構想中、執筆中、推敲中

風宮 秤

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構想中、執筆中、推敲中

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 あれから嫁の機嫌が好い。料理中に鼻歌交じりで包丁の音もリズミカル。普段より温かい視線を感じるようになった。
 もちろん、色々と改心したよ。料理は手伝わなくて良いと言われたので風呂の掃除をやっている。汚れていないけど排水溝も掃除している。たぶんこれはポイントが高いはず。仕上げで天井の乾拭きは真骨頂だね。気づかないといけないので『お風呂の天井も拭いておいたから』とアピールに抜かりはない。
 こっちは約束通り、買い物は一緒に行っている。スーパーは思った以上にネタが多かったのは嬉しい誤算だね。他のお客の買い物カゴを覗くと、半額セールを山のように買っている人がいた。これで節約のつもりなのか? 食べきれなかったら高くつくのでは? いやいや、ここは自炊が一番の節約でしょ。あれだけの量なら四人家族ぐらいだろうし。だいたい料理なんてちょっとテレビを見ているだけで出来てしまうほど簡単なんだから。そうだよ、自分でやるべきだよ。あう言う人にはうちの嫁を見倣えと言ってやりたい。
 不思議なのはレジで並ぶ時。手の早いレジ打ちより男性客の後ろの方が早いんだよね。理由を嫁に聞いたら、男性はついで買いをしないから買う量が少ないらしい。確かにカートにカゴを二つ入れている女性がいても、男性はカゴがあっても中は半分。あ! 男性はボッチだからと合点がいったよ。
 そうそう買い物に一緒に行く一番の理由、手の届かない奥の方や高い場所の物をちゃんとに取っているよ。リモートコントロールは卒業して嫁の視線入力でバッチリ。阿吽の呼吸と言うか、その目からレーザービームが出ているんじゃないのと思うくらいに欲しい物が分かるんだよね。正直なところ控えめに言って頑張っているからね。
 そうは言っても身体がね、勝手に反応するんだよ。つい隣の物を取りたくなるのはデビルハンドなのかもしれない。それなのに足を踏んでくる困ったDV嫁だね。その足を五勝三敗でかわしているけどV。と思っていたら見越して隣の物にレーザービームを当ててきたんだよ。そんな意地悪に気づかずに隣の物を取ったら勝ち誇っているんだよね。思わず足を踏みたくなるけど、僕が踏んだらホントに痛いだろうから自粛しています。

 家での過ごし方も変わったな。二人でゲームをする時間が減ったんだよね。ゲームを持ち出す前に嫁は読書をするようになったんだ。ちなみに嫁は『レイ・ブラッドベリ』のファンなんだ。デートの時に何度となく『華氏451度』を語っていたよ。内容は覚えていないけど、楽しそうに話していたのはよく覚えている。
 それで、執筆時間と言えば嫁が食事の準備中とか風呂の時だった。それが今では、嫁の隣でパソコン広げてカチャカチャ叩いているんだ。恥ずかしさは残っているけど、こういう二人の時間も悪くないかな。お互いに別々の事をしているけど一緒なんだよね。今まで一緒にゲームをする事が一緒の時間を過ごす事だと思っていたけど、ワンランク上の大人の過ごし方かな? なんて思ったりもする。しかも、絶妙なタイミングでコーヒーも出てくるし。
 そのコーヒーがあまりにも絶妙なタイミングで出てくるから、人の心が読めるエスパーかもと思ったけど、嫁の分のママドールを食べたのがばれてない段階でその線はなくなった。まぁ可愛い嫁でしかないよ。うんうん。もう一個食べても大丈夫かもしれない。
 が、ある時に突然謎が解けたよ。コーヒーの謎は執筆に行き詰った時に分かったよ。何気なく外を見ていたら窓に映る嫁は読書をしている振りだったと。ちらちらとこっちを見ていたんだな。
 そんなに見ていたって簡単には書き上がらないんだな。何が難しいってマッドサイエンティストに相応しいマッドなアイテムを考えないとね。ボタン一つで簡単調理の電気圧力鍋なんて庶民的過ぎて・・・これはCMでやっていたからダメか。
 マッドな発明か・・・、マッドマックス? 同じマッドでも砂漠で車が走っているだけだし。と思っていたら、マッドなニュースがあった様な・・・
 !  培養肉だ。
 生きた細胞を取り出して培養液で増殖する肉だ。これを使って自己増殖するステーキ肉は良いかも。焼いたお肉に謎のソースを掛けると、ピクピクしながら増殖して一口大のお肉が200gのビックサイズに成長するとかは良いね。マッドに相応しいアイテムだね。
 となると、舞台は夕飯だね。一杯のかけ蕎麦みたいに、小さなお肉一枚買ってきて『僕のお給料じゃ、これが精いっぱいだよ』って言って手渡したステーキ肉を笑顔で受け取る嫁。焼いたお肉に謎のソースを掛けるとピクピクしながら大きくなって『これだけ大きくなればお腹いっぱいお肉が食べられるね』って言ったあとで、ピクピクしているお肉を見ながら『活魚ならぬ活肉だね』って微笑み合うんだけど、お肉にナイフを入れると縮まって捩れて・・・・、お肉の声なき声が聞こえて来て、結局食べられない展開。
 これはダメだな。食品廃棄削減の折にステーキ肉を残す展開はきっと世間が許さないな。一口分を残しておくと、翌日には元の大きさまで成長している方がエコな感じがする。この展開なら良いかも。よしこれに書き直して後は校正だ。

 コーヒーの香りが部屋を満たしている。となりにいる筈の嫁がいなくなっていた。こっちにも驚きのサプライズを用意しているんだね。ケーキを買って箪笥の上に隠しておいたんだ。コーヒーが出てきたタイミングで出せばポイントアップ間違いなしだね。
「俊くん、コーヒー淹れたわよ」
 嫁が運ぶお盆の上にはコーヒーが二つに、ケーキが一つ? しかも見覚えがある・・・・
「ケーキが一つ・・・・ですか?」
 え、そんな仁王立ちで見下ろさなくてもいいじゃないですか。私が一体なにをしたと言うのでしょう?
「あ・・・あれね。ママドールと交換だったんだよね?」
 そんなに圧を高めなくたって、ママドール一個とケーキ一個では割に合わないのだけど、今までなら直ぐに怒っていたのに。
「気がついていたの?」
「あんなにニタニタとしていたら、どっちも気がつくでしょう。だからこれは私の分」
 満面の笑みでケーキを食べる横で、ブラックコーヒーは苦くて大人の味がした。
「ほら、あーん」
 フォークの先にはケーキが一口分。物欲しそうな僕に食べさせてくれた。
「うん、甘くて美味しい」
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