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18:空腹の助手 家を食う虫
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前の住人はヘビースモーカーの様で燻製室の内側のように隅々まで黄ばんでいた。壁紙を剥がすと行政指定のゴミ袋に詰め込んでいく。絨毯も剥がすとゴミ出しルールに合うように刻んで紐で縛る。畳部屋はフローリングに替えるのでリサイクルセンターまで俊くんが運ぶ事になった。剥がせない天井や柱は中性洗剤を染み込ました雑巾で念入りに拭いていく。庭はコンクリートを敷き詰めようと考えていたドクターを俊くんがハーブと果樹を植えると説得したので、雑草除去も五彦と五花の仕事になってしまった。
搬入口としか考えてなかった中古住宅に住むと決まってから五彦と五花は二十四時間室内の掃除をしているが、未だに終わりは見えなかった。
「冬花、五花は正常に機能していますか?」
「正常だけど残量が少ない。五彦に異常があったの?」
「エネルギー不足でスリープモードになってしまった」
夏彦は作業を中断するとペットボトル置き場に行った。エネルギー源として堆くペットボトルがあるはずだったが、数本が置かれているだけだった。
「ドクター、ペットボトルの消費に補充が間に合っていません。既に五彦がスリープモードになりました」
残りのペットボトルを抱えた夏彦がドクターに報告を入れた。
「分かったわ。とりあえず、五彦と五花に補給してラボに戻して」
ゴミをエネルギー源にすれば地域の美化にも繋がり一挙両得のはずだった。最初はペットボトルのストックが増える一方だったが夏彦・冬花が増えていくと目に付く所のゴミ拾いだけでは間に合わなくなり、茂みの中を探すようになった。資源ゴミやスーパーの回収コーナーは垂涎ものだったがリサイクルなので諦めるしかなかった。駅周辺やアパートなどマナーが悪い所が頼みの綱だったが美化されると投棄が減ると言う喜ばしい状態がペットボトルの確保を難しくした。
助手が増え任せられる部分が増えた結果、コアな研究に使える時間が増えたドクターだった。それでもイレギュラーな問題が発生した時はドクター自ら行うしかなかった。
「冬花、ペットボトルの枯渇問題に対して解決策を提案しなさい」
ドクターの隣りで作業をしていた冬花は手を止めると考え始めた・・・。
「ドクター、この問題をペットボトルの枯渇と捉えますか? 再定義するとエネルギー問題になりますが・・・」
ドクターは目を細めると満足そうに頷いた。夏彦・冬花の消化システムは地域の美化と調達コストを考えてペットボトルに最適化していたがペットボトルが絶対条件ではなかった。海洋で活躍しているクジラで言えば多様なゴミを消化してエネルギーを取り出せるようにしてあった。
「良い考え方ですね。解決すべきはエネルギー問題です」
「僕たちには分からない事があります。ペットボトル以外の消化能力です。環境問題を考えれば生ゴミ、紙ゴミ、プラスチックゴミなど多岐にわたりますが、何故ペットボトルだけですか?」
「簡単に言うと燃料電池が必要とする水素を確保するため。だから、それ以外の元素は不純物で排出が必要な事。分子構造によって分解反応が異なり生成エネルギーより消化に使うエネルギーが上回る場合もある事。それを踏まえて純度が高く入手が容易な環境汚染物質だから」
冬花はペットボトルの構造式を確認すると二花と三花と連携して代案を検討し始めた。
夏彦はアパートから少し離れた住宅に入ると真っ直ぐリビングに向かった。部屋の隅には剥がされた壁紙が丸めて置かれていた。黄色くなった窓ガラスは透明に戻りサッシの隙間に黄色が残る程度になっていた。燻された天井には扇形に拭いた跡が脚立の場所まで広がっていた。そして、五彦は壁に寄りかかり転寝するようにスリープモードになっていた。五花は傍らに立ち周囲を警戒していた。
「五花、残量は?」
「二十五パーセントあります」
夏彦はそれぞれの残量に見合うようにペットボトルを渡した。
