアンヌの部屋から遠く離れた部屋をノートルにあてがったのであった。
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