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しおりを挟む「旦那様、若旦那様がいらっしゃいました」
私がお父様の抱擁に耐えていたら、マーサがやってきた。お兄様までご帰宅である。
「あっ、父上。マリアンヌを離してください。苦しそうです」
ナイス、お兄様。しかしお父様の手が緩んだ瞬間、私は何故かそのままお兄様の腕の中に移動することになっていた。どうなってるんだ?
「昨夜はブラッドリータンゴが出たと聞くが?」
「計三匹でした。たまたますぐ近くで見回りしていたので出没後すぐに征伐できました」
仕事モードの2人はキリリとしてかっこいいのだが、お兄様の手は私の頭をナデナデしている。頭ナデナデは心地よいのだが、このままではいかん。
「お兄様、今朝はどうされたのですか」
「そうだ、レオポール。任務中ではないのか?」
お父様の手が向かってきて、私は何故かお兄様の腕の中からお父様の腕の中へ移動した。またまたどうなってるんだ?
「今は休憩時間ですよ。昨夜のことでマリアンヌが怖がっていないか心配になって寄ったのです」
そう言いながらお兄様はテーブルの上を見た。そうだ、まだ食事中であった。
「お兄様も召し上がりますか?」
返事も聞かずセバスチャンが用意をしてくれる。私はお父様とお兄様に挟まれて食事を再開する事になった。
「ん、これはまた美味しいな」
「そうだろう。こんなに美味しい食事は王族も食べられないだろうな」
「マリアンヌの料理ですよ。宮廷料理人も脱帽ってやつですよ」
「そうだな、ハハハ」
「そうですよ、ハハハハハ」
何が楽しいのか2人は息があったように笑い出す。親子だからとはいえ、聞いていたら疲れてきた。早く食べ終わって料理をしたい。昼は牛丼を作って、夜はどうしようか。食材は何があっただろうか。そういえばエビがあった。エビフライにしようか、それともエビチリ?調味料はたいていのものは揃っていたはずだから、作れるよね。
お父様とお兄様のマリアンヌ褒めちぎり大会はまだ終わらない。
「それで昨夜は他の部隊より成果を納めたのです。リリンの料理のおかげってやつですよ」
「そうか、こちらもマリアンヌのおかげで仕事が捗ってな。今もこうやって戻る時間が取れたのだ」
「それは違います」
私がぼんやり1週間分の献立を決めていた頃、2人はなおも盛り上がっていた。マリアンヌのおかげと言い続ける2人に喝を入れる。
「私の料理ではなく、お父様とお兄様のお力が素晴らしいのです」
「ま、マリアンヌっ」
「リリン・・・」
あぁ、今度はお父様とお兄様の茶番が始まるのか。うんざりしていると、セバスチャンが口を挟んだ。
「旦那様、若旦那様もお越しですから先程のお話をされてはいかがでしょうか」
「うむ、そうだな」
セバスチャンの一言でお父様のスイッチが入れ替わった。冷静沈着な宰相モードである。
そしてダイニングのテーブルに今朝の卵焼きを置いた。セバスチャンが何かをすると(どうやら魔法の一種らしい)卵焼きが消えてしまった。なんと、卵焼きはお父様へ渡したバスケットの中に移動したそうである。しかもバスケットの中の容量は無限大でいくら入れても満杯になることはないし、入れた時のまま時間が経過しても腐ったり傷んだりせずに温かいままなのだそうだ。
同じことをお兄様のバスケットにもできるようにする。お兄様の方に鮭フライのクレープに野菜スープ、唐揚げや卵焼きを送ることにした。それらの料理をテーブルに置き、セバスチャンが何かをした。何か呟いたように思うが、よくわからないままテーブルの上の料理は消えてしまった。お兄様のバスケットに移動したのである。
私は目を見開いた。驚きで声も出ない。しかしセバスチャンもお父様もお兄様も特に何も考えていないようだった。これでいつでもマリアンヌの料理が食べられると喜んでいる。別世界の人間たちとは分かり合えない、と私は思った。
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