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20話~39話
29:「あばずれ」 女盗賊
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酔いが醒めると、そこは牢獄であった。
「うーん、頭が痛い。安い酒は合わないねぇ」
薄暗いなか、周りには息を殺し様子を見ている連中がいた。
「おや? なんだ、この酸っぱい臭いは。それに随分でかいネズミがいるじゃないか」
だんだんと、意識がハッキリしてくると、十畳ほどの狭い部屋の中に使い古した筆の様な連中がいた。
「新入り、静かにおし」
一段高い処に座っている老婆が言った。そして、周りに座っている連中が言葉を合図に睨みを利かせてくる。
何かに察したらしく、右隣に座っているのが、
「新入りに、水を飲ませてやりな。酒臭くてかなわん」
右端に座っているのが柄杓に水を汲んで持ってきた。
「親分、新入りに優しすぎませんか?」
思わず意見を口走った左隣りを老婆が一睨みすると、
「懲らしめてみるか?」
昨日の夜、奉行所の連中が牢に放り込むのに、何人ボコボコにされていたか。片袖千切れている着物から見える二の腕の刀傷の数。全員で掛かって勝ち目なのどない。
「いえ、出過ぎた真似をお許しください」
左隣のは、端まで落とされるのではと慄いた。
「長生きしたければ、相手の力量を見誤ってはいかん。新入りも、そう思うだろ?」
互いの面子を立てて丸く収めろ・・・、古狐の考えに乗るつもりもないが長居するつもりもなかった。
「そうだね・・・、円く座れば角が立たないだろ」
老婆との間で牢屋敷が炎上するほどの火花が飛び散った後、
「面白い。好きにしな」
老婆が折れると起きているのか寝ているのか? 静かになった。両隣は殴りかかりたい気持ちを抑え込むと、両端を鬼の形相で睨みつけた。両端の下っ端どもはガタガタ震えながら円くなるように座り直した。
「そこの女。奉行が直々に取り調べをする。出てこい」
樫木棒を持った役人が二人。それを取り囲むように更に三人が立っている。
「おや、昼から何の宴が始まるんだね?」
役人どもは無言で脇を固め、お白洲に連れ出した。
「ほう、珍しいものが捕まったものだ。それになかなかの上玉の蟒蛇だな」
奉行の舐めつくすような眼差しを、跳ね返す様に睨みつける。
「宴があると聞いて来てるんだよ。酒は何処にあるんだい」
「なかなかの威勢だ。これは楽しめそうだ」
二段高い位置にいる奉行がニヤニヤしながら策を巡らしていると、役人が奉行の脇に寄り何やら進言をしている。
「なるほど、それは良い案だ」
奉行は向き直ると言った。
「女。盗賊の嫌疑が掛かっておる。昨今、市中で騒ぎを起こしている賊の事だ。素直に白状すれば尋問で苦しむ事はないぞ」
街道筋で仕事をしていたが、市中ではまだ仕事をしていなかった。
「市中での賊? 知らないね。人違いだろ、酒が出ないなら帰るぞ」
「シラを切るつもりなら、体に訊くまでだ」
奉行所は大義名分欲しさに回りくどい事をしてくる。
「あたいは、市中では仕事をしていないと言っている。それとも、騒ぎを起して欲しいのかい?」
役人どもが唖然とした・・・、笑い出した。
「女。なかなか威勢がいい。いくら腕っぷしが強いと言っても一人で勝てると思っているのか?」
大義名分は揃った、後は料理するだけみたいな事をバカ面で妄想しているから、お白洲の外で起こった事に気が付いていない。
「姉さん、迎えに来ました」
既に、奉行所内の要所は子分が押さえていた。
「遅いぞ。着替えは持ってきたかい」
風呂敷包みを差し出すと、子分たちは四方に睨みを利かした。
スパッと脱ぎ捨てると、百戦錬磨の引き締まった肉体に、背中には傷一つない観音菩薩が描かれていた。
子分の隙間から見える観音菩薩に奉行所の連中がどよめき、自分たちが誰に手を出したのかを悟った。藩を股にかけて荒らし回る盗賊の女頭だった。
奉行所の連中の腰が引けているのを横目に、
「おまえら、手ぶらで帰るなよ。市中で荒らしまわっている賊もあたしらの仕業らしい。罪状に負けないだけの仕事をしな」
身形を整え、子分に檄を飛ばした。
「奉行所内での狼藉。許されると思うのか」
声に震えがあっても、なんとか言い切った奉行だった。
ニヤリと笑うと、
「自分の恥を晒したいのかい? それとも口封じされたいのかい?」
奉行は黙り込んでしまった。
金目の物を荷車に載せると牢屋敷に向かった。一杯の水の恩に応える為だった。中の連中は外の騒ぎに浮足立っていたが、老婆の両隣が場を静めた。
「外に出たい奴はいるか?」
それぞれの背景は違う。しかし、何人かは腰を浮かしたが周りの視線で諦めていた。
「そうか。水うまかったよ、世話になったな」
「うーん、頭が痛い。安い酒は合わないねぇ」
薄暗いなか、周りには息を殺し様子を見ている連中がいた。
「おや? なんだ、この酸っぱい臭いは。それに随分でかいネズミがいるじゃないか」
だんだんと、意識がハッキリしてくると、十畳ほどの狭い部屋の中に使い古した筆の様な連中がいた。
「新入り、静かにおし」
一段高い処に座っている老婆が言った。そして、周りに座っている連中が言葉を合図に睨みを利かせてくる。
何かに察したらしく、右隣に座っているのが、
「新入りに、水を飲ませてやりな。酒臭くてかなわん」
右端に座っているのが柄杓に水を汲んで持ってきた。
「親分、新入りに優しすぎませんか?」
思わず意見を口走った左隣りを老婆が一睨みすると、
「懲らしめてみるか?」
昨日の夜、奉行所の連中が牢に放り込むのに、何人ボコボコにされていたか。片袖千切れている着物から見える二の腕の刀傷の数。全員で掛かって勝ち目なのどない。
「いえ、出過ぎた真似をお許しください」
左隣のは、端まで落とされるのではと慄いた。
「長生きしたければ、相手の力量を見誤ってはいかん。新入りも、そう思うだろ?」
互いの面子を立てて丸く収めろ・・・、古狐の考えに乗るつもりもないが長居するつもりもなかった。
「そうだね・・・、円く座れば角が立たないだろ」
老婆との間で牢屋敷が炎上するほどの火花が飛び散った後、
「面白い。好きにしな」
老婆が折れると起きているのか寝ているのか? 静かになった。両隣は殴りかかりたい気持ちを抑え込むと、両端を鬼の形相で睨みつけた。両端の下っ端どもはガタガタ震えながら円くなるように座り直した。
「そこの女。奉行が直々に取り調べをする。出てこい」
樫木棒を持った役人が二人。それを取り囲むように更に三人が立っている。
「おや、昼から何の宴が始まるんだね?」
役人どもは無言で脇を固め、お白洲に連れ出した。
「ほう、珍しいものが捕まったものだ。それになかなかの上玉の蟒蛇だな」
奉行の舐めつくすような眼差しを、跳ね返す様に睨みつける。
「宴があると聞いて来てるんだよ。酒は何処にあるんだい」
「なかなかの威勢だ。これは楽しめそうだ」
二段高い位置にいる奉行がニヤニヤしながら策を巡らしていると、役人が奉行の脇に寄り何やら進言をしている。
「なるほど、それは良い案だ」
奉行は向き直ると言った。
「女。盗賊の嫌疑が掛かっておる。昨今、市中で騒ぎを起こしている賊の事だ。素直に白状すれば尋問で苦しむ事はないぞ」
街道筋で仕事をしていたが、市中ではまだ仕事をしていなかった。
「市中での賊? 知らないね。人違いだろ、酒が出ないなら帰るぞ」
「シラを切るつもりなら、体に訊くまでだ」
奉行所は大義名分欲しさに回りくどい事をしてくる。
「あたいは、市中では仕事をしていないと言っている。それとも、騒ぎを起して欲しいのかい?」
役人どもが唖然とした・・・、笑い出した。
「女。なかなか威勢がいい。いくら腕っぷしが強いと言っても一人で勝てると思っているのか?」
大義名分は揃った、後は料理するだけみたいな事をバカ面で妄想しているから、お白洲の外で起こった事に気が付いていない。
「姉さん、迎えに来ました」
既に、奉行所内の要所は子分が押さえていた。
「遅いぞ。着替えは持ってきたかい」
風呂敷包みを差し出すと、子分たちは四方に睨みを利かした。
スパッと脱ぎ捨てると、百戦錬磨の引き締まった肉体に、背中には傷一つない観音菩薩が描かれていた。
子分の隙間から見える観音菩薩に奉行所の連中がどよめき、自分たちが誰に手を出したのかを悟った。藩を股にかけて荒らし回る盗賊の女頭だった。
奉行所の連中の腰が引けているのを横目に、
「おまえら、手ぶらで帰るなよ。市中で荒らしまわっている賊もあたしらの仕業らしい。罪状に負けないだけの仕事をしな」
身形を整え、子分に檄を飛ばした。
「奉行所内での狼藉。許されると思うのか」
声に震えがあっても、なんとか言い切った奉行だった。
ニヤリと笑うと、
「自分の恥を晒したいのかい? それとも口封じされたいのかい?」
奉行は黙り込んでしまった。
金目の物を荷車に載せると牢屋敷に向かった。一杯の水の恩に応える為だった。中の連中は外の騒ぎに浮足立っていたが、老婆の両隣が場を静めた。
「外に出たい奴はいるか?」
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