同窓会

風宮 秤

文字の大きさ
上 下
1 / 1

同窓会

しおりを挟む
 首都圏にある中核都市。駅前には百貨店があり周辺にお洒落な店が広がっている。そこに街を一望できるホテルがあった。最上階にあるイベントルームは講演会から披露宴まで対応できる広さがあり、仕切りを動かせば同窓会に丁度良いアットホームな雰囲気を作り出せた。
 そして、中学のクラスメイトが集まった。

「すげー、ここでクラス会するの?」
 申し合わせた様に、かつての男子たちが入ってきた。
 入り口にはパーテーションで仕切られたクロークがあり、慣れた手つきでコートを預ける人、整理券の配布だと思う人・・・・、色々いた。流れた月日は長く過ごした人生も違っていた。
「ウエルカムドリンクを用意してあります。アルコールとノンアルコール、どちらに致しますか?」
 ウエイトレスはリクエストを聞くとにこやかに手渡していった。
「え、これマジ美味い。ちょっと変わった味がするけど、何杯でもいけちゃうよ」
「おまえに味なんか分かるのかよ?」
「営業だからよ、接待で結構いいもん食ってるんだよ」
 俺の外食なんてファミレスぐらいと言いたくなるのを飲み込んだ。
「そうだよな。取引先の営業なんて自分の食べたい店ばかりでどっちが客だと言いたくなるよ」
 ・・・・ボロが出る前に話題を変えた方がいい。口には出さなかったが二人とも同じ事を考えていた。
「ここのウエイトレスは、おばちゃんなの?」
「女子の策略じゃないの? 入り口でおばちゃん見た後なら若く見えるとか?」
「ありそうだね。主催者の名前なかったし」
 余興を楽しんで貰うために名前は伏せると書いてあった。みんなが集まっているからオーケーだったが。

「あ・・・※※くん? ホントに※※くん」
 かつての女子は、あの時と同じように彼を見つめた。
「二十年ぶり? ▲▲も目じりのしわ以外全然変わらないね。見た瞬間すぐに分かったよ」
 お互いに家族があっても、あの時の自分たちより大きい子供がいても、お互いの目に映るものは変わらなかった。
「相変わらず、口悪いね!」
 彼女はそれを分かった上で、当時と変わらない言葉を投げつけた。
「あっちに先生がいるわ。私たちも行きましょう」
 あの時は出来なかったもう一歩。彼の手を取ると引っ張っていった。

 あちらこちらで、談笑が始まっていた。
「皆様お揃いになりましたので、料理を食べながらビデオをご鑑賞ください」
 会場の照明が少し暗くなるとスクリーンが降りてきた。カウントダウンの映像が映った後に机に置かれた卒業アルバムを膝の上に載せると制服を着た女の子がページをめくった。一ページ目の校舎に合わせて校歌が流れ始めた。クラスの集合写真、体育祭、校外学習、修学旅行の写真が映し出された。
 写真が変わる度に、歓声や悲鳴、笑い声が巻き起こった。

 そして、授業風景の映像に変わった。
「撮影していたっけ?」
 お互いに確認しながら、視線は先生に集まった。
「どうだろう? 再現じゃないの?」
 相変わらず適当に流す先生だった。
「すげー 凝ってるよ。ひょっとしてあれ俺? マジそっくり」
 ■▼は、カクテルを片手に言うと、次のカクテルに手を伸ばしていた。
「学級会かな? あ! 先生が映った」
 今の自分たちより若い姿に、歓声が上がった。
「先生、年取りましたね・・・」
 十分に酔いが回っている連中が先生を取り囲んでいた。
 スクリーンには、空の花瓶が置いてある机が映し出された。
 会場の雰囲気が変わった。
「あー、思い出したよ。そう言えばトロイ奴がいたな」
 ひとりの男子が吐き捨てるように言った。
「あんなの要らない。気分が悪くなる」
 ひとりの女子が、あからさまに不機嫌になった。
「どこにでもいるよ。中学で先生やっているけど、虐められているってチクリに来た奴がいたんだ。運悪く教頭の耳に入ったからクラスで話し合いさせたけど、どうなったと思う?」
 となりの女子に話を振った。
「みんなで、指導したの?」
 自然にでるのは実体験からだった。
「そいつがいなければ虐めはなくなるって言った子がいたけど、正論過ぎてびっくりしたよ」
 笑い声が響いた。

 スクリーンに、カクテルグラスを前に座っている中年のおばさんが映し出された。スクリーンの右上に『広告』とかなり大きめに表示された。
「あ、同じカクテルじゃね? 凝ってるね」
 誰かが指さしながら言った。
「弊社の新商品モニターに参加頂きありがとうございます。各種カクテルを試飲してアンケートに答えて頂きます。素直な感想をお願いします」
 カクテルを一口飲むと、真剣な表情で味などを答えている。
「あ、同じクラスの★◆じゃね? 来てないの?」
 何人かが周りを見渡している。