「五彦、補給したらセルフチェックをするように。動けるようになるまでにペットボトルを探してくる。五花、後をお願いする」
夏彦は近くの自動販売機に向かった。運が良ければゴミ箱の横にコンビニ袋に詰め込んだペットボトルが散乱しているはずだからだ。
五花はリビングが想像以上に綺麗になっている事に疑問を感じていた。それぞれの担当エリアの作業を始める前に作業手順を確認していたからだ。五彦に確認したい思いはあったが優先事項が消化活動にあるので待つ事にした。
「五花、セルフチェックが終わったのでセーブモードに切り替えて大丈夫です」
五彦の言葉で張り詰めた緊張感が和らいだのは、五彦も五花も人に模倣されている結果と言えた。
「五彦、僕たちのシミュレーションではエネルギー不足になる前にラボに戻れるはずでした。トラブルがありましたか?」
「セルフチェックは正常でした。原因は作業の見積もりの誤差です。早く終わらせて消費総量を減らそうとしたけど、天井の汚れに想定以上のエネルギーを使いました。セルフチェックなどの一部機能をカットした事が問題を大きくしました」
二体の会話はそれぞれ夏彦・冬花に伝わった。
冬花は五花からのデータを受けると、夏彦の意見も確認した。
「ドクター、僕たちに出来る現実的な事は更に広い範囲からペットボトルを拾い集める事です。効率よく移動するためには自転車が有効な手段です。次に培養槽を充電器として活用する事でペットボトルの消費を減らせ余剰電力活用が出来ます。三番目は僕たちの消化機能をペットボトル以外にも対応できる様に改造する事の三点を提案します」
ドクターは冬花の提案は想定範囲内と感じたが、夏彦・冬花のマネジメントを疎かにして研究ばかりだった事が直接の原因だと痛感していた。
「残念ながら改造は難しいわ。口から吐き出す方法が取れなくなるから。個体もまだまだ増やす予定があるから、大量回収の方法を考えるのが難しいけど現実的かも・・・・。とりあえず自転車を用意します」
ドクターは自分で言いながら、それで解決を図るのは難しいとも感じていた。
部屋に戻ると夕飯が出来上がっていた。夏彦・冬花も食事の支度が出来るようになっているが俊くんが厭わず作ってくれていた。
「新居の掃除は進んでいますか?」
と訊くと俊くんは唐揚を一つ摘まんだ。
「掃除中にエネルギー切れで五彦がスリープモードになってしまいました」
「五彦? と言う事は全部で十二人?」
増えているのが分かっていても服装も全部同じでは個体数までは分からなかった。
「あ・・・・、そうですね。六倍に増えればペットボトルの枯渇が起きるのは当然でした」
事の顛末を俊くんに説明をしている間、箸を持ったままだった。
「なるほどね。良い子に育っているのは素敵な事だと思うよ。それに、気遣いが出来るのは大切な要素だと思うよ」
と、言うと俊くんは要求事項と制約事項を箇条書きにまとめた。
「つまり、夏彦・冬花の消化機能で対応できる物質なら何でも良い訳だよね?」
そこは十分に分かっていると言いたげに頷いた。
「リサイクルステーションにあるペットボトルは魅力的だけど、これからも不法投棄を活用したいの」
「自然界に参考になるモデルはないの?」
「ナノマシン集合体は自然界に存在しないからね・・・・」
「例えば、腸内細菌に消化を手伝わせるとかは?」
「イメージは分かるけど消化プロセスの変更は難しい」
冷めた夕飯を挟んで無言が続いた。
「お肉だよ。牛はセルロースをタンパク質に変換するバイオマシン。どう?」
良く分からない。と困惑している。
「シロアリみたいのを造って体内にポリエチレンを蓄えさせる。それを夏彦・冬花の食料にして廃屋問題を解決するのはどう?」
「イメージは分かったけど、無分別に食べつくされたらシロアリそのものになるからね。難しいけど、アイデアは貰ったわ。相談して良かった」
ドクター本人が思っている以上に手応えがあったようだ。冷めたごはんを美味しそうに食べている。
それから暫らく、俊くんの土日はペットボトル拾いに費やされた。
河川敷はペットボトルの宝庫だった。見た目は綺麗に見えても茂みを分けると必ず数本落ちている。獣道から外れた場所に落ちているのは投げ込んでいるからだろう。トングで拾い集めていると飲み終わったペットボトルを渡しに来る奴がいる。中には家庭ゴミを渡しに来る奴もいる。礼儀正しく厚かましいのが日本人らしい。
「ハエトリグモを出せる?」
「僕は三彦です。要望の機能は夏彦だけです」
イラつき気味の俊くんに事務的に答える三彦だった。
「分かったよ。真理子さんに相談するよ」
不法投棄がなくなれば、自宅の前に回収ボックスを設置して解決。と思う所でもあった。
「ドクターは忙しいので仕事を増やさないで下さい」
三彦の事務的な答えには、誰のために土日のゴミ拾いをしているのかと言いたくなったが、真理子さんの為と思うと三彦の言い分にも一理あった。
ペットボトルの枯渇はなくなったもののドクターの憂鬱はまだ解消されなかった。クジラの大きさがあればどんなゴミでも消化できる。放流の時は単一のゴミの消化機能。体長に合わせて他のゴミの消化機能を覚醒させていく事が出来た。しかし、夏彦・冬花の大きさは中途半端だった。
「ペットボトルは足りている?」
と、訊かれても、
「お陰様で、十分あるわ」
と、上の空で返事をしていた。
「どうしたの? 行き詰っているように見えるけど?」
行き詰まる時は行き詰り、逃げ出したくなる時は逃げ出したくなるよね? と顔に出ていても口には出さない。特に最先端のナノマシンだとネットに参考になる情報は皆無だった。
「シロアリのアイデア。カミキリの幼虫で造ろうと思ったけど住宅建材は思った以上に幅広い素材で対応できない」
「カミキリの幼虫は木質のみ、御蚕様は桑葉しか食べないよね。昆虫は一種類しか食べないのが多いと思うけど? 単機能で複数種類を造ったら」
素直に考えればその通り。夏彦・冬花も単機能ナノマシンの複合体だった。
「そうね。そうね。そうよね・・・。そうでした」
言われてみればと、その場で指示を出すドクターだった。しかし、根を詰め過ぎているのは明らかだった。
「たまには、外食をしませんか?」
家を買えるほどお金があるのなら、リフレッシュにも使えるはずだ。
「お金は増えたけど、時間がない」
「でも、視野狭窄になると時間を浪費するでしょ」
図星で怯んだドクター。すかさず腕を掴んだ俊くん。
「美味しい泰料理の店があるらしいです。そこに行きましょう」
搬入口としか考えてなかった中古住宅に住むと決まってから五彦と五花は二十四時間室内の掃除をしているが、未だに終わりは見えなかった。
「冬花、五花は正常に機能していますか?」
「正常だけど残量が少ない。五彦に異常があったの?」
「エネルギー不足でスリープモードになってしまった」
夏彦は作業を中断するとペットボトル置き場に行った。エネルギー源として堆くペットボトルがあるはずだったが、数本が置かれているだけだった。
「ドクター、ペットボトルの消費に補充が間に合っていません。既に五彦がスリープモードになりました」
残りのペットボトルを抱えた夏彦がドクターに報告を入れた。
「分かったわ。とりあえず、五彦と五花に補給してラボに戻して」
ゴミをエネルギー源にすれば地域の美化にも繋がり一挙両得のはずだった。最初はペットボトルのストックが増える一方だったが夏彦・冬花が増えていくと目に付く所のゴミ拾いだけでは間に合わなくなり、茂みの中を探すようになった。資源ゴミやスーパーの回収コーナーは垂涎ものだったがリサイクルなので諦めるしかなかった。駅周辺やアパートなどマナーが悪い所が頼みの綱だったが美化されると投棄が減ると言う喜ばしい状態がペットボトルの確保を難しくした。
助手が増え任せられる部分が増えた結果、コアな研究に使える時間が増えたドクターだった。それでもイレギュラーな問題が発生した時はドクター自ら行うしかなかった。
「冬花、ペットボトルの枯渇問題に対して解決策を提案しなさい」
ドクターの隣りで作業をしていた冬花は手を止めると考え始めた・・・。
「ドクター、この問題をペットボトルの枯渇と捉えますか? 再定義するとエネルギー問題になりますが・・・」
