1 / 4
1:出発編
しおりを挟む
「ねぇ 豊彦くん。デートで行きたい所があるの」
夕飯を作りながら映美が言った。
「それって、普通はデートと言わないでしょ?」
お皿を運びながら豊彦が言った。
「え? そうなの? 何と言えばいいのかな?」
驚いたように聞き返す表情は、確信犯だ。
「オーロラを横から見たいんでしょ? デートじゃなくて海外旅行って言うでしょう。それに、案外オーロラから離れているから『目前に広がる光のカーテン』みたいな事は期待できないかもよ」
二人が話しているのは開港して十年が経ちマスコミの騒ぎも落ち着いてきたスペースポートタワーの事だった。
「今年は、地軸近くでオーロラが観察されていると、スペースポートタワーのサイトに出ていたの。来週なら天気も安定しているみたいだし、ポートタワーホテルも空室があるから大丈夫よ」
キラキラした瞳で見ている。一緒に生活しているのに毎日見ているのに、いつもドキドキする。
「わかったよ。スペースポートタワーは行ってみたかったんだ」
極夜の北極海を旅客機は地軸に向かって飛行を続けている。
窓の外は天頂に北極星があり天の川が見えるはずだけど、映美が見つめているのは機内灯に照らし出された豊彦の寝顔だった。
「豊彦くん起きて」
揺さぶる映美の横顔越しに外を見ると、眼下の闇から天空の闇に光の帯があった。
「大きいという概念を超えた大きさだね」
乗客の大半は観光客なので、着陸前に十分ほどの周回飛行をするのが航空会社のサービスになっていた。
「窓の外は上も下も右も左も全部スペースポートタワーだね。イルミネーションが付いていなければそこにある事すら分からない・・・。北極海のど真ん中だから、都市の明かりも何もないからね」
豊彦は、目をキラキラさせながら言った。
「骨組みだけなのに、向こう側が見えないなぁ。凄いなぁ」
「豊彦くん・・・、訊いて」
映美は、ニコニコしながら言った。
「はい、映美くんどうぞ」
「実は、向こう側が見える場所が二か所あるんです・・・」
豊彦は、ちょっと驚いてみせたけど、
「僕が知っているのは、一か所だけどな・・・」
と思わせぶりに言った。
「主任設計技師が自分の誕生日の正午に太陽の光が抜けるように設計したって話でしょ」
豊彦の上から目線が崩れていった。
「ふふふ、夏至の日に真東と真西から太陽の光が抜けるように設計してあるのよ」
映美は、フェイクネタも含めて確認済みと言いたげに言った。
「映美先生、質問があります」
「はい、豊彦くん。どうぞ」
「先生、真東ってどっちですか?」
どんな質問が飛び出るかと思えば・・・、ちょっとがっかりの映美だった。
「太陽が昇る方ですよ?」
映美は、何かがおかしい事に気がついた。
「先生、真北ってどっちですか?」
「・・・、真北は頭の上。だから真南は足の下・・・・、東も西もないですね」
「僕たち、二人ともフェイクネタに引っ掛かってしまいましたね」
二人してクスクス笑った。お互い相手を喜ばせようと探したネタがどちらもフェイクだった。それは残念だったけど楽しむ事ができた。
「では、スペースポートタワーのサイトにもあるネタを一つ披露しましょう」
映美は気を取り直して言った。
「航空機が真っ直ぐに近づくと、テロと区別がつかないので旋回が義務付けられています」
豊彦は、素直に驚いた。
「周回飛行は航空会社のサービスだと、観光ガイドに載っていたけど・・・・」
「不用意に近づいたら撃墜されるとは、観光ガイドは書けないからね」
そう言いながら、映美は豊彦を見つめていた。
旅客機は極夜の闇の中を進入灯に向け高度を下げていった。進入コースを調整するために、機体が僅かに揺れながら更に高度を下げていくと、車輪が滑走路を叩いた。
機体が誘導路に入るとドーム状のエプロンの扉が開いた。乗客の間からは歓声があがった。極夜の北極にそこだけ昼があるような明るさだったからだ。
「明るいだけで、こんなにも嬉しくなるなんて・・・」
「そうだね。僕たちはボーディングブリッジで移動だけど、機体整備は外での作業だからドームは必要不可欠だよね」
「外気温ってどのくらいだっけ?」
「だいたいマイナス三十度。家庭用冷凍庫がマイナス二十度くらいだから、観光客の服装だと十分もたないんじゃないのかな?」
「ここは寒いし、上層は空気がないし、何かあったら助からないわね」
「映美さん、引き返すなら今のうちですよ」
映美は腕を掴むと、
「二人一緒になら、悪くないわ」
と、いたずらっぽく言った。
「そうだね。勿論二人一緒に助かるけどね」
「もちろんよ。私たちの時間は始まったばかりだからね」
掴んでいる腕に力を込めた。
夕飯を作りながら映美が言った。
「それって、普通はデートと言わないでしょ?」
お皿を運びながら豊彦が言った。
「え? そうなの? 何と言えばいいのかな?」
驚いたように聞き返す表情は、確信犯だ。
「オーロラを横から見たいんでしょ? デートじゃなくて海外旅行って言うでしょう。それに、案外オーロラから離れているから『目前に広がる光のカーテン』みたいな事は期待できないかもよ」
二人が話しているのは開港して十年が経ちマスコミの騒ぎも落ち着いてきたスペースポートタワーの事だった。
「今年は、地軸近くでオーロラが観察されていると、スペースポートタワーのサイトに出ていたの。来週なら天気も安定しているみたいだし、ポートタワーホテルも空室があるから大丈夫よ」
キラキラした瞳で見ている。一緒に生活しているのに毎日見ているのに、いつもドキドキする。
「わかったよ。スペースポートタワーは行ってみたかったんだ」
極夜の北極海を旅客機は地軸に向かって飛行を続けている。
窓の外は天頂に北極星があり天の川が見えるはずだけど、映美が見つめているのは機内灯に照らし出された豊彦の寝顔だった。
「豊彦くん起きて」
揺さぶる映美の横顔越しに外を見ると、眼下の闇から天空の闇に光の帯があった。
「大きいという概念を超えた大きさだね」
乗客の大半は観光客なので、着陸前に十分ほどの周回飛行をするのが航空会社のサービスになっていた。
「窓の外は上も下も右も左も全部スペースポートタワーだね。イルミネーションが付いていなければそこにある事すら分からない・・・。北極海のど真ん中だから、都市の明かりも何もないからね」
豊彦は、目をキラキラさせながら言った。
「骨組みだけなのに、向こう側が見えないなぁ。凄いなぁ」
「豊彦くん・・・、訊いて」
映美は、ニコニコしながら言った。
「はい、映美くんどうぞ」
「実は、向こう側が見える場所が二か所あるんです・・・」
豊彦は、ちょっと驚いてみせたけど、
「僕が知っているのは、一か所だけどな・・・」
と思わせぶりに言った。
「主任設計技師が自分の誕生日の正午に太陽の光が抜けるように設計したって話でしょ」
豊彦の上から目線が崩れていった。
「ふふふ、夏至の日に真東と真西から太陽の光が抜けるように設計してあるのよ」
映美は、フェイクネタも含めて確認済みと言いたげに言った。
「映美先生、質問があります」
「はい、豊彦くん。どうぞ」
「先生、真東ってどっちですか?」
どんな質問が飛び出るかと思えば・・・、ちょっとがっかりの映美だった。
「太陽が昇る方ですよ?」
映美は、何かがおかしい事に気がついた。
「先生、真北ってどっちですか?」
「・・・、真北は頭の上。だから真南は足の下・・・・、東も西もないですね」
「僕たち、二人ともフェイクネタに引っ掛かってしまいましたね」
二人してクスクス笑った。お互い相手を喜ばせようと探したネタがどちらもフェイクだった。それは残念だったけど楽しむ事ができた。
「では、スペースポートタワーのサイトにもあるネタを一つ披露しましょう」
映美は気を取り直して言った。
「航空機が真っ直ぐに近づくと、テロと区別がつかないので旋回が義務付けられています」
豊彦は、素直に驚いた。
「周回飛行は航空会社のサービスだと、観光ガイドに載っていたけど・・・・」
「不用意に近づいたら撃墜されるとは、観光ガイドは書けないからね」
そう言いながら、映美は豊彦を見つめていた。
旅客機は極夜の闇の中を進入灯に向け高度を下げていった。進入コースを調整するために、機体が僅かに揺れながら更に高度を下げていくと、車輪が滑走路を叩いた。
機体が誘導路に入るとドーム状のエプロンの扉が開いた。乗客の間からは歓声があがった。極夜の北極にそこだけ昼があるような明るさだったからだ。
「明るいだけで、こんなにも嬉しくなるなんて・・・」
「そうだね。僕たちはボーディングブリッジで移動だけど、機体整備は外での作業だからドームは必要不可欠だよね」
「外気温ってどのくらいだっけ?」
「だいたいマイナス三十度。家庭用冷凍庫がマイナス二十度くらいだから、観光客の服装だと十分もたないんじゃないのかな?」
「ここは寒いし、上層は空気がないし、何かあったら助からないわね」
「映美さん、引き返すなら今のうちですよ」
映美は腕を掴むと、
「二人一緒になら、悪くないわ」
と、いたずらっぽく言った。
「そうだね。勿論二人一緒に助かるけどね」
「もちろんよ。私たちの時間は始まったばかりだからね」
掴んでいる腕に力を込めた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ぼくらの国防大作戦
坂ノ内 佐吉
SF
始まりは、周人に届いた一通の脅迫メールだった。メールの主は2065年からタイムスリップしてきた未来人。
数年後に第三次世界大戦が勃発、日本に核ミサイルが落とされると言う未来人の話を聞いて、周人とその仲間たちは、日本を救うためのミッションに加わっていく。
月とガーネット[上]
雨音 礼韻
SF
西暦2093年、東京──。
その70年前にオーストラリア全域を壊滅させる巨大隕石が落下、地球内部のスピネル層が化学変化を起こし、厖大な特殊鉱脈が発見された。
人類は採取した鉱石をシールド状に改良し、上空を全て覆い尽くす。
隕石衝突で乱れた気流は『ムーン・シールド』によって安定し、世界は急速に発展を遂げた。
一方何もかもが上手くいかず、クサクサとしながらふらつく繁華街で、小学生時代のクラスメイトと偶然再会したクウヤ。
「今夜は懐が温かいんだ」と誘われたナイトクラブで豪遊する中、隣の美女から贈られるブラッディ・メアリー。
飲んだ途端激しい衝撃にのたうちまわり、クウヤは彼女のウィスキーに手を出してしまう。
その透明な液体に纏われていた物とは・・・?
舞台は東京からアジア、そしてヨーロッパへ。
突如事件に巻き込まれ、不本意ながらも美女に連れ去られるクウヤと共に、ハードな空の旅をお楽しみください☆彡
◆キャラクターのイメージ画がある各話には、サブタイトルにキャラのイニシャルが入った〈 〉がございます。
◆サブタイトルに「*」のある回には、イメージ画像がございます。
ただ飽くまでも作者自身の生きる「現代」の画像を利用しておりますので、70年後である本作では多少変わっているかと思われますf^_^;<
何卒ご了承くださいませ <(_ _)>
第2~4話まで多少説明の多い回が続きますが、解説文は話半分くらいのご理解で十分ですのでご安心くださいm(_ _)m
関連のある展開に入りましたら、その都度説明させていただきます(=゚ω゚)ノ
クウヤと冷血顔面w美女のドタバタな空の旅に、是非ともお付き合いを☆
(^人^)どうぞ宜しくお願い申し上げます(^人^)
ヒト・カタ・ヒト・ヒラ
さんかいきょー
SF
悪堕ち女神と、物語を終えた主人公たちと、始末を忘れた厄介事たちのお話。
2~5メートル級非人型ロボット多目。ちょっぴり辛口ライトSF近現代伝奇。
アクセルというのは、踏むためにあるのです。
この小説、ダイナミッ〇プロの漫画のキャラみたいな目(◎◎)をした登場人物、多いわよ?
第一章:闇に染まった太陽の女神、少年と出会うのこと(vs悪堕ち少女)
第二章:戦闘機械竜vsワイバーンゴーレム、夜天燃ゆるティラノ・ファイナルウォーズのこと(vsメカ恐竜)
第三章:かつて物語の主人公だった元ヒーローと元ヒロイン、めぐりあいのこと(vsカブトムシ怪人&JK忍者)
第四章:70年で出来る!近代国家乗っ取り方法のこと/神様の作りかた、壊しかたのこと(vs国家権力)
第五章:三ヶ月でやれる!現代国家破壊のこと(vs国家権力&人造神)
シリーズ構成済。全五章+短編一章にて完結
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
EReC〜生への渇望〜
えむ
SF
西暦2600年。
地球の資源は底を尽き、もはや地球では全ての生産がストップし経済も破綻していた。
あらゆる犯罪が横行し殺人が激増。また餓死者が続出、次いで病死者続出と全世界は一歩、また一歩と破滅へと近づいていた。
…
…
そんな絶望的な状況を打破しようと試行錯誤を繰り返すとある組織があった。『E(earth)R(rescue)e(eight)C(crew)』通称エレック。
1人のリーダーと7人の幹部からなり、その下には100名程の構成員が在籍している。
彼らは日々あらゆる方法を使い地球再生若しくは火星への移住など、人類の存続の可能性を模索していた。
これは滅亡寸前の星で必死に生を渇望する若者たちの物語である。
スタートレック クロノ・コルセアーズ
阿部敏丈
SF
第一次ボーグ侵攻、ウルフ359の戦いの直前、アルベルト・フォン・ハイゼンベルク中佐率いるクロノ・コルセアーズはハンソン提督に秘密任務を与えられる。
スタートレックの二次作品です。
今でも新作が続いている歴史の深いSFシリーズですが、自分の好きなキャラクターを使わせて頂いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる