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しおりを挟む「旦那様、お嬢様のお料理が冷めてしまいますよ」
しばらくしてセバスチャンが声をかけてくれた。ナイス、セバスチャン。さすがは執事。お父様はようやく私の手を離してくれて食事を再開した。私も安心したが、あのことも言わなくてはいけない。
「お父様、作った料理をお城にいても受け取ってもらえるようにしたいのですが」
まさかまた感激して何かして来ないよね、と不安だったが言わないといけない。だが意外にもお父様は冷静に答えてくれた。
「ああ、それならセバスチャンから聞いている」
昨日の話を早速セバスチャンは伝えてくれたようだ。仕事が早いのはいいことだが、方法がわからない。こちらの世界には電話やメールはないように思うのだが。
「料理の配達システムは簡単にできる。しかしいいのか」
お父様の目は真剣だった。遠慮して聞いているような様子ではない。
「料理を作ると疲れるのだろう。身体は大丈夫なのか。加護を受けた昨日からずっと作り続けている。数をこなすのは大変なのだろう」
ん?そりゃ確かに働いているわけだから疲れないこともないけど。何か違和感がある。お父様は色々と話し出した。そこで理解できたこと。
加護を受けた料理人は料理を作れるようになるが、それはとてつもなく体力を消耗するそうなのだ。しかも凝った料理をすれば余計に体力は消耗するらしい。そもそも加護を受けるということもあまりなく、料理人は圧倒的に数が少ない。そのため料理人たちはいくつかの貴族の家を掛け持ちして料理を作る。数をこなすためには簡単な料理を作るしかないそうだ。
だから料理を分け与えるとみんな感動していたのだ。私の料理は食材を大量に使っている。野菜をたくさん使ってスープや味噌汁にした。それも他の料理人は疲れるからやらないらしい。
「私は大丈夫です」
心配そうに見つめるお父様へ私は力強く見つめ返した。
「疲れたら言いますし、その時はやめます」
「分かった」
これで話は決まった。お父様は私を強く抱きしめる。覚悟はしていたので素直に従う。
「ああ、マリアンヌ。私の天使。こんなにも慈悲深い娘を持てたことを私は神に感謝しなければ」
「旦那様、わたくしもでございます」
横にいたセバスチャンが涙ぐみ、感極まった口調で言い出した。
「お嬢様は人間の姿に身を変えた女神様でございます。最上の方にお仕えできる喜びをわたくしは子々孫々、親戚縁者、友人知人、全ての人々へ伝えていきたいと存じます。わたくしほどの幸せな人生を送れる者は他にはおりません。我ら一族は代々サーキス家様へ忠誠を誓っておりました。わたくしの代でこのような幸運に巡り会えましたこと、一族の誇りとなりましょう」
セバスチャンの言葉にお父様は感激を深めたのか、私をさらにぎゅうっと抱きしめた。痛い。が、この茶番はしばらく続くだろう。
「セバスチャンっ」
「旦那様っ」
2人はお互いを熱い目で見つめ合っている。私は心の中でため息をついた。もうそろそろ解放してほしい。うんざりしながらまたも我慢をするのであった。
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