ドクターは目を細めると満足そうに頷いた。夏彦・冬花の消化システムは地域の美化と調達コストを考えてペットボトルに最適化していたがペットボトルが絶対条件ではなかった。海洋で活躍しているクジラで言えば多様なゴミを消化してエネルギーを取り出せるようにしてあった。
「良い考え方ですね。解決すべきはエネルギー問題です」
「僕たちには分からない事があります。ペットボトル以外の消化能力です。環境問題を考えれば生ゴミ、紙ゴミ、プラスチックゴミなど多岐にわたりますが、何故ペットボトルだけですか?」
「簡単に言うと燃料電池が必要とする水素を確保するため。だから、それ以外の元素は不純物で排出が必要な事。分子構造によって分解反応が異なり生成エネルギーより消化に使うエネルギーが上回る場合もある事。それを踏まえて純度が高く入手が容易な環境汚染物質だから」
冬花はペットボトルの構造式を確認すると二花と三花と連携して代案を検討し始めた。
夏彦はアパートから少し離れた住宅に入ると真っ直ぐリビングに向かった。部屋の隅には剥がされた壁紙が丸めて置かれていた。黄色くなった窓ガラスは透明に戻りサッシの隙間に黄色が残る程度になっていた。燻された天井には扇形に拭いた跡が脚立の場所まで広がっていた。そして、五彦は壁に寄りかかり転寝するようにスリープモードになっていた。五花は傍らに立ち周囲を警戒していた。
「五花、残量は?」
「二十五パーセントあります」
夏彦はそれぞれの残量に見合うようにペットボトルを渡した。
「五彦、補給したらセルフチェックをするように。動けるようになるまでにペットボトルを探してくる。五花、後をお願いする」
夏彦は近くの自動販売機に向かった。運が良ければゴミ箱の横にコンビニ袋に詰め込んだペットボトルが散乱しているはずだからだ。
五花はリビングが想像以上に綺麗になっている事に疑問を感じていた。それぞれの担当エリアの作業を始める前に作業手順を確認していたからだ。五彦に確認したい思いはあったが優先事項が消化活動にあるので待つ事にした。
「五花、セルフチェックが終わったのでセーブモードに切り替えて大丈夫です」
五彦の言葉で張り詰めた緊張感が和らいだのは、五彦も五花も人に模倣されている結果と言えた。
「五彦、僕たちのシミュレーションではエネルギー不足になる前にラボに戻れるはずでした。トラブルがありましたか?」
「セルフチェックは正常でした。原因は作業の見積もりの誤差です。早く終わらせて消費総量を減らそうとしたけど、天井の汚れに想定以上のエネルギーを使いました。セルフチェックなどの一部機能をカットした事が問題を大きくしました」
二体の会話はそれぞれ夏彦・冬花に伝わった。
冬花は五花からのデータを受けると、夏彦の意見も確認した。
「ドクター、僕たちに出来る現実的な事は更に広い範囲からペットボトルを拾い集める事です。効率よく移動するためには自転車が有効な手段です。次に培養槽を充電器として活用する事でペットボトルの消費を減らせ余剰電力活用が出来ます。三番目は僕たちの消化機能をペットボトル以外にも対応できる様に改造する事の三点を提案します」
ドクターは冬花の提案は想定範囲内と感じたが、夏彦・冬花のマネジメントを疎かにして研究ばかりだった事が直接の原因だと痛感していた。
「残念ながら改造は難しいわ。口から吐き出す方法が取れなくなるから。個体もまだまだ増やす予定があるから、大量回収の方法を考えるのが難しいけど現実的かも・・・・。とりあえず自転車を用意します」
ドクターは自分で言いながら、それで解決を図るのは難しいとも感じていた。
部屋に戻ると夕飯が出来上がっていた。夏彦・冬花も食事の支度が出来るようになっているが俊くんが厭わず作ってくれていた。
「新居の掃除は進んでいますか?」
と訊くと俊くんは唐揚を一つ摘まんだ。
「掃除中にエネルギー切れで五彦がスリープモードになってしまいました」
「五彦? と言う事は全部で十二人?」
増えているのが分かっていても服装も全部同じでは個体数までは分からなかった。
