鍵の勇者と錠の聖女

文字の大きさ
上 下
13 / 19

12日目 ソラノオトシモノ

しおりを挟む
 朝ごはん彼の作ってくれたじゃがいものガレット、ナマズのつみれ汁、腸詰のボイル、人参のサラダ、を外のテラスで食べる。
 朝露で化粧をした庭は、食事から顔を上げる度にキラキラと輝く。
 静かな朝食をとっていると、空が騒がしい…空が?!上を向くと大きな真っ白なドラゴンが何かを追いかけている。
 その正体はつかめなかったが、ドラゴンがそれを掴んで私の家の方に投げて来た。
 私は水の塊を宙にいくつも作り出し、向かってきたそれを両手で受け止めるとかなり重く、尻もちを着いてしまう。

 白と赤黒いそれはかなりの怪我をしていることが分かった。
 血と汚れでなにかまでは断定できないが、人間では無いことが確実だ。
 ヒールを使ってあげるが、1番大きいキズは治ることはなく水で血を流すと傷の上から酷い火傷をしている。
 こういう傷はポーションをかけながらヒールするのがよく効く。

 調合室の常備薬のポーションを持ってきて魔力を高めハイヒールを使うと辺りの草花も元気になった。
 ハイヒールの途中でポーションを傷口にかけると、光が強まりまだ継続する。
 ハイヒールは治るまでヒールを連続で使うと思われている魔法だが、少し意味合いが違う。
 複数の傷を長時間同時に治す技である。
 ヒール3回使うよりはハイヒールを使った方が体内の魔力量の減りが少ない。


 お母さんの歌ってくれた子守唄を思い出して鼻歌を歌う。
 傷や焼き付いた毛なんかをそったり、鱗の間の血の塊を取ってあげたりした。
 この子はドラゴンの幼体だったのだ。
 ドラゴンは通常ひとつの卵しか産まないが、ごく稀に2つ卵を産む。
 その時は孵してどちらが強いかで決めるらしい。
 選ばれなかった方のドラゴンは、母親に追い出されて二度と巣に帰ることは許されない。
 そうだろうなと思ってはいたが、その光景を初めて目の当たりにした。
 最後に顔を拭いてあげる。
 透き通るほど真っ白の鱗に黒の産毛が生えて美しい幼体のドラゴンだ。
 ドラゴンは完全に治ると目を覚まし空を見て何かを探すと小さくなってしまった。
 きっとさっきの母ドラゴンが居ないかみたのだろう。



「ニャーァー!」

「大丈夫だよ」



 頭に触れようとするとビクッと身を引くが、少々強引に撫でると諦めたのが撫でられるのを堪能している。
 撫でたらわかったのだが、この子は生まれたばかり見たいで鱗が柔らかかった。
 生まれた瞬間に、捨てられたのかと考えると少し悲しい気持ちになった。



「私がママになってあげる。ね?だから泣きやんで?」

「ミャー?」



 私はナマズのつみれ汁を机の上から持ってきて目の前に置くと匂いを嗅いで食べ始めた。
 初めて食べるものがこれでよかったのだろうか?



「ミャウ、ミャァ……ミャウ」



 美味しいようでよかった。
 足りなさそうなのでお昼にもう少しナマズを焼いてあげよう。
 今更だけど、、ドラゴンって食べちゃいけないものは無いのかな?
 大体の動物はネギがダメだったりするが……。

 食べ終わったのか、とても満足そうな顔をしている。
 すると私の足の間に入ったり、私の足にスリスリしたり猫みたいな仕草が多いなぁなんて思った。


「ねこみたいだなぁ」

「ミャア!」

「名前は……みゃー……ミャア?ミアなんでどうかな?」

「ミャ!」

「じゃあミアよろしくね?」



 ミアは頭突きしてきた。
 私は負けじとミアの頭をわしゃわしゃと撫でる。



 夜ギンがきたのでミアのことを紹介したら白のドラゴンとは魔物の中ではとても貴重な存在らしく「へぇ」と興味無さそうな声を出したらため息をつかれた。



「すごいことなんだぞ!今の魔物の王様はすごいんだからなんだから!」

「その王様が二個卵産んでこの子を捨てたってこと?」

「白いドラゴンは沢山いるかもしれないけどよ?こんな純白なドラゴンは王様以外に見た時ねーぞ?」

「ふぅん。王様ならたった2匹くらいちゃんと育ててよって思うけどね?」

「ドラゴンの掟かなんかじゃねーのか?どんな種族でもよ?腹痛めて産んだ子供を殺したい親なんかいねーと思うぞ?ドラゴンは難産だってよく聞くしよ?」

「私にも知らないことがまだあったなんて。」

「じゃあ行くからな!1人じゃなくなったから寂しくもねーだろ?」




 ギンは私の以前つぶやいた言葉を気にしてくれたのがそんなことを言うと荷物を背負ってランタンの中に入って行った。
 タカヒコは今日、魔王の手がかりの洞窟に着いたそうなので、手がかりの洞窟の見取り図を描いて入れてあげた。
 不安になっていたら危ないしね。

 今日のハーブティは美味しいかな?寒くはないかな?怪我はしていないかな?心配が尽きない。
 彼も見ているかもしれない星空に指を組み彼の無事を願う。

 

残り1086日
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

百度目は相打ちで

豆狸
恋愛
「エスポージト公爵家のアンドレア嬢だな。……なにがあった? あんたの目は死線を潜り抜けたものだけが持つ光を放ってる。王太子殿下の婚約者ってのは、そんなに危険な生活を送ってるのか? 十年前、聖殿で会ったあんたはもっと幸せそうな顔をしていたぞ」 九十九回繰り返して、今が百度目でも今日は今日だ。 私は明日を知らない。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

処理中です...