美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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「恐ろしければ耳を塞いでいるといいでしょう」

 地下に向かおうと廊下を歩いていた時である。目の前にいたのは黒髪に銀縁の眼鏡をかけた男性であった。一見女性に見えるくらいに綺麗な顔立ちにすらりとした長身。儚げに見えもするが、あれは全て筋肉であろう。着物が似合いそうだ、と私は思った。この世界に着物があるかわからないが。

「マリアンヌ、無事か」

 レオポール兄様が走ってきた。騎士の姿が決まっていてかっこいい。やはり見惚れてしまう。

「魔獣は始末したから、もう大丈夫だ」

「あぁ、よかった」

 マーサとメアリが安堵した声を出した。私を守るため必死だったのだろう。

「ブラッドリータンゴというあまり大きくはないが、引っ掻く習性がある魔獣だ」
「普段は大人しい時もあるのですが、時々あんな鳴き声をあげます。そのような時は凶暴なので征伐の対象になります」

 着物が似合いそうな例の青年が説明する。淡々とした話し方が涼やかで良い。でも魔獣ではなくやはり猫ではないか?だとしたら征伐しなくていいのでは?実物を見たいが、おそらく見せてくれないだろう。

 この世界では魔獣の暴走により街が壊滅状態になった。あれは害のない動物ですと言っても、屋敷が無事だった公爵令嬢の話など綺麗事でしかない。

「あの鳴き声は女の子が私をお嫁にするのは誰?って言ってるんですよ。それでその女の子を取り合って男の子が喧嘩してる声なんですよっ」

 私は12歳の少女らしく見えるように言った。本か何かで知ったお話をアレンジして少女らしく解釈しました感を出すため、必要以上に取り繕ってしまう。小首を傾げて両手を使いオーバーアクションで自分の仮説を話す。

「それか男の子がここは自分の場所だ、俺は偉いんだって威張ってる鳴き声」

 私の仮説をマーサもメアリもお兄様もニコニコと笑って聞いている。マリアンヌは無邪気でかわいいなと思っているに違いない。私は自分の世界の常識が口に出せて本望だった。

「そのお話」

 そこに割って入ってきたのが着物青年(実際は着ていないが)である。

「なんだ、ノートル」

 お兄様は明らかに不機嫌そうに彼を見た。

「ノートル・ブロードと申します。発言をお許しください」

 彼は丁寧にお辞儀をするとすぐに話し出した。

「先月開催された魔獣学会でコニャンダー伯爵が発表した論文と今のお話はそっくりでございます」
「えっ」

 マーサとメアリが私を見た。驚愕した表情だ。やばい、やらかした?

    マリアンヌの記憶を確認したが、魔獣に関して全くの無知だった。彼女は公爵家のお嬢様なのでスタンピードの時も守られていた。魔獣は見たこともない。

    その上よくよくマリアンヌの記憶を探ってみたら、馬以外の動物を見たことがなかった。馬は移動手段で馬車を使うからであるが、それ以外の動物は王都にはいないのだ。王都には結界が張られていたため、鳥すらも入れなかったようである。

   そんなマリアンヌが学会で発表されるような仮説を話した。何かを疑われるのではないか?


    目の前のノートルの目は何かを疑っているように見える。まさか中身は32歳、別世界の人間であると思いつくわけないと思うが、この世界には魔法がある。どこで何がバレるか分からない。

    その時。


「うちのマリアンヌは天才だからな」

 お兄様がニコニコと笑顔で言い放った。すると

「確かに加護をお受けになられるとあらゆる知恵が授かると何かの文献にあったように思います」

 ノートルが納得したように静かに話す。何度も小さくうなづいているが、何をどう納得したのか確認したい。

「今日のお食事も美味しく頂戴致しましたし」
「あぁ、サン・ドーイチだな」

 惜しい、お兄様の発音はサン・ドーイチだった。

「たくさん作ってくれただろう。部隊のみんなで分けたんだ。全員に行き渡ったので助かったよ」

    話が変わって安心した。だが、この世界。疑問に思っても加護を受けたですべて解決してしまっている。いいのか、これで。
  

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