時空モノガタリ

風宮 秤

文字の大きさ
上 下
15 / 62
1話~19話

15:「育児」 二分の一 成人式

しおりを挟む
「とうちゃん、作文の宿題があるんだ」
 夕飯の片づけが終わって、とうちゃんが風呂に入る前に捕まえる。一日に一回のチャンスだ。
「おまえの宿題だろ?」
 逃げの態勢のとうちゃんに低姿勢かつ逃げ場を与えない様に言わなくてはいけない。
「生まれた時の事を両親に訊いて書かく様に先生に言われたんだ」
「産んでないよ」
 面倒くさい全開のオーラが出ている。
「とうちゃん、お願いだから真面目に答えてくれよ」
 低姿勢を崩したら負けだ。
「だってとうちゃん、男だもん。産めないよ」
 ドヤ顔で言われても・・・・。
「産んでなくていいんだよ。産まれた時はどうだったの?」
 生まれた時の事を思い出せたら聞かないよ・・・・。
「産婦人科のババアが『産婦人科に男は入っちゃいけない』とか言ってよ。知らないんだ。産婦人科のババアに聞くか?」
 退院後の話で十分だけど、正論はとうちゃんを怒らせるだけだ・・・
「ババアなら、十年経って死んでるから訊けないよ」
「お! うまい事言うね。親の躾が良いからだね。で、何を知りたいの?」
 今のうちだ!
「生まれた頃の事を教えてくれよ」
「おれも父親になるんだ。って思ったよ。ガッポリ稼がないとなぁ」
 いつの間にか、発泡酒のカンを開け飲んでる・・・・。
「パチンコでも競馬でも分かるんだよ。『これだ!』ってね。一日で月給以上を稼いだ時もあったよ。それで分かったよ。天職は勝負師だってね」
 脱線の予感がする・・・・
「生まれた時はいいよ。もう少し後の事教えてくれよ。作文書けないと居残りになるんだよ。夕飯作れなくなっちゃうよ」
 とうちゃんの目が真剣になった。
「夕飯は大事だ。ちゃんとに作文書きなさい。もう少し後なら、おまえも覚えているだろ」
「うん」
「おれは風呂に入るから出るまでに終わらせるように」
 結局、何も聞けなかった。


「とうちゃん書けたよ」
 一読すると、ニヤリとする、とうちゃん。
「そんな事、書いちゃダメだろ。これもダメ。こっちもダメ。先生ドン引きしちゃうよ」
「そうなの?」
「おまえが入学する時に家族構成出してるの。かあちゃんと妹が出てこないとまずいだろ」
「かあちゃんって? 妹って?」
 物心ついた時からとうちゃんと二人だと思っていた。
「そもそも、作文を分かっていないな。文を作るのが作文だ。本当の事を書いちゃいけないんだ。フィクションだ」
 とうちゃんが、何か考えてる・・・・
「原稿用紙一枚分だな。おれが言うから書き写せ」
「分かった」
 やっぱり、とうちゃんだよ。

「言うぞ」
「うん」
 鉛筆を握りしめて待ち構える。

「僕の家は、三人で夕飯を食べてます。父は帰りが遅く出張も多いため一緒に食べる事が出来ないからです。夕飯は母の手作りで一汁三菜と言って僕と妹の健康を考えて毎日違ったご飯を作ってくれます。ハンバーグや餃子の時は僕も妹も手伝って作るので『我が家の手作り』だよと母は嬉しそうに言ってくれます。父も夕飯を一緒に食べたいと言っていますが社会人としての責任があるからと言って我慢しています。
 父が家にいる時には、サッカーを教えてくれます。プロ選手になりたいと言ったら、喜んで『おまえなら出来る。頑張れ』って言ってくれました。
 父とサッカーをした時にズボンに穴を開けてしまったら母さんが直してくれました。父が新しく買ったらと言いましたが、物を大切にする子に育てたいからと母が言いました。母さんの言う通りだと父が言っていました。
 いつも僕と妹の事を考えてくれる母さん、家族の為に遅くまで頑張ってくれる父さんありがとう」
 とうちゃんは満足そうに頷きながら、いつの間にか発泡酒を飲んでいる。

「これが普通なの?」
「そうだ」
 ドヤ顔でとうちゃんがせまってくる。
「いいな・・・・」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【声劇台本】恋愛実況中継

茶屋
ライト文芸
街角で見かける男女の恋愛を実況と解説でお送りする。 実況が花形となる台本になっていると思います。 是非、使っていただけたら嬉しいです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

よくできた"妻"でして

真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。 単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。 久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!? ※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

処理中です...