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しおりを挟む「お嬢様、休憩なさいませんか」
ドアの向こうからメアリの声が聞こえる。パウンドケーキとクッキーを皿に乗せ、私は返事をしながら外に出た。
「ケーキとクッキーを焼いたの」
そう言いながらギョッとした。メアリは目をギラギラとさせて、私の持つ皿をじっと見ている。
「お嬢様、お茶が入りましたわ」
マーサがニコニコと微笑んでテーブルに誘っている。しかしやはりマーサの目も私の手元を見ている。
「は~い」
あくまでも12歳の無邪気な少女を装いつつも、メアリとマーサの視線が怖い。二人は私の持つ皿、というより皿の中身を凝視している。お菓子などしばらく口にしていないのだろうか。それともこの世界にはもともとお菓子などは存在していないのだろうか。
「わぁ。美味しい」
あくまでも少女のように、私はマーサの入れてくれた紅茶に口をつけた。香りも良く、飲み口もすっきりしている。紅茶専門店に何度か行ったことがあるが、そこで出された紅茶より美味しいと思う。料理は作れないけど紅茶は入れられるようである。よかった。
「ケーキとクッキーもみんなでいただきましょう」
待ってましたとばかりにマーサとメアリも席につく。セバスチャンもやって来て、4人で休憩である。本来なら使用人と公爵家のお嬢様が同じテーブルでお茶は飲まない。しかし我が家には今4人しかいないのだから、そこは遠慮せずに一緒に飲もうと私が提案した。
抵抗するかと思ったがそんなことはなかった。紅茶を楽しみながら、お菓子をいただく。優雅なティータイムのはずだが、マーサとメアリの目つきはやはり厳しい。と、気づいたらセバスチャンの目も厳しく光っている。ケーキとクッキーをなぜあんな目で見るのだろう。親の仇か?
睨み付けている彼らを無視して私はクッキーをかじった。自分でもうまくできたと思う。クッキーはサクサク、ケーキはしっとり。まだ冷めきっていないがじんわり温かいのも美味しい。
「美味しいですわね」
「美味しいですね」
「美味しい・・・」
3人は何度も美味しいを呟きながら食べ進めている。
「お父様とお兄様にもお渡ししたかったわ」
紅茶のカップを両手で持って私はつぶやいた。仕事の合間に食べる甘いものは格別だと思うのだ。男性はあまり甘いものは食べないかもしれないが、2人は激務なので食べてほしかったのだ。
「お二方には、ほら、あれをお渡ししましたでしょ」
「そう、お昼に、と。あれですあれ」
メアリとマーサがあれを連呼する。サンドイッチのことか?
「チャンドルリッチですよ。二人とも」
セバスチャンがキリッとした表情でキッパリと言った。
チャンドルリッチ?何をどう聞き間違えてるんだ?
「チャンドルリッチですねっ」
「そう、チャンドルリッチ」
「あれも美味しそうでしたわ、チャンドルリッチ」
「お嬢様のお作りになるものは全て美味しいに決まっています」
「旦那様も若旦那様もチャンドルリッチを楽しみにしておられるでしょうね」
「そうですよ、チャンドルリッチですもの」
「そうそう、チャンドルリッチ」
堂々と間違えたままだが、今更訂正できない。この家ではサンドイッチはチャンドルリッチとなった。楽しみにしているみたいだからいつか作ろう、チャンドルリッチ。
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