26 / 31
ルーン族の王女
しおりを挟む
彼女はゆっくりと瞳を開けた。
俺達を認識すると、目を見開いた。
『誰? 此処まで辿り着けるのは権限を持つものだけなのに……』
彼女は入っていた魔導具の中から飛び出ると、腰を低くして臨戦態勢になった。
「な、何て言っているの……?」
話す言語は古代言語。
ユンは彼女が何を言っているのか分からないだろう。
『何を話している……? まさか悪魔……?』
彼女は何か勘違いをしていた。
早く誤解を解かないと状況はまずい方向に行ってしまう。
「ユン、すまないが話は後にしよう。彼女すごい誤解してるみたい」
「わ、分かった!」
まずは彼女は多分、現代の言語が分かっていない。
不信感を抱かせないためにもユンとの会話は出来るだけ避けた方がいいだろう。
『誤解だよ。俺達は此処を探索しにきただけです』
『貴方はルーン言語を話せるの』
『ええ、でもこの人を含めて他の人間はルーン言語を話せないと思います』
ルーン言語は俺が古代文字と言っているルーン文字を言語化したものだ。
|失われた技術(ロストテクノロジー)とされているなら、俺以外では話せる人間がほとんどいないと考えて間違いないはずだ。
『嘘……』
彼女は酷く落ち込んだ様子だった。
『ねぇ、今ってルーン暦何年になる?』
『ルーン暦? 紀年法は文明暦ただ一つですよ。紀元前の情報はほとんど残っていませんから』
『……ルーン族は?』
『分かりませんけど、俺の知る限りは見たことも聞いたことも……』
『そんな……』
絶望した表情で彼女は地面に座り込んだ。
『やっぱり紀元前から眠っていたんですね。……残念ながら、多分君が眠ってから世界はものすごい時間が経っていると思います。少なくとも今は文明暦779年。最低でも779年は眠っていたことになるはず』
『一瞬、目を閉じただけなのにそれだけの時間が過ぎていたなんてね』
もしそれが自分だったらと考えたらゾッとする。
次の瞬間に何百年と時間が経っていて、自分の知らない世界に放り出されるのだ。
なんて恐ろしいのだろう。
『……よければ君がなんでここで眠っていたのか、教えてくれませんか? 嫌なら無理に言わなくてもいいですから』
『……大丈夫。私も現状を把握しなければいけない』
『……強いんだね』
『ううん。そんなことない』
彼女は一呼吸置いてから、今までの経緯を話し出した。
『私はキルクシーシャというルーン族の国の王女だった。第二次人魔大戦のときに悪魔と異界の化物から私を守るためにこの場所が作られた。大戦後、私を目覚めさせ、キルクシーシャの復興をする予定だったけど、そう上手くはいかなかったみたいね』
『……ちょっと待ってください。第二次人魔大戦とは一体なんですか?』
『そう。知らないのね。貴方の言う文明暦よりも前の歴史は何一つ残ってなさそう。第二次人魔大戦は、ルーン族と悪魔の戦いのこと。悪魔陣営は異界の化物も召喚して、まるでこの世の終わりのようだった』
『そんな戦いがあったなんて……』
『それが私の今までの経緯。そして、貴方が私を目覚めさせた。何故?』
彼女は俺という人間を深く観察するように、じーっと見つめていた。
『こんなところで一人でいるのは可哀想だったからで……後は好奇心かな』
『それだけの理由で私は起こせないことになっている。どうして私のもとまで来ることが出来たの? 最深部まで来られたとしても壁とゴーレムがいたはず。あれは権限を持つ者だけにしか対処出来ないはずなのに……』
『権限って何か分からないけど、扉のような壁のことなら、文字を壁から扉に変えたんだ。ゴーレムは俺にだけ何も襲って来なかったね。申し訳なかったけど、無力化させてもらったよ』
『……どうしてルーン族でもない貴方がそんなことが出来るの? 一般のルーン族でも出来ないことなのに……不思議』
『俺も不思議で仕方ないんだ。突然目の前に本が現れて、そこに記されていたルーン文字を書き換えたんだ』
『本……。思えば、権限を持つ者はみんなそう言っていた。つまり、貴方も権限を持っているということ?』
『えーっと……身に覚えがないから何とも言えないね。ちなみにその権限ってどういうもの?』
『私も詳しく聞かされていないけど、世界に干渉する力と聞いたことがあるわ』
『世界に干渉する力か……。随分と凄い力だね』
『貴方も世界に干渉してみせたからここにいる。それも無自覚で使うなんて、不思議』
彼女は本当に不思議そうに俺をじーっと見ていた。
そしてぐ~っとお腹をすかせた。
『……お腹すいた』
彼女はそう言って、お腹に手をあてた。
『ひとまず此処を出て食事にしようか』
『うん。そうする。どうせ行く宛もないから』
『……あ、そういえばまだ名前言ってなかったね。俺の名前はノア。君の名前は?』
『私はアレクシア』
『良い名前だね。よろしくアレクシア』
『うん。よろしく』
俺達を認識すると、目を見開いた。
『誰? 此処まで辿り着けるのは権限を持つものだけなのに……』
彼女は入っていた魔導具の中から飛び出ると、腰を低くして臨戦態勢になった。
「な、何て言っているの……?」
話す言語は古代言語。
ユンは彼女が何を言っているのか分からないだろう。
『何を話している……? まさか悪魔……?』
彼女は何か勘違いをしていた。
早く誤解を解かないと状況はまずい方向に行ってしまう。
「ユン、すまないが話は後にしよう。彼女すごい誤解してるみたい」
「わ、分かった!」
まずは彼女は多分、現代の言語が分かっていない。
不信感を抱かせないためにもユンとの会話は出来るだけ避けた方がいいだろう。
『誤解だよ。俺達は此処を探索しにきただけです』
『貴方はルーン言語を話せるの』
『ええ、でもこの人を含めて他の人間はルーン言語を話せないと思います』
ルーン言語は俺が古代文字と言っているルーン文字を言語化したものだ。
|失われた技術(ロストテクノロジー)とされているなら、俺以外では話せる人間がほとんどいないと考えて間違いないはずだ。
『嘘……』