「あ・・・・、そうですね。六倍に増えればペットボトルの枯渇が起きるのは当然でした」
事の顛末を俊くんに説明をしている間、箸を持ったままだった。
「なるほどね。良い子に育っているのは素敵な事だと思うよ。それに、気遣いが出来るのは大切な要素だと思うよ」
と、言うと俊くんは要求事項と制約事項を箇条書きにまとめた。
「つまり、夏彦・冬花の消化機能で対応できる物質なら何でも良い訳だよね?」
そこは十分に分かっていると言いたげに頷いた。
「リサイクルステーションにあるペットボトルは魅力的だけど、これからも不法投棄を活用したいの」
「自然界に参考になるモデルはないの?」
「ナノマシン集合体は自然界に存在しないからね・・・・」
「例えば、腸内細菌に消化を手伝わせるとかは?」
「イメージは分かるけど消化プロセスの変更は難しい」
冷めた夕飯を挟んで無言が続いた。
「お肉だよ。牛はセルロースをタンパク質に変換するバイオマシン。どう?」
良く分からない。と困惑している。
「シロアリみたいのを造って体内にポリエチレンを蓄えさせる。それを夏彦・冬花の食料にして廃屋問題を解決するのはどう?」
「イメージは分かったけど、無分別に食べつくされたらシロアリそのものになるからね。難しいけど、アイデアは貰ったわ。相談して良かった」
ドクター本人が思っている以上に手応えがあったようだ。冷めたごはんを美味しそうに食べている。
それから暫らく、俊くんの土日はペットボトル拾いに費やされた。
河川敷はペットボトルの宝庫だった。見た目は綺麗に見えても茂みを分けると必ず数本落ちている。獣道から外れた場所に落ちているのは投げ込んでいるからだろう。トングで拾い集めていると飲み終わったペットボトルを渡しに来る奴がいる。中には家庭ゴミを渡しに来る奴もいる。礼儀正しく厚かましいのが日本人らしい。
「ハエトリグモを出せる?」
「僕は三彦です。要望の機能は夏彦だけです」
イラつき気味の俊くんに事務的に答える三彦だった。
「分かったよ。真理子さんに相談するよ」
不法投棄がなくなれば、自宅の前に回収ボックスを設置して解決。と思う所でもあった。
「ドクターは忙しいので仕事を増やさないで下さい」
三彦の事務的な答えには、誰のために土日のゴミ拾いをしているのかと言いたくなったが、真理子さんの為と思うと三彦の言い分にも一理あった。
ペットボトルの枯渇はなくなったもののドクターの憂鬱はまだ解消されなかった。クジラの大きさがあればどんなゴミでも消化できる。放流の時は単一のゴミの消化機能。体長に合わせて他のゴミの消化機能を覚醒させていく事が出来た。しかし、夏彦・冬花の大きさは中途半端だった。
「ペットボトルは足りている?」
と、訊かれても、
「お陰様で、十分あるわ」
と、上の空で返事をしていた。
「どうしたの? 行き詰っているように見えるけど?」
行き詰まる時は行き詰り、逃げ出したくなる時は逃げ出したくなるよね? と顔に出ていても口には出さない。特に最先端のナノマシンだとネットに参考になる情報は皆無だった。
「シロアリのアイデア。カミキリの幼虫で造ろうと思ったけど住宅建材は思った以上に幅広い素材で対応できない」
「カミキリの幼虫は木質のみ、御蚕様は桑葉しか食べないよね。昆虫は一種類しか食べないのが多いと思うけど? 単機能で複数種類を造ったら」
素直に考えればその通り。夏彦・冬花も単機能ナノマシンの複合体だった。
「そうね。そうね。そうよね・・・。そうでした」
言われてみればと、その場で指示を出すドクターだった。しかし、根を詰め過ぎているのは明らかだった。
「たまには、外食をしませんか?」
家を買えるほどお金があるのなら、リフレッシュにも使えるはずだ。
「お金は増えたけど、時間がない」
「でも、視野狭窄になると時間を浪費するでしょ」
図星で怯んだドクター。すかさず腕を掴んだ俊くん。
「美味しい泰料理の店があるらしいです。そこに行きましょう」
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