1 / 1
昼寝
しおりを挟む
窓を開けていると心地よい風が吹き抜けていく。それに混ざる洗剤の匂いも悪くない。晴れを実感させる。
洗濯物の端を触ると乾いている。一番厚手の場所を触っても乾いている。
「大丈夫。取り込もう」
物干し竿に掛かっているハンガーを一か所まとめると、両手で一気に外して部屋の中に置いた。角ハンガーの洗濯物は真下にカゴを置いてどんどん外して落していく。
カゴを室内に入れると出しながら靴下や下着は畳んでいく。引き出しを開けると右側にクイット寄せ出来た隙間に入れていく。映美さんの分は左側にクイット寄せると出来た隙間に入れいく。
アイロン台を出して、アイロンをコンセントに繋ぐ。温まるまでにクローゼット用のハンガーを用意。
「さて、アイロン掛け」
余熱で掛けるハンカチをアイロン台の上におき、四隅に向かって掛ける。半分に折って掛ける。更に半分に折って軽く掛ける。
「シワなく、ズレなく。よし!」
ハンカチのウオーミングアップで勢いをつけ、次にシャツにズボンとアイロンを掛けていった。映美さんに教わった掴む場所、引っ張る場所を守るとズレなくアイロンを掛けられた。アイロンの当て方も言われた通りにするとシワなく出来た。たぶんコツはマスターしたと思う。でも、まだまだ違和感が残る。やっぱり、簡単そうな作業ほど奥が深い。
平干しネットで室内干しをしているのは、そのまま。型崩れの確認をしてから仕舞いたいと言う映美さんのリクエストだった。大切さは今一つ分からなかったけど、メガネがチョット変形しただけでも掛け心地が悪いでしょ。と言う事だった。
リビングに行くと、ソファーで映美さんが昼寝をしていた。読書の途中で寝落ちしたみたいで本を抱えて寝ていた。
最近、疲れが溜まっているのはこちらにも伝わっていた。残業も多く終わらない分は家に帰ってからも資料の確認をしたりしていた。それでも楽しそうに『仕事が佳境を迎えていて、あともう一息』と言っていた。だから、今日のお昼はリフレッシュを込めてベランダでおにぎりに御新香、冷凍ミカンとレトロなランチにしてみた。青空に浮かぶ雲を見ながら心地よい風に吹かれてのおにぎりは美味しかった。でも、洗濯物がはためく横でのランチは風情がないねと笑いながらになってしまったけど。
本を取りテーブルの上においた。メガネもそっと外してテーブルの上においた。いつ見ても美人、寝顔も美人。美人は三日見ると飽きるなんて聞いた事があったけど、そんなのはウソ。毎日見ても映美さんに飽きる事なんてない。毎日が尊い事には変わりはない。前髪にそっと触れてみる。オデコに文字が浮かんで見えた・・・。
あの時は意表を突かれた。そこまでしなくても普通に誘ってくれれば普通に受けたのにと思ったけど、里山公園のどこにそこまでの魅力があったのかな・・・。長い時間を掛けて見つけた自然との共生の仕方、日常生活では見なくなったものが沢山あった。伝統野菜や地方特有の野菜興味深いものばかりだった。お蕎麦も美味しかった。暗くなってから・・・!
「蛍を一緒に見たかったのか!」
虫が乱舞するおぞましい世界と思ってしまったけど、一緒に見たかったのか。客観的に考えれば発光体がランダムに浮遊しているのは幻想的だと感じる。手元で広がる星空と言えば更に魅力的な世界になる。理屈上は確かに幻想的で魅力的なのは間違いない。
「そうか、一緒に観たかったのか。来年は僕から誘って蛍を見に行こう」
~・~・~
鳥の鳴き声が聞こえた・・・、映美は寝ていた事に気がついた。
豊彦くんが隣りで寝ていた。最近、残業続きの私に変わって家事をやってくれる。ご飯も掃除も洗濯も卒なくこなす豊彦くん、家事は嫌いじゃないと言ってくれても疲れが溜まっているのは感じている。空港に行ってリフレッシュ出来たと言っても、まだまだ忙しいのは伝わってくる。
甘えちゃいけないのも分かっているけど、持ち帰り仕事の時に入れてくれるジャムティーは美味しい。もう、ジャムティー目当てで仕事を持ち帰りたくなるくらいに美味しい。
? 周りが良く見えないと思ったら、メガネを外してくれたみたい。手を伸ばすと丁度届く位置においてあった。
向こうにはアイロン掛けが終わった服が重ねてあった。豊彦くんが苦手と言っていたアイロン掛けも、今では折り目のズレもなくアイロンシワもなく綺麗に仕上がっている。やっぱり利き手を使うと上達が早い。包丁も左手に直してからは厚みも揃っている。最近は文字も左手で書く練習をしているみたいだし。
