美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー

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 覚悟はしたはずだった。マリアンヌはとんでもない美少女だ。だからその父や兄だって、美形であると考えて間違いない。しかし、実際見た時の破壊力ったらなかった。なんであんな整った顔が存在するんだ?CGで作ったってあそこまで整わないんじゃないか?それがおとーさまとおにーさまなわけよ。そりゃ、まともに話なんかできないよね。

 何で料理できるんだ、やったことないのにって問い詰められるかと思っていた。ところがその辺りはみんな『神の祝福』で解決してしまっている。そして目に入るのは美形の人々。そりゃもう言葉なんて出てこない。まともに目なんて合わせられないから節目がちにもなる。

 極め付けは膝の上だ。何でおにーさまは私を膝の上に?と思ったが、マリアンヌの記憶ではそれは日常の一コマだった。溺愛してくるおにーさまは、マリアンヌをいつも膝の上に座らせ日々の四方山話をしていたようだ。ついでに言うと「リリン」は彼のみ使うマリアンヌの愛称である。

 32歳の独身の真理子としたら、恥ずかしさで心臓が止まる自信がある。が、今はマリアンヌである。美少女は完璧イケメンにーさまの膝など使い古した愛用の座布団程度にしか思っていないわけだった。

 朝食も無事終わり、お父様、お兄様は揃って出かけてしまう。しばらく家には戻れないかもしれない。玄関前に立った二人は、まるで一生戻れないとでもいうくらいの深刻さだった。

 マリアンヌは用意したバスケットを2つ、二人に手渡す。ちょっとファンシーな雰囲気になってしまった。

「ごめんなさい、荷物になってしまうけどお昼に召し上がってください」

「え?昼に?」

「はい、サンドイッチです」

「サ・・・ンド、イッチ?」

 お父様がぎこちなく言った。あ、この世界にサンドイッチはないのか。

「パンに具材を挟んだものです。片手で食べられるのでお仕事中、書類を見ながらでも召し上がれます」

 私はハキハキと答えた。実は朝焼いたパンは、思いの外膨れて大きく焼き上がった。それで急遽具材を用意してサンドイッチにしたのだ。昼に食べてもらえればと思い、メイドのマーサとメアリに頼んで入れ物を持ってきてもらった。この世界では入れ物と言ったらバスケットだった。ピクニックみたいな感じで二人が持つと異様な感じもしたけど、仕方がない。

 お父様の目がじっと私を見ていた。そこで私は失敗したことに気づいた。貴族の方が手掴みで食事をするはずがないのだ。

「そ、そんなお行儀の悪いことしませんね」

 お父様の目は少し血走っているようにも見える。マリアンヌ、そんな娘に育てた覚えはないよと言っているかのようだ。まさか、中身が32歳と入れ替わったことに気づいた?

 セバスチャンたちの話やマリアンヌの記憶を探ると、この世界には魔法が存在する。そしてお父様は魔法が使えるそうである。宰相になれるくらいだから魔法も熟知していそうだ。ということは、いずれ気づかれるのではないか?

 ドキドキして、チラリと上目でお父様を見るとバッチリ目があった。ヤバい・・・。

「マリアンヌ!」

 お父様が私をガシッと抱きしめた。

「お父様が仕事で忙しくて食事の時間も取れないってわかってくれたんだねっ。全てお父様のことを考えてこの料理を作ってくれたんだねっ。シャンドゥイッチ。覚えるよ。お父様とマリアンヌのシャンドゥイッチ!」

 サンドイッチなのだが発音がシャンドウイッチになっている。が、そんなことはどうでもいい。私は今キュウキュウに抱きしめられて声も出ません。
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