美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

文字の大きさ
上 下
16 / 220

16

しおりを挟む
 外ではまだ他の人たちが後始末で働いている。結局猫だったのか魔獣だったのかわからないままだが、夜遅くまで働いている人がいるのは事実である。

「あの、少し何か召し上がっていかれては?」

 私の提案にお兄様がズイッと顔を寄せた。私の目の前にはお兄様の顔がある。見目麗しいお兄様のご尊顔に私はドキドキした。真理子だったら顔を背けてしまうはずだが、今はマリアンヌである。天下無敵の美少女だ。

「いいのか?部隊の奴らは遠慮しないぞ」

「大丈夫です」

 私は早速キッチンへ行き、サンタクロースの袋からおにぎりと豚汁を出す。ワゴンに乗せて外に出るとマーサとメアリが待ち構えていて給仕をしてくれる。やはり有能なメイドである。給仕をしながらも目はギラギラとしているが、仕事に熱心なだけだと思うことにする。

 外にいた人たちも戻ってきた。セバスチャンも一緒である。単なる執事だと思っていたが、彼は有能なので後始末は得意らしい。どんな後始末なのかは聞かないことにする。セバスチャンの笑顔が少しどす黒く見えたからである。

「お嬢様、お休みになれなかったばかりかお食事を・・・。なんとご慈愛に満ちていらっしゃるのでしょう」

 セバスチャンの大袈裟な言葉をスルーして、私は料理の説明をする。豚汁には七味唐辛子。昼のうちに調味料棚の中で見つけておいたのだ。これがあるとないとでは大きく差が出ると私は思っている。しかし作り置きは便利だ。やはり役に立つ。大量に作ってもこうして消費されるのだから、用意して正解だ。

「うまいな、これ」
「身体も温まるし、ありがたい」
「やはり、公爵家だな」

 部隊の人たちは嬉しそうに食べてくれている。仕事だといえばそれまでだが、やはり体を張って守ってくれているのだ。こんなに遅い時間でも働いてくれている。ありがたいことだ。私の料理で喜んでもらえるならそれでいい。

 その様子を見ていたら、昼間考えていたことを思い出した。セバスチャンに相談するつもりだったが、うっかり言い忘れていた。

「お兄様、実は考えていることがあるのです」

 鮭のおにぎりを食べながらお兄様が私を見る。おにぎりを持っている指がセクシーだ。って、何を思うのだ、私。

 お兄様は他人に聞かれないようにするためか私を部屋の隅に移動させた。セバスチャンも一緒である。そんな大層な話ではないのだが、私基準で考えてはいけないことかもしれない。

「お父様とお兄様にできた料理を運ぶことはできないでしょうか。食材を地方から届けるシステムがあるんだし」

 お兄様は驚いたような目で私を見ていた。

「いいのか、そんなこと」

 何がいけないのかわからないのだが、できるならやりたい。私は小さくうなづいた。

「セバスチャン、父上に相談してくれ」
「畏まりました」

 セバスチャンは恭しく首を下げた。

「しかし加護を分け与えてくださるとはさすがだな」
「やはりサーキス公爵家。スティラート家とは違う」

 近くにいた人たちが小声で囁いていた。私たちの会話は聞こえていないはずなので、今のこの食事や昼のサンドイッチ(彼ら曰くサン・ドーイチ)のことを言っているのだろう。この程度のことで大袈裟だなと思うが、そもそも加護を受けた料理人しか料理ができない世界なのだ。有り難く頂戴するという気持ちにもなるのだと彼らの様子を見てようやく理解した。

 しかしスティラート家?なんでここでその名前が出る?マリアンヌの記憶では同じ公爵家でジュリアという令嬢がいると分かった。お茶会などで顔を合わすたびに嫌味を言ったり、ちょっとした意地悪をするのでマリアンヌは嫌っていたようだ。同じ公爵家だけど、意地悪なジュリアとマリアンヌは違うということ?

 確かにジュリアは意地悪だし、マリアンヌと違ってルックスは恵まれていない。しかし他人がそんなふうに比べたりするから、ジュリアも卑屈になってしまって結果意地悪になるのじゃないか。まぁ、マリアンヌが美少女すぎるので余裕でそんな感想も出てしまう。

 とにかく。セバスチャンがお父様に相談したら、きっと忙しくなるだろう。何だかワクワクしてくる。朝になるにはまだ時間があるようだ。少し寝てから始めよう。

 私は部隊の人たちの食事は何がいいか考えていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生少女の異世界のんびり生活 ~飯屋の娘は、おいしいごはんを食べてほしい~

明里 和樹
ファンタジー
日本人として生きた記憶を持つ、とあるご飯屋さんの娘デリシャ。この中世ヨーロッパ風ファンタジーな異世界で、なんとかおいしいごはんを作ろうとがんばる、そんな彼女のほのぼのとした日常のお話。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...