今日のお昼は、ベランダに椅子を出してピクニック気分をセッティングしてくれた。気分を高めるためと、おにぎりとお新香とデザートに冷凍ミカンだった。冷凍ミカンの名前は家庭科の授業で出てきたけれど、まさか実物を見るとは思ってもみなかった。豊彦くんが今日のために冷凍庫で凍らせておいてくれた。味は普段のミカンと違う独特な甘さと瑞々しさがあった。心地よい風の中でランチをしていると美味しい。
豊彦くんを見ると、その向こうに下着が干してあった。思わず笑ってしまったら、豊彦くんも洗濯物を見ながら笑っていた。でも、嬉しい。私のために一手間も二手間も掛けて準備してくれる。
残業で外食が続いたから実感する豊彦くんの料理に支えられている事。外食だと選べるメニューが少なくてアレルギー体質を実感するけど、豊彦くんの作る料理は食材に味付けに気遣ってくれてメニューの少なさを感じた事がなかった。何よりも、私の前のお皿には食べられる物しか盛りつけられていない安心感。
日常の事だから普通な事だと錯覚してしまうけど、ホントは毎日が特別な事の繰り返し。言葉でも気持ちを伝えてくれるけど、この日常こそが豊彦くんの気持ち。
改めて豊彦くんの寝顔を見ると尊い。
私たちは、自分の弱さを知っている。だから相手に甘えて生きている。お互いに寄りかかっているから私たちは立っていられる。まるで『人』の文字のように。
豊彦くん、たぶんそろそろ起きると思う。だから、コーヒーの準備をしよう。そして、ベランダでゆっくり過ごそう。
洗濯物の端を触ると乾いている。一番厚手の場所を触っても乾いている。
「大丈夫。取り込もう」
物干し竿に掛かっているハンガーを一か所まとめると、両手で一気に外して部屋の中に置いた。角ハンガーの洗濯物は真下にカゴを置いてどんどん外して落していく。
カゴを室内に入れると出しながら靴下や下着は畳んでいく。引き出しを開けると右側にクイット寄せ出来た隙間に入れていく。映美さんの分は左側にクイット寄せると出来た隙間に入れいく。
アイロン台を出して、アイロンをコンセントに繋ぐ。温まるまでにクローゼット用のハンガーを用意。
「さて、アイロン掛け」
余熱で掛けるハンカチをアイロン台の上におき、四隅に向かって掛ける。半分に折って掛ける。更に半分に折って軽く掛ける。
「シワなく、ズレなく。よし!」
ハンカチのウオーミングアップで勢いをつけ、次にシャツにズボンとアイロンを掛けていった。映美さんに教わった掴む場所、引っ張る場所を守るとズレなくアイロンを掛けられた。アイロンの当て方も言われた通りにするとシワなく出来た。たぶんコツはマスターしたと思う。でも、まだまだ違和感が残る。やっぱり、簡単そうな作業ほど奥が深い。
平干しネットで室内干しをしているのは、そのまま。型崩れの確認をしてから仕舞いたいと言う映美さんのリクエストだった。大切さは今一つ分からなかったけど、メガネがチョット変形しただけでも掛け心地が悪いでしょ。と言う事だった。
リビングに行くと、ソファーで映美さんが昼寝をしていた。読書の途中で寝落ちしたみたいで本を抱えて寝ていた。
最近、疲れが溜まっているのはこちらにも伝わっていた。残業も多く終わらない分は家に帰ってからも資料の確認をしたりしていた。それでも楽しそうに『仕事が佳境を迎えていて、あともう一息』と言っていた。だから、今日のお昼はリフレッシュを込めてベランダでおにぎりに御新香、冷凍ミカンとレトロなランチにしてみた。青空に浮かぶ雲を見ながら心地よい風に吹かれてのおにぎりは美味しかった。でも、洗濯物がはためく横でのランチは風情がないねと笑いながらになってしまったけど。
本を取りテーブルの上においた。メガネもそっと外してテーブルの上においた。いつ見ても美人、寝顔も美人。美人は三日見ると飽きるなんて聞いた事があったけど、そんなのはウソ。毎日見ても映美さんに飽きる事なんてない。毎日が尊い事には変わりはない。前髪にそっと触れてみる。オデコに文字が浮かんで見えた・・・。
あの時は意表を突かれた。そこまでしなくても普通に誘ってくれれば普通に受けたのにと思ったけど、里山公園のどこにそこまでの魅力があったのかな・・・。長い時間を掛けて見つけた自然との共生の仕方、日常生活では見なくなったものが沢山あった。伝統野菜や地方特有の野菜興味深いものばかりだった。お蕎麦も美味しかった。暗くなってから・・・!
