美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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 娘が祝福を受けたか。

 ユエンは馬車の中で今朝のことを考えていた。彼女の料理は、他の料理人と比べても格段に美味であった。おそらく他の料理人より祝福が大きいか、より高度の神の祝福を受けたかであろう。

 こうなるとあの話を避けるわけにいかなくなる。

 第一王子が誕生して半年後、スティラート公爵家にもジュリアという女児が誕生した。スティラート家はジュリアを王子の婚約者にするよう迫ってきた。

 王家とスティラート家には過去に因縁があった。陛下の妹君であるユティシア王女の降嫁先として当初はスティラート家が候補とされていたのだが、それが決定直前になって覆された。我が国と隣国の国境付近で大規模な土砂災害が起き、その際隣国から多数の人材補助を受けたのだ。そのためユティシア王女は友好の証として隣国へ嫁ぐことになった。代わりにスティラート家に嫁ぐことになったのは、王族と親戚筋に当たる女性である。だが、親戚筋とはいえ爵位は伯爵。スティラート家はずっと納得せずにいたのだ。

 陛下は当時ユエンに「娘を産んでくれないか」と言ってきた。冗談とわかっていたので適当に受け流していたが、数年後マリアンヌが誕生した。陛下の希望もあってジュリアとマリアンヌは王子の婚約者候補とされた。一応水面下で審議が重ねられている。

 王子とジュリアは15歳になる。そろそろはっきりさせないといけない。そんな中、スタンピードが起こってしまった。

 スティラート家は魔獣の通り道となり、屋敷や敷地は今は跡形もない。幸いにも彼らは早めに王城に避難しており被害者は出ていないのだが、問題は避難した後のことだった。彼らは王族が暮らす城とは別に建てられた城を陣取っている。そこは数年前に建てられた各国の要人を招くための迎賓城である。まだほとんどの部屋が未使用に近いその城に、彼らは我が城のような振る舞いで居座ってしまった。スタンピードの被害者と思えば強く出ることもできず容認してしまったのだが、最近はますます傍若無人な振る舞いで目に余るようになってきた。

 陛下としたら、この状態でスティラート家にこれ以上の権限を与えたくはない。婚約者はマリアンヌにしたいと思っているだろう。料理の神の祝福を得たと聞いたら、それだけで婚約者として条件を得ている。それだけ我が国では神の祝福は重大な事案なのである。

 だがもしマリアンヌを婚約者としてしまったら、スティラート家の報復は相当なものになる。ユティシア王女のことも持ち出し、国から不利益を得ていると言い出して人民を扇動する可能性もある。正直頭が痛い。

 ユエンが眉間に皺を寄せこめかみをマッサージしていると、従者のライアンが目を輝かせてこちらを見ていた。

「マリアンヌ様の朝食、大変美味しく頂戴いたしました」

 少しは上司の様子を見て空気を読めよ、とユエンは思うがマリアンヌの朝食を思い出したら顔が崩れてしまう。

「あのパンケーキ、ずっと食べていたいと思うほどでした。あんなに美味しい料理は生まれて初めて食べました」

 宰相のユエンに就いているくらいである。彼は国で一番の学校を主席で卒業し、国中の本を片っぱしから読破したと言われている。感情に左右されることはなく、参考にするのは過去の文献のみと彼は豪語してきた。ここまでできる男はいないとユエンは思っていた。しかし、今の彼は子どもの感想程度の言葉しか発していない。ニコニコと無邪気に笑いながら、延々と朝食について語っている。正直アホっぽく見えるのだが、マリアンヌの神の祝福の力が人から邪気を抜いたせいだとユエンは感じていた。

 王城に着いて仕事が開始されたら、こんな気持ちは味わえない。馬車の中の少しの間だけでもこの気持ちを味わっておきたい。ユエンはそう考えを切り替え、ライアンの話を相槌もう打たずに聞いていたのであった。


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