鍵の勇者と錠の聖女

文字の大きさ
上 下
12 / 19

11日目 きいろの夢

しおりを挟む
 果樹園という程では無いが、元々果樹がたくさん生えている場所がある。
 その場所には、スモモの木、サルナシの木、レモンの木、ローリエ、桑の木、なんかが植わっている。
 もともと貴族だった曾祖母が自分の趣味のために建てられたと言われるこの家果物がたくさん生えている。

 曾祖母はどこかの国のお姫様だったとか何とか…祖母は曾祖母が森の中に隠した宝と言われ、母はどうして生まれたのか、私はどうして生まれたのかよく分からない。
 父親はもちろん祖父も分からない。
 私が1ミリも気にならなかったのには、母に愛情持って育てられたからだろう。

 繰り返しの人生の中で王族と招き入れられた時があった。
 その人生も悲惨だったものだ。
 思い出すだけでも鳥肌が…。



「おーいシュリー?来たぞー?」

「ギン?こっちに来たの?」

「ああ!これ!タカヒコからだぞー!」



 渡されたものは瓶と、瓶の中には根っこまで綺麗に現れた真っ白い小さな鈴蘭の苗だった。
 手紙がまきつけてあったので紐を解いてみると一言だけ、「君に似た花があったので送らせてもらう」と書いてあった。
 とても嬉しくなった。
 ふとタカヒコの顔を思い出して、瓶を抱き抱える。



「おーおー?なんかあいつに届けるかー?」

「そうね…。どうしようかしら?……そうだわ!」

「んー?」


 手紙を書いた。
 特に何か書いた訳では無いが朝に焼いたクッキーを4.5枚入れてあげた。
 ギンは受け取るとすぐにランタンに飛び込んで行った。
 私は鈴蘭を家の前の植木鉢に植えて、ヒールと豊穣の祝福を施すと少しだけしおれていた鈴蘭とても元気になった。


 果樹園の収穫ができそうなサルナシと、レモンを収穫していく。
 こちらのレモンは曾祖母が貼った結界のおかげでいつでも収穫できる。
 曾祖母の貼った結界は今はもう文献すら残っていない昔の高技術な結界だ。
 レモンの木をとてもとても大切にされていたよう。
 レモンの木の周りはとても暖かい海の気候を思い出し、香りも磯のかおりがする気がする。
 


「貴方は主人がいなくて寂しいでしょ?私も1人で寂しい…」



 レモンの木には「そんなことないよ?」と言われた気がした。
 レモンの木の根元に座り込み寄りかかると湖を見る。
 すごく海みたいな景色だなぁと思いながらぼぅっと眺めていたらいつの間にか寝てしまった。
 
 夢を見た気がした。
 暖かい気候の地方の夢で小さな船を男の人が漕いでいる夢。
 その男の人は優しい笑顔で喋りかけて来て、私は彼に好意を抱いているのかな?船からおりると私は必死に彼を引き止めて彼の家に向かった。
 彼は家に入れてくれなくて、代わりにレモンの木の折って枝を2本渡してきた。
 私は彼を泣いて引き止めたが彼はどこかに行ってしまった。
 そして私は誰かに両脇を抱えられて、どこかに連れさらわれ、鳥籠の中に幽閉されて毎日泣いて過ごした。
 鳥籠の中で泣きながら大切にレモンを育てた。
 変わった夢だ。



「シュリー!こんなとこで寝たら大変だぞ!」

「……ん?タカヒコ……さん?」

「おま、なんで泣いてんだよ?!泣きやめってよしよし。」



 私は泣いていたようで袖で涙を拭うと、ギンな小さな体を使って一生懸命よしよししてくれた。
 ギンは何かを届けてくれていた訳ではなかったが「心配だから」といってタカヒコのところから来てくれたようだ。
 本当はクッキーが食べたいだけだったようだが……。
 夜なのでフレッシュハーブをまたギンに持って行ってもらう。
 今日はレモングラス、アップルミント、ファンネル、ラベンダーの蕾を入れた。



「またな!」

「タカヒコさんによろしく。」

「おうっ!」



 寂しいものだ。
 レモンの木を撫でながら雲がかかった星を見る。

残り1087日
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

百度目は相打ちで

豆狸
恋愛
「エスポージト公爵家のアンドレア嬢だな。……なにがあった? あんたの目は死線を潜り抜けたものだけが持つ光を放ってる。王太子殿下の婚約者ってのは、そんなに危険な生活を送ってるのか? 十年前、聖殿で会ったあんたはもっと幸せそうな顔をしていたぞ」 九十九回繰り返して、今が百度目でも今日は今日だ。 私は明日を知らない。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...