「蛍を一緒に見たかったのか!」
虫が乱舞するおぞましい世界と思ってしまったけど、一緒に見たかったのか。客観的に考えれば発光体がランダムに浮遊しているのは幻想的だと感じる。手元で広がる星空と言えば更に魅力的な世界になる。理屈上は確かに幻想的で魅力的なのは間違いない。
「そうか、一緒に観たかったのか。来年は僕から誘って蛍を見に行こう」
~・~・~
鳥の鳴き声が聞こえた・・・、映美は寝ていた事に気がついた。
豊彦くんが隣りで寝ていた。最近、残業続きの私に変わって家事をやってくれる。ご飯も掃除も洗濯も卒なくこなす豊彦くん、家事は嫌いじゃないと言ってくれても疲れが溜まっているのは感じている。空港に行ってリフレッシュ出来たと言っても、まだまだ忙しいのは伝わってくる。
甘えちゃいけないのも分かっているけど、持ち帰り仕事の時に入れてくれるジャムティーは美味しい。もう、ジャムティー目当てで仕事を持ち帰りたくなるくらいに美味しい。
? 周りが良く見えないと思ったら、メガネを外してくれたみたい。手を伸ばすと丁度届く位置においてあった。
向こうにはアイロン掛けが終わった服が重ねてあった。豊彦くんが苦手と言っていたアイロン掛けも、今では折り目のズレもなくアイロンシワもなく綺麗に仕上がっている。やっぱり利き手を使うと上達が早い。包丁も左手に直してからは厚みも揃っている。最近は文字も左手で書く練習をしているみたいだし。
今日のお昼は、ベランダに椅子を出してピクニック気分をセッティングしてくれた。気分を高めるためと、おにぎりとお新香とデザートに冷凍ミカンだった。冷凍ミカンの名前は家庭科の授業で出てきたけれど、まさか実物を見るとは思ってもみなかった。豊彦くんが今日のために冷凍庫で凍らせておいてくれた。味は普段のミカンと違う独特な甘さと瑞々しさがあった。心地よい風の中でランチをしていると美味しい。
豊彦くんを見ると、その向こうに下着が干してあった。思わず笑ってしまったら、豊彦くんも洗濯物を見ながら笑っていた。でも、嬉しい。私のために一手間も二手間も掛けて準備してくれる。
残業で外食が続いたから実感する豊彦くんの料理に支えられている事。外食だと選べるメニューが少なくてアレルギー体質を実感するけど、豊彦くんの作る料理は食材に味付けに気遣ってくれてメニューの少なさを感じた事がなかった。何よりも、私の前のお皿には食べられる物しか盛りつけられていない安心感。
日常の事だから普通な事だと錯覚してしまうけど、ホントは毎日が特別な事の繰り返し。言葉でも気持ちを伝えてくれるけど、この日常こそが豊彦くんの気持ち。
改めて豊彦くんの寝顔を見ると尊い。
私たちは、自分の弱さを知っている。だから相手に甘えて生きている。お互いに寄りかかっているから私たちは立っていられる。まるで『人』の文字のように。
豊彦くん、たぶんそろそろ起きると思う。だから、コーヒーの準備をしよう。そして、ベランダでゆっくり過ごそう。
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
月への出張
風宮 秤
恋愛
月の人口は五百人を超えていた。天体観測、低重力下での新素材開発など月基地の重要性は高まっていたが、食料、電力、健康のための重力施設、それらを解決するための活動可能空間が圧倒的に不足していた。空間創出のために豊彦は月に出張する事になった。
しかし、日常生活との違いが思わぬ所にあった。
恋愛カテゴリーとSFカテゴリーのハイブリッドです。
豊彦・映美シリーズ です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
映美の悩み・豊彦くんの特殊能力
風宮 秤
恋愛
普通の人では分からないグルテンの含有。豊彦のグルテンセンサーは特殊能力のようだった。しかし、豊彦の特異性は別のところにあった。
豊彦・映美シリーズ です。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
平和で幸せな気分にしてもらいました。
お互いが相手に思いやりを持って接しているしお互いにそれを感じている。尊敬しあっているのが伝わってくる。
ふたりとも疲れているのに荒む事もない。甘える事は信頼。
私も、特に大切な人には思いやりの心を忘れたくないなぁなんて思いながら読んでいました。
このふたりの優しい世界、今度はどんなシーンを見せてもらえるのか楽しみです。