戦闘力のないハズレ才能【翻訳】で古代魔導書を読み漁っていたら世界最強になってました

蒼乃白兎

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《傀儡の箱庭》

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 《次元の狭間》の先は、のどかな雰囲気のある草木に包まれた場所だった。
 視界の先には一本の巨木があった。
 巨木の枝葉がこの