 スクリーンの真ん中に『試飲後 一時間』と出た。
「ひょっとして、お肌つるつるになるサプリだったりして」
 ▼▼の疲れた肌を指さしながら、ニヤリと笑った。
「ん、もう■※くんのばか」
 次の瞬間、全員が凍り付いた。にこやかにカクテルの蘊蓄を語っていたが、顔を歪め必死に何かに耐えている。カメラが背後に回ると服の所々から血のシミが広がっていった。カメラが前面に戻ると彼女の目から血が溢れていた。
 誰もが立ち尽くしていた。
 スクリーンには会場が映し出され真ん中に『ウエルカムドリンク後 一時間』と表示された。
 それが何を意味するのか理解するより先に女子たちが、背中を丸めると硬直して動かなくなった。服が血に染まりストッキングの下から脈に合わせて血の滲みが広がっていった。
 男子たちは目の前の状況を理解できずにいたが、全身の皮膚を毟り取られるような痛みに襲われた。息も出来ずに耐えるしかない。助けを求める余裕はなかった。全身を襲う痛みに耐える事しか出来なかった。今はただ痛みに耐えるしかなかった。


 うめき声も聞こえなくなった会場に、ウエイトレス姿の女性と男性が立っていた。
「卒業おめでとう。やっと解放されるね」
 女性は男性を見つめると、
「ありがとう」と、呟いた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

這い寄る者

ツヨシ
ホラー
絶世の美少女。そして現れるストーカー。

【完結】愚者共の行進

R-13
ホラー
〜この失踪を仕組んだのは霊か、殺人鬼か、それとも本人か〜  『黄泉通信』という写真を自動で加工して投稿してくれるアプリに、失踪中の友人の姿が「さがして」というコメントと共に投稿されていることに気付いた、高校生の坂上真由美。その写真はとある理由で、心霊写真と噂になり、ネットで面白半分に拡散されていく。  事故で死んだ女性の霊が出るという、古びた公園。  犯罪者の母親が住んでいた曰く付きの廃墟。  写真が撮られた心霊スポットでは、奇妙な現象が次々と起こる。そんな中写真がアップされた日の夜に、撮影現場で殺人事件が起こっていたことが発覚する。  そして3枚目の写真が投稿され、舞台は夜の廃遊園地へ。そこで待ち受けるのは失踪した少女か、霊か、殺人鬼か。 ・3月15日に完結予定です。 ※セクシャルな表現は限りなく少ないですが、非常に過激でグロい描写が多くあるので、念の為にR-18に設定しています。流血や欠損等、苦手な方はご注意下さい。

妖怪種明か死

Giovenassi
ホラー
手品の種を明かすものを決して許さないやつは種明かしをしたものを必ず見つけ出し殺す……

紙から生まれる闇

昔懐かし怖いハナシ
ホラー
・あまり長くは、書きません。 ある会社員のアパートで起きたある日、隣に住んでいる男の様子を見てみると、、  その男が見つけたものには、

狂おしいほど愛おしい

ゆるふわ詩音
ホラー
殺人犯たちを追っていた。 証拠が揃い、やっと捕まれられるところまできた矢先に攫われる。 目が覚めた時、地獄を知る。 狂おしいほどに愛されるスズ。 それぞれが欲しいものを奪う3人。 ハッピーエンド? バッドエンド? 決めるのはあなた次第。 監禁、誘拐、血抜き、一部解剖、プチ暴力、薬などの狂愛があります。

AI彼氏

柚木崎 史乃
ホラー
日々の疲れに癒しを求めていた七海は、ある時友人である美季から『AI彼氏』というアプリを勧められる。 美季が言うには、今流行りのAIとの疑似恋愛が体験できる女性向けのマッチングアプリらしい。 AI彼氏とは、チャットだけではなくいつでも好きな時に通話ができる。人工知能の優秀さは一線を画しており、そのうえ声まで生身の人間と変わらないため会話もごく自然だった。 七海はそのアプリでレンという名前のAI彼氏を作る。そして、次第に架空の恋人に夢中になっていった。 しかし、アプリにのめり込みすぎて生活に支障をきたしそうになったため、七海はやがてレンと距離を置くようになった。 そんなある日、ラインに『R』という人物が勝手に友達に追加されていた。その謎の人物の正体は、実は意思を持って動き出したAI彼氏・レンで──。

彼女は特殊清掃業

犬丸継見
ホラー
 四国愛媛の山奥から、女子大生隠善(いんぜん)陽菜乃は街の大学に出る。かつて愛媛を、四国一帯を支配していたという隠神刑部狸(いぬがみぎょうぶだぬき)を祀る実家を離れ、彼女はボロアパートともいえる「犬上アパート」に入居した。そしてその大家は、彼女が思うより遥かによほど、「ワケアリ」な女性で――「狸なんて食わないよ。犬だってそんな時代じゃないんだから」。

そこに入ったら二度と出られない

華岡光
ホラー
心霊スポット巡りを楽しむ若者達は、地方にある使われていないトンネルの存在を知る。しかし、そのトンネルの中は異界と続いていた。その先にあるものとは・・

処理中です...