美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

28

　とりあえずエイアール家の人たちにくつろいでもらうために部屋に移動してもらった。さっき見た異常な状況に私はどうしていいかわからなかった。大丈夫なのだろうか。

「マリアンヌ？」

　そこにいたのはレオポールお兄様であった。ほんの数時間前と違い、何故だかものすごく疲れた様子である。玄関の外を見ると騎士の人が何人もいるのだが、その人たちも皆青い顔色をして目はうつろ。ふらついている人もいる。

　どこかで魔獣が現れて征伐してきたのだろうか？と、思っていたらお兄様はガシッと私を抱きしめる。

「お、お兄様・・・？」

　急すぎて照れる間も無く冷静になってしまったが、騎士の人たちが多数いる中でいくら兄と妹とはいえこれはよくないだろう。そもそもお兄様は仕事中である。しかしお兄様は黙って私を抱きしめたまま動かない。

「ど、どうしたのですか？」

　と、言ってはみたが、私もお兄様の体温に安心していた。さっき見たエイアール家の人たちの異常な行動についていけなかったのだ。私はしばらくされるままになっていた。ずいぶん長い間そうしていたが、ようやくお兄様は力を緩める。

「リリン。世の中には知らなくていいことがあるのだよ」

　お兄様の目はどこか遠くを見ていた。周りにいる騎士の人たちも座り込んでいたり呆然と立ち尽くしていたり。魔獣征伐ってそんなに過酷な仕事なのか。

「マリアンヌ様もご覧になったでしょう」

　見ると、ノートル様がそこにいた。彼もやはり疲れた様子を見せている。

「エイアール家の方々のご様子は普通ではありません。お城でもそうでした」

　ここにいる騎士の人たちは魔獣征伐をしてきたわけではなく、お城にいるエイアール家の人たちを移動させるために護衛してきたそうである。しかし馬車に乗せるまでに相当のことがあったらしい。

「私もよくわかりませんが、魔術の一種かもしれません」

　ノートル様はそう言って目を伏せた。その様子は不謹慎であるが色っぽかった。綺麗な顔立ちの男性が苦悶の表情で目の前にいる。そんなことを考える私はそうとう穢れている。と、思ったら申し訳なくなって私は彼らに昼間の牛丼でもご馳走しようかと思った。

「お兄様、皆様も何か召し上がってください。食欲はありますか？」

　その声にお兄様の目に活気が蘇る。

「いいのか？」
「当たり前です」

　何せ、庶民の味方の牛丼がある。早い安い美味い、である。紅ショウガがないのが残念だが、でも美味しいはず。やはり大量に作ってよかった。ご飯も炊いてある。

「よし、客用のダイニングに集合だ！」

　その声でぐったりしていた騎士の人たちが立ち上がった。全員移動していく。私もキッチンへ移動し、牛丼の用意をする。騎士の人たちは30人くらいいたが、客用のダイニングはまだ余裕で入れるくらいに広い。さすが公爵家である。