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40話~59話
58:「音」 バトルロワイアル
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夜八時、開始の花火が上がった。フィールドの空気がピリピリと電気を帯びた。身構え沈黙を守り相手の背中を取る。そして引金を引く。年に一度の夜戦イベントだ。今日は満月だが雲が多い、初心者も楽しめる条件だ。
だが、世の中甘くない。不用意に動く奴が屠られる。ダミーの石の音に引金を引くと、銃声の場所に弾丸が飛んでくる。最初の五分で三分の一が退場する。『夜戦』の意味を考えずにプレーする奴はここまでだ。どの参加者もヘルメットにゴーグル、胸部を守るプロテクトは必須だ。怪我をしない為でもあるが、お互いゲームを楽しむためだ。負傷者が出ると懇親会のビールが不味くなるしな。
時折、雲の切れ目から月明かりが林の中を駆け抜けていく。その時に素早くターゲットを捕捉し仕留める。中級クラスの連中ならその作戦で攻めてくる。しかし、連中は肝心な事を忘れている。一瞬の光を頼りに狙いをつけると言っても、暗闇のうちに射程内に相手を捕らえる必要がある事。もう一つは、暗視スコープを持った奴が紛れ込んでいる事だ。
暗視スコープ野郎の財力と性格の悪さは参加者随一だった。奴の作戦は、暗闇のうちに相手の前面に立ちはだかると、月明かりを待って撃ち込んでくる。至近距離からの着弾はプロテクターを着けていても相当に痛い。そして、着弾の痛みを倍加するのが奴のニヤケタ口元だ。
そのニヤケスコープ野郎に三分の一が屠られる。まぁ、金の力に勝てない奴は貧乏を呪うがいいだろう。
「 ギャー! 」
あの悲鳴はスコープ野郎だ。いつも通り正面至近距離から太ももに撃ち込まれたんだろう。相変わらず、奴には金はあっても学習能力ははい。初心者の振りをして敢えて見つかるように隠れていると、のこのこスコープ野郎が前面に現れる。上級者に言わせれば暗視スコープに頼るまでもない。気配で分かるし、そもそも臭い息で直ぐに分かる。夜戦イベントの時にわざわざニンニク料理を食べてくるのは奴だけだからだ。
スコープ野郎の悲鳴が、本当の意味でのゲーム開始の合図だ。これで俺を以外に四人。この人数になると決戦フィールドになる。つまり、範囲が四分の一になって接触の確率を高くなる。と言っても上級者にはそんな演出は必要ない。隠れて勝ちを狙う奴はいないからだ。
向こう側でスタッフがサーチライトを使って決戦エリアへの誘導が始まった。静かに光の壁で誘導している。
最初のチャンスはここだ。迂闊にもサーチライトに照らし出される奴がいる。
案の定、一瞬ゴーグルが光った。照らし出された木がゴーグルを光らせたのだった。夜戦でなければ気がつかない些細な光だった。
素早く距離を縮める。今なら奴の目にはサーチライトの光が残っている。だが、相手も上級者、撃ち込まれるのを待っている筈がない。
ポキ
小枝を踏む音が聞えた。奴は勝負に負けた。暗闇に慣れる前に動いた事が裏目に出た。引金を引くと、堪える鈍い声が聞えた。あと三人。
パン・パン・パン・・・
連射音が聞えたあと、ワザと足音を立てて歩いて行く奴がいる。退場するためだ。あと二人。
さっきの連射音『俺は此処にいる』とアピールしている。そんな事をするのは一人しかいない。しかし、そこで待っているのか? トラップに誘っているのか? 奴ならどちらの手も使う。
林の中を風が吹き抜ける。枝を揺らし、下草を揺らしていく・・・
? 音が途切れた ! 俺の背後か! あの場所に木はない。
? 風音に紛れて足音も聞こえていた。あれはミリタリーブーツ、連射野郎のだ。やっぱり動いていたか。
と、なるとプランBが使える。
ジジジジ・・・ 俺の後ろでバイブレーターがうなっている。
「馬鹿め !」と、思わずつぶやいてしまう連射野郎の目の前から撃ち込む。と、そのまま背後にいるスマホ野郎に撃ち込む。
イベント終了の花火が上がった。
連射野郎は立ち上がると、俺を睨みながら言った。
「お前の足音は聞こえなかったぞ」
「俺は、地下足袋だからな。夜戦は耳が決め手だろ?」
連射野郎がミリタリーブーツを履く事は二度となかった。
だが、世の中甘くない。不用意に動く奴が屠られる。ダミーの石の音に引金を引くと、銃声の場所に弾丸が飛んでくる。最初の五分で三分の一が退場する。『夜戦』の意味を考えずにプレーする奴はここまでだ。どの参加者もヘルメットにゴーグル、胸部を守るプロテクトは必須だ。怪我をしない為でもあるが、お互いゲームを楽しむためだ。負傷者が出ると懇親会のビールが不味くなるしな。
時折、雲の切れ目から月明かりが林の中を駆け抜けていく。その時に素早くターゲットを捕捉し仕留める。中級クラスの連中ならその作戦で攻めてくる。しかし、連中は肝心な事を忘れている。一瞬の光を頼りに狙いをつけると言っても、暗闇のうちに射程内に相手を捕らえる必要がある事。もう一つは、暗視スコープを持った奴が紛れ込んでいる事だ。
暗視スコープ野郎の財力と性格の悪さは参加者随一だった。奴の作戦は、暗闇のうちに相手の前面に立ちはだかると、月明かりを待って撃ち込んでくる。至近距離からの着弾はプロテクターを着けていても相当に痛い。そして、着弾の痛みを倍加するのが奴のニヤケタ口元だ。
そのニヤケスコープ野郎に三分の一が屠られる。まぁ、金の力に勝てない奴は貧乏を呪うがいいだろう。
「 ギャー! 」
あの悲鳴はスコープ野郎だ。いつも通り正面至近距離から太ももに撃ち込まれたんだろう。相変わらず、奴には金はあっても学習能力ははい。初心者の振りをして敢えて見つかるように隠れていると、のこのこスコープ野郎が前面に現れる。上級者に言わせれば暗視スコープに頼るまでもない。気配で分かるし、そもそも臭い息で直ぐに分かる。夜戦イベントの時にわざわざニンニク料理を食べてくるのは奴だけだからだ。
スコープ野郎の悲鳴が、本当の意味でのゲーム開始の合図だ。これで俺を以外に四人。この人数になると決戦フィールドになる。つまり、範囲が四分の一になって接触の確率を高くなる。と言っても上級者にはそんな演出は必要ない。隠れて勝ちを狙う奴はいないからだ。
向こう側でスタッフがサーチライトを使って決戦エリアへの誘導が始まった。静かに光の壁で誘導している。
最初のチャンスはここだ。迂闊にもサーチライトに照らし出される奴がいる。
案の定、一瞬ゴーグルが光った。照らし出された木がゴーグルを光らせたのだった。夜戦でなければ気がつかない些細な光だった。
素早く距離を縮める。今なら奴の目にはサーチライトの光が残っている。だが、相手も上級者、撃ち込まれるのを待っている筈がない。
ポキ
小枝を踏む音が聞えた。奴は勝負に負けた。暗闇に慣れる前に動いた事が裏目に出た。引金を引くと、堪える鈍い声が聞えた。あと三人。
パン・パン・パン・・・
連射音が聞えたあと、ワザと足音を立てて歩いて行く奴がいる。退場するためだ。あと二人。
さっきの連射音『俺は此処にいる』とアピールしている。そんな事をするのは一人しかいない。しかし、そこで待っているのか? トラップに誘っているのか? 奴ならどちらの手も使う。
林の中を風が吹き抜ける。枝を揺らし、下草を揺らしていく・・・
? 音が途切れた ! 俺の背後か! あの場所に木はない。
? 風音に紛れて足音も聞こえていた。あれはミリタリーブーツ、連射野郎のだ。やっぱり動いていたか。
と、なるとプランBが使える。
ジジジジ・・・ 俺の後ろでバイブレーターがうなっている。
「馬鹿め !」と、思わずつぶやいてしまう連射野郎の目の前から撃ち込む。と、そのまま背後にいるスマホ野郎に撃ち込む。
イベント終了の花火が上がった。
連射野郎は立ち上がると、俺を睨みながら言った。
「お前の足音は聞こえなかったぞ」
「俺は、地下足袋だからな。夜戦は耳が決め手だろ?」
連射野郎がミリタリーブーツを履く事は二度となかった。
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