彼女は酷く落ち込んだ様子だった。
『ねぇ、今ってルーン暦何年になる?』
『ルーン暦? 紀年法は文明暦ただ一つですよ。紀元前の情報はほとんど残っていませんから』
『……ルーン族は?』
『分かりませんけど、俺の知る限りは見たことも聞いたことも……』
『そんな……』
絶望した表情で彼女は地面に座り込んだ。
『やっぱり紀元前から眠っていたんですね。……残念ながら、多分君が眠ってから世界はものすごい時間が経っていると思います。少なくとも今は文明暦779年。最低でも779年は眠っていたことになるはず』
『一瞬、目を閉じただけなのにそれだけの時間が過ぎていたなんてね』
もしそれが自分だったらと考えたらゾッとする。
次の瞬間に何百年と時間が経っていて、自分の知らない世界に放り出されるのだ。
なんて恐ろしいのだろう。
『……よければ君がなんでここで眠っていたのか、教えてくれませんか? 嫌なら無理に言わなくてもいいですから』
『……大丈夫。私も現状を把握しなければいけない』
『……強いんだね』
『ううん。そんなことない』
彼女は一呼吸置いてから、今までの経緯を話し出した。
『私はキルクシーシャというルーン族の国の王女だった。第二次人魔大戦のときに悪魔と異界の化物から私を守るためにこの場所が作られた。大戦後、私を目覚めさせ、キルクシーシャの復興をする予定だったけど、そう上手くはいかなかったみたいね』
『……ちょっと待ってください。第二次人魔大戦とは一体なんですか?』
『そう。知らないのね。貴方の言う文明暦よりも前の歴史は何一つ残ってなさそう。第二次人魔大戦は、ルーン族と悪魔の戦いのこと。悪魔陣営は異界の化物も召喚して、まるでこの世の終わりのようだった』
『そんな戦いがあったなんて……』
『それが私の今までの経緯。そして、貴方が私を目覚めさせた。何故?』
彼女は俺という人間を深く観察するように、じーっと見つめていた。
『こんなところで一人でいるのは可哀想だったからで……後は好奇心かな』
『それだけの理由で私は起こせないことになっている。どうして私のもとまで来ることが出来たの? 最深部まで来られたとしても壁とゴーレムがいたはず。あれは権限を持つ者だけにしか対処出来ないはずなのに……』
『権限って何か分からないけど、扉のような壁のことなら、文字を壁から扉に変えたんだ。ゴーレムは俺にだけ何も襲って来なかったね。申し訳なかったけど、無力化させてもらったよ』
『……どうしてルーン族でもない貴方がそんなことが出来るの? 一般のルーン族でも出来ないことなのに……不思議』
『俺も不思議で仕方ないんだ。突然目の前に本が現れて、そこに記されていたルーン文字を書き換えたんだ』
『本……。思えば、権限を持つ者はみんなそう言っていた。つまり、貴方も権限を持っているということ?』
『えーっと……身に覚えがないから何とも言えないね。ちなみにその権限ってどういうもの?』
『私も詳しく聞かされていないけど、世界に干渉する力と聞いたことがあるわ』
『世界に干渉する力か……。随分と凄い力だね』
『貴方も世界に干渉してみせたからここにいる。それも無自覚で使うなんて、不思議』
彼女は本当に不思議そうに俺をじーっと見ていた。
そしてぐ~っとお腹をすかせた。
『……お腹すいた』
彼女はそう言って、お腹に手をあてた。
『ひとまず此処を出て食事にしようか』
『うん。そうする。どうせ行く宛もないから』
『……あ、そういえばまだ名前言ってなかったね。俺の名前はノア。君の名前は?』
『私はアレクシア』
『良い名前だね。よろしくアレクシア』
『うん。よろしく』
0
お気に入りに追加
2,085
あなたにおすすめの小説
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で
ハーーナ殿下
ファンタジー
鍛冶師ハルクは幼い時から、道具作りが好きな青年。だが独裁的な国王によって、不本意な戦争武器ばかり作らされてきた。
そんなある日、ハルクは国王によって国外追放されてしまう。自分の力不足をなげきつつ、生きていくために隣の小国で冒険者になる。だが多くの冒険者が「生産職のクセに冒険者とか、馬鹿か!」と嘲笑してきた。
しかし人々は知らなかった。実はハルクが地上でただ一人《鍛冶女神の加護》を有することを。彼が真心込めて作り出す道具と武具は地味だが、全て《超伝説級》に仕上がる秘密を。それを知らずに追放した独裁王国は衰退していく。
これはモノ作りが好きな純粋な青年が、色んな人たちを助けて認められ、《超伝説級》武具道具で活躍していく物語である。「えっ…聖剣? いえ、これは普通の短剣ですが、どうかしましたか?」

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。
ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。
高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。
そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。
そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。
弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。
※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。
※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。
Hotランキング 1位
ファンタジーランキング 1位
人気ランキング 2位
100000Pt達成!!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる