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多分夢なんだろうと思う。私は女の子と出会った。金髪碧眼の可愛らしい女の子である。ピラピラのドレスを着ていてお姫様みたいだった。その子は自分の名前をマリアンヌだと言った。いい名前だと思った。私の名前は真理子だから似てるねぇと笑い合った。ちなみにどう見てもマリアンヌは外国人だったけど言葉は通じた。夢だからかもしれない。
マリアンヌは公爵の家の子で12歳、10歳上のお兄さんと8歳上のお兄さんがいるとのことだった。マリアンヌの家はお城の近くにあって、お父さんは国の宰相で上のお兄さんは騎士だそうだ。カッコいいねと褒めたけど、そうでもないと沈んだ声で返された。
スタンピードがお城の周辺で起きて大変なことになっている、とマリアンヌは言う。スタンピードとは何かと聞いたら、魔獣が大量に出てきて暴れまくることだそうだ。では魔獣とは何かと聞いたら、マリアンヌは憮然とした表情を浮かべた。魔獣を知らないのかと言うので知らないと言ったら、大変驚いていた。
とにかく大きくて獰猛な生き物、とマリアンヌは説明する。とりあえず、私は大量の野生動物が一斉にやってきた、と想像した。あるいは恐竜が大挙して押し寄せてきた。そんな情景を思い浮かべて、それは大変だと思う。
私が自分の想像で顔を歪めたことにマリアンヌは納得したようで、お城と自分の住んでいる家は無事ではあったけど街は壊滅状態。王都は人の出入りが禁止され、家を無くした貴族の人はお城に避難したそうである。
実はそのスタンピードが起きる前に、マリアンヌはお母さんと二番目のお兄さんと一緒にお母さんの実家に行くことになっていたそうだ。お母さんの実家は離れた土地にあるそうで、お母さんは一人娘だったので二番目のお兄さんがお母さんの実家の爵位を継ぐことになっている。お父さんと上のお兄さんは仕事があるので一緒には行けないが、マリアンヌもしばらくはお母さんの実家で過ごすことになっていた。
ところが当日になってマリアンヌは熱を出してしまって行けなくなった。それで先にお母さんとお兄さんは出かけたのだが、スタンピードが起きてしまいマリアンヌは家から出られなくなってしまった。
お父さんもお兄さんも忙しくなり、家には満足にいられなくなった。公爵家なので使用人は何人かいるので、マリアンヌは一人ぼっちで留守番というわけではない。お父さんはマリアンヌにキッチンの鍵を譲った。それはマリアンヌの世界では家を守れという意味でもあるらしい。
よくはわからないけど、両親も兄弟も家にいないのなら主は残されたマリアンヌである。そういうことで鍵を譲ったのかと私は思った。が、マリアンヌは小さく呟いた。
「鍵を譲り受けても料理はできないのに」
てっきりマリアンヌが子どもで公爵令嬢だから料理はしない、できないという意味かと思った。しかしよくよく話を聞いたら違うとわかった。
マリアンヌの世界では、料理は料理人しかできないらしい。
キッチンは料理人しか入れない神聖な場所。料理をしているところは他人が見てはいけないし、誰も料理の最中を見たことがない。レシピなども料理人が伝えていくもの。つまり、一般の人はどのように調理しているか知らないのである。
しかも料理人とは、神に祝福を受けた特別な人間。なりたいからなれるというわけではないらしい。
マリアンヌの家でも料理人がいて料理をしてくれていた。しかしスタンピードのせいで料理人が逃げ出してしまった。食材は山のように家にあるらしいのだが、調理の仕方がわからないのでそのままで食べられる果物や野菜のみ食べているらしい。
違う世界の常識は不思議なものだ。自分の世界ではスタンピードなんてものもないし、魔獣もいない。神に祝福を受けた人しか料理は作れないなんてこともない。マリアンヌに言うと驚かれ、羨ましいと何度も言われた。私でも料理は作れるもの、そう言うとマリアンヌは嬉しそうに笑った、と思う。
その後、私がマリアンヌに何を言ったか、マリアンヌがどう答えたかよく覚えていない。
そうだ、そして私は目を覚ました。見えた天井は住み慣れたアパートの天井ではなかった。おそらくマリアンヌの住む公爵の家の豪華な天井だったのだ。
マリアンヌは公爵の家の子で12歳、10歳上のお兄さんと8歳上のお兄さんがいるとのことだった。マリアンヌの家はお城の近くにあって、お父さんは国の宰相で上のお兄さんは騎士だそうだ。カッコいいねと褒めたけど、そうでもないと沈んだ声で返された。
スタンピードがお城の周辺で起きて大変なことになっている、とマリアンヌは言う。スタンピードとは何かと聞いたら、魔獣が大量に出てきて暴れまくることだそうだ。では魔獣とは何かと聞いたら、マリアンヌは憮然とした表情を浮かべた。魔獣を知らないのかと言うので知らないと言ったら、大変驚いていた。
とにかく大きくて獰猛な生き物、とマリアンヌは説明する。とりあえず、私は大量の野生動物が一斉にやってきた、と想像した。あるいは恐竜が大挙して押し寄せてきた。そんな情景を思い浮かべて、それは大変だと思う。
私が自分の想像で顔を歪めたことにマリアンヌは納得したようで、お城と自分の住んでいる家は無事ではあったけど街は壊滅状態。王都は人の出入りが禁止され、家を無くした貴族の人はお城に避難したそうである。
実はそのスタンピードが起きる前に、マリアンヌはお母さんと二番目のお兄さんと一緒にお母さんの実家に行くことになっていたそうだ。お母さんの実家は離れた土地にあるそうで、お母さんは一人娘だったので二番目のお兄さんがお母さんの実家の爵位を継ぐことになっている。お父さんと上のお兄さんは仕事があるので一緒には行けないが、マリアンヌもしばらくはお母さんの実家で過ごすことになっていた。
ところが当日になってマリアンヌは熱を出してしまって行けなくなった。それで先にお母さんとお兄さんは出かけたのだが、スタンピードが起きてしまいマリアンヌは家から出られなくなってしまった。
お父さんもお兄さんも忙しくなり、家には満足にいられなくなった。公爵家なので使用人は何人かいるので、マリアンヌは一人ぼっちで留守番というわけではない。お父さんはマリアンヌにキッチンの鍵を譲った。それはマリアンヌの世界では家を守れという意味でもあるらしい。
よくはわからないけど、両親も兄弟も家にいないのなら主は残されたマリアンヌである。そういうことで鍵を譲ったのかと私は思った。が、マリアンヌは小さく呟いた。
「鍵を譲り受けても料理はできないのに」
てっきりマリアンヌが子どもで公爵令嬢だから料理はしない、できないという意味かと思った。しかしよくよく話を聞いたら違うとわかった。
マリアンヌの世界では、料理は料理人しかできないらしい。
キッチンは料理人しか入れない神聖な場所。料理をしているところは他人が見てはいけないし、誰も料理の最中を見たことがない。レシピなども料理人が伝えていくもの。つまり、一般の人はどのように調理しているか知らないのである。
しかも料理人とは、神に祝福を受けた特別な人間。なりたいからなれるというわけではないらしい。
マリアンヌの家でも料理人がいて料理をしてくれていた。しかしスタンピードのせいで料理人が逃げ出してしまった。食材は山のように家にあるらしいのだが、調理の仕方がわからないのでそのままで食べられる果物や野菜のみ食べているらしい。
違う世界の常識は不思議なものだ。自分の世界ではスタンピードなんてものもないし、魔獣もいない。神に祝福を受けた人しか料理は作れないなんてこともない。マリアンヌに言うと驚かれ、羨ましいと何度も言われた。私でも料理は作れるもの、そう言うとマリアンヌは嬉しそうに笑った、と思う。
その後、私がマリアンヌに何を言ったか、マリアンヌがどう答えたかよく覚えていない。
そうだ、そして私は目を覚ました。見えた天井は住み慣れたアパートの天井ではなかった。おそらくマリアンヌの住む公爵の家の豪華な天井だったのだ。
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