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待ち合わせ
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映美さんから連絡があったのは、待ち合わせ場所に着いてからだった。『三十分ぐらい遅れる』と、短いメールだった。理由は分からないけどバタバタしている中で送ってきたのが良く分かった。映美さんが三十分遅れると言う事は、今が三十分前だから一時間ほど待つと言う事だった。
いつもの様に、カバンから端末を取り出すと本を読み始めた。改札口近くの壁際で行き交う人々の足音を聞きながら読書をする。嫌いじゃない時間の使い方だった。
ちょうど、本の中でも待ち合わせのシーンだった。
――― 彼女は、まだ着いていない。電車が遅れているのかもしれない。洋服選びで迷っていたのかもしれない。もしかしたら、この瞬間に『ごめん、待った?』と息を切らして現れるかもかもしれない。と、思って待っていてもまだ来ない。
時計を見ると約束の時間の少し前だった。
『自分がセッカチなのかな?』
自分が早く着くと相手にも早く来てほしいと思ってしまう。でも、お互い用事がある中での待ち合わせ。都合の良い展開になるとは限らない。でも、ちょっと遅いかな? 自分たちは約束の時間よりは早く集まるタイプだから、十分前なら出会っているはず。
こう言う時、公衆電話の横で待ち合わせをすればよかったと思う。何かあったら連絡をとり合う事が出来るし・・・・。でも、公衆電話って電話番号があるのかな?
~・~・~
昭和の待ち合わせか・・・、連絡手段がないのに待ち合わせをする事が出来た? そもそも、どうやって待ち合わせの連絡をしているのかな?
気になりだすと止まらないのが豊彦の性格だった。読書アプリを閉じ、昭和時代の待ち合わせについて検索をすると幾つか出てきた。『待ち伏せをして約束を取り付ける』ってあるけど待ち伏せしている段階で待ち合わせではないのか・・・、電話が普及する前の昭和なのか。
この小説の設定だと、どのへんの昭和になるのかな・・・、『クラスや職場で約束を取り付ける』があった。これなら、お互いに連絡が出来るけど待ち合わせの時には連絡がつかないのは納得がいく。『相手の家に電話をする』と言うのもある。これなら出掛ける前に相手に連絡を入れられるから遅れるトラブルになる事は少ないのでは? と思ったけど出発前の確認はとらないようだ。それにしても不思議だ・・・。約束は絶対で、待ち合わせの時間を死守するのが当時のマナーなのかもしれない。
―――約束の時間、丁度になった。彼女が遅れた事は一度もない。遅れそうな時には約束をする時に言ってくれていた。それなのに今日は明らかにおかしい。
少なくとも電車の遅延は起きていない。なぜなら、京玉線のアナウンスはそれを告げていないし、ここから見える西口改札の案内板にも遅延情報は表示されていないからだ。
休みの日なら彼女の家に電話を掛けて出かけた時間を確認する事も出来る。でも、今日は放課後の待ち合わせ。大学から真っ直ぐ向かっているはずだった。それでも、彼女の家に電話をして訊くべきだろうか? 今なら電話をする間ぐらい離れても彼女なら待っていてくれるはず。でも、彼女の両親に要らぬ不安を抱かせるかもしれない。
ひょっとして・・・・、もう会いたくないのかも。前のデートの時・・・・、デートだと思っていたのは僕だけかも。
~・~・~
主人公もせめて携帯電話がある時代なら、不安が不安を呼んで膨らむこともないだろうに。その点、今の時代ならメッセージを送れば返事がなくても既読で確認できるから電話とメールの良いとこ取りができる。ここは一つ、主人公に代わって今の時代の良さを確認するのも一興かな?
『いつもの待ち合わせ場所で、待っていますよ』と入れておくと、映美さんは電車で移動中のはずだから、直ぐに既読がつくはず。
?
なぜ、既読がつかないのかな? 遅れるとのメッセージを送っていたからスマホを忘れているはずはない。カバンに入れていて気がつかない? いつもカバンに入れていて気がついているから説明になっていない。まさかのバッテリー切れは映美さんに限ってはない。ゲーム中はないと思う。他の人とチャット中もない・・・・のかな?
―――約束の時間を三十分も過ぎていた。絶対におかしい・・・・。もう一度状況を整理しておいた方が間違いはない。まず電車の遅延はない。つまり電車関係の事故や事件はないはず? でも、痴漢なら遅延は起こらない。ひょっとして、駅事務所で泣いているのかも! いや、可能性に過ぎない。待ち合わせをしている僕に助けを求めてくれるはず。それなのに、駅員から声を掛けられる事はないと言う事は痴漢ではないと言う事のはず。
そもそも、彼女は僕と同じ様に思っているのかな? こないだ会った時に何か言いたそうだったのは別れたかったのかな? 彼女に喜んで貰えるような気の利いた話題がある訳でもないし、無言で気まずい雰囲気になったのは数知れず。そもそも、彼女は僕なんかと付き合ってくれる気になったのかな。魅力的な男性は他に沢山いるだろうに。
彼女の家に電話をして・・・・、彼女が出たらどうしよう? なんて言えば良いのかな? 『今まで付き合わせてごめん』しかないか・・・・、やっぱり。
もう一度、改札付近を見渡した。彼女の姿はやっぱり見えない。反対側に見える国電連絡改札口にいるなんて・・・・事はないよね。あそこは西口改札ではないから。
!
僕は走った。彼女なら選ぶはずの改札までのコース。すれ違う女性は全て確認しながら走る。僕はなんてバカなんだ。西口改札なんて沢山あるのを忘れていた。
改札向かう人混みを縫う様に走る。改札近くまで行って振り返ると止まっている人は目立っていた。
彼女に向かって両手を振っている自分がいた。
「ごめん」
安堵する彼女の眼が赤くなっている。彼女の両腕が僕の腕をしっかり掴んでいる。
「ううん・・・、途中で京玉線の改札だと気づいたけど、すれ違いになるのが怖くて動けなかった」
西口改札、僕は彼女を思い京玉線の西口改札で待ち、彼女は僕を思い国電の西口改札で待っていた。気がついてみれば間抜けな話だった。
そして二人してクスクス笑っていた。
「次からは、国電連絡改札口の改札にしましょう」
「はい」
二人は夜景を見るためにセンタービルに向かった。
~・~・~
待ち合わせだけで、こんなにドラマチックな時代があったなんて・・・。彼に広がった不安は彼女の優しさが吹き払い。彼女は彼を信じていた。今の時代ならこう言う事はない、『もうじき到着』とかメッセージを送り合っているからだ。でも、ちょっと羨ましい。
それより、映美さんの既読がまだつかない。公共機関の遅延情報はスマホに表示されていない。五分ぐらいのタイムラグがあるにしても既読がつかないのは二十分前。となると、痴漢なら遅延は起こらない。ひょっとして、駅の事務所で泣いているのかも! いや、冷静に・・・・、もし何かのトラブルなら僕の事を呼び出してくれるはず。僕を頼ってくれるはず。
まだ、既読がつかない。もう一度、メッセージを送ってみる。
「ピロリン ♪」
真後ろで着信音が鳴った。振り返ると映美さんがいた。スマホを見ると全てのメッセージに既読がついていた。
「沢山メッセージが来ていましたが、何かありましたか?」
普段と違う豊彦の対応に戸惑い気味の映美だった。
「昭和の時代、あの時代は待ち合わせをしたら、何が何でも約束の時間にいかないと大変な事になってしまう様ですよ」
映美さんは、キョトンとしている。
「僕たちは便利な時代に生まれて幸せです」
豊彦は映美の手を取り歩き始めた。
「センタービルに展望デッキがありますよね。あそこで夜景を見ましょう」
映美は普段より嬉しそうな豊彦の横顔を見ていた。
いつもの様に、カバンから端末を取り出すと本を読み始めた。改札口近くの壁際で行き交う人々の足音を聞きながら読書をする。嫌いじゃない時間の使い方だった。
ちょうど、本の中でも待ち合わせのシーンだった。
――― 彼女は、まだ着いていない。電車が遅れているのかもしれない。洋服選びで迷っていたのかもしれない。もしかしたら、この瞬間に『ごめん、待った?』と息を切らして現れるかもかもしれない。と、思って待っていてもまだ来ない。
時計を見ると約束の時間の少し前だった。
『自分がセッカチなのかな?』
自分が早く着くと相手にも早く来てほしいと思ってしまう。でも、お互い用事がある中での待ち合わせ。都合の良い展開になるとは限らない。でも、ちょっと遅いかな? 自分たちは約束の時間よりは早く集まるタイプだから、十分前なら出会っているはず。
こう言う時、公衆電話の横で待ち合わせをすればよかったと思う。何かあったら連絡をとり合う事が出来るし・・・・。でも、公衆電話って電話番号があるのかな?
~・~・~
昭和の待ち合わせか・・・、連絡手段がないのに待ち合わせをする事が出来た? そもそも、どうやって待ち合わせの連絡をしているのかな?
気になりだすと止まらないのが豊彦の性格だった。読書アプリを閉じ、昭和時代の待ち合わせについて検索をすると幾つか出てきた。『待ち伏せをして約束を取り付ける』ってあるけど待ち伏せしている段階で待ち合わせではないのか・・・、電話が普及する前の昭和なのか。
この小説の設定だと、どのへんの昭和になるのかな・・・、『クラスや職場で約束を取り付ける』があった。これなら、お互いに連絡が出来るけど待ち合わせの時には連絡がつかないのは納得がいく。『相手の家に電話をする』と言うのもある。これなら出掛ける前に相手に連絡を入れられるから遅れるトラブルになる事は少ないのでは? と思ったけど出発前の確認はとらないようだ。それにしても不思議だ・・・。約束は絶対で、待ち合わせの時間を死守するのが当時のマナーなのかもしれない。
―――約束の時間、丁度になった。彼女が遅れた事は一度もない。遅れそうな時には約束をする時に言ってくれていた。それなのに今日は明らかにおかしい。
少なくとも電車の遅延は起きていない。なぜなら、京玉線のアナウンスはそれを告げていないし、ここから見える西口改札の案内板にも遅延情報は表示されていないからだ。
休みの日なら彼女の家に電話を掛けて出かけた時間を確認する事も出来る。でも、今日は放課後の待ち合わせ。大学から真っ直ぐ向かっているはずだった。それでも、彼女の家に電話をして訊くべきだろうか? 今なら電話をする間ぐらい離れても彼女なら待っていてくれるはず。でも、彼女の両親に要らぬ不安を抱かせるかもしれない。
ひょっとして・・・・、もう会いたくないのかも。前のデートの時・・・・、デートだと思っていたのは僕だけかも。
~・~・~
主人公もせめて携帯電話がある時代なら、不安が不安を呼んで膨らむこともないだろうに。その点、今の時代ならメッセージを送れば返事がなくても既読で確認できるから電話とメールの良いとこ取りができる。ここは一つ、主人公に代わって今の時代の良さを確認するのも一興かな?
『いつもの待ち合わせ場所で、待っていますよ』と入れておくと、映美さんは電車で移動中のはずだから、直ぐに既読がつくはず。
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なぜ、既読がつかないのかな? 遅れるとのメッセージを送っていたからスマホを忘れているはずはない。カバンに入れていて気がつかない? いつもカバンに入れていて気がついているから説明になっていない。まさかのバッテリー切れは映美さんに限ってはない。ゲーム中はないと思う。他の人とチャット中もない・・・・のかな?
―――約束の時間を三十分も過ぎていた。絶対におかしい・・・・。もう一度状況を整理しておいた方が間違いはない。まず電車の遅延はない。つまり電車関係の事故や事件はないはず? でも、痴漢なら遅延は起こらない。ひょっとして、駅事務所で泣いているのかも! いや、可能性に過ぎない。待ち合わせをしている僕に助けを求めてくれるはず。それなのに、駅員から声を掛けられる事はないと言う事は痴漢ではないと言う事のはず。
そもそも、彼女は僕と同じ様に思っているのかな? こないだ会った時に何か言いたそうだったのは別れたかったのかな? 彼女に喜んで貰えるような気の利いた話題がある訳でもないし、無言で気まずい雰囲気になったのは数知れず。そもそも、彼女は僕なんかと付き合ってくれる気になったのかな。魅力的な男性は他に沢山いるだろうに。
彼女の家に電話をして・・・・、彼女が出たらどうしよう? なんて言えば良いのかな? 『今まで付き合わせてごめん』しかないか・・・・、やっぱり。
もう一度、改札付近を見渡した。彼女の姿はやっぱり見えない。反対側に見える国電連絡改札口にいるなんて・・・・事はないよね。あそこは西口改札ではないから。
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僕は走った。彼女なら選ぶはずの改札までのコース。すれ違う女性は全て確認しながら走る。僕はなんてバカなんだ。西口改札なんて沢山あるのを忘れていた。
改札向かう人混みを縫う様に走る。改札近くまで行って振り返ると止まっている人は目立っていた。
彼女に向かって両手を振っている自分がいた。
「ごめん」
安堵する彼女の眼が赤くなっている。彼女の両腕が僕の腕をしっかり掴んでいる。
「ううん・・・、途中で京玉線の改札だと気づいたけど、すれ違いになるのが怖くて動けなかった」
西口改札、僕は彼女を思い京玉線の西口改札で待ち、彼女は僕を思い国電の西口改札で待っていた。気がついてみれば間抜けな話だった。
そして二人してクスクス笑っていた。
「次からは、国電連絡改札口の改札にしましょう」
「はい」
二人は夜景を見るためにセンタービルに向かった。
~・~・~
待ち合わせだけで、こんなにドラマチックな時代があったなんて・・・。彼に広がった不安は彼女の優しさが吹き払い。彼女は彼を信じていた。今の時代ならこう言う事はない、『もうじき到着』とかメッセージを送り合っているからだ。でも、ちょっと羨ましい。
それより、映美さんの既読がまだつかない。公共機関の遅延情報はスマホに表示されていない。五分ぐらいのタイムラグがあるにしても既読がつかないのは二十分前。となると、痴漢なら遅延は起こらない。ひょっとして、駅の事務所で泣いているのかも! いや、冷静に・・・・、もし何かのトラブルなら僕の事を呼び出してくれるはず。僕を頼ってくれるはず。
まだ、既読がつかない。もう一度、メッセージを送ってみる。
「ピロリン ♪」
真後ろで着信音が鳴った。振り返ると映美さんがいた。スマホを見ると全てのメッセージに既読がついていた。
「沢山メッセージが来ていましたが、何かありましたか?」
普段と違う豊彦の対応に戸惑い気味の映美だった。
「昭和の時代、あの時代は待ち合わせをしたら、何が何でも約束の時間にいかないと大変な事になってしまう様ですよ」
映美さんは、キョトンとしている。
「僕たちは便利な時代に生まれて幸せです」
豊彦は映美の手を取り歩き始めた。
「センタービルに展望デッキがありますよね。あそこで夜景を見ましょう」
映美は普段より嬉しそうな豊彦の横顔を見ていた。
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今はたしかに便利な世の中。改めて電波ってすごいなぁって思います。
だからこそ ちょっとでも連絡がとれないと不安と心配が入り混じって豊彦さんのようにあれこれ考えてしまう・・・
昭和も令和も、使えるツールや時間は変わっても 意外とそんなに変わらない恋愛の心が見えた気がしました。
豊彦さんと映美さんには ますます幸せになってほしいなと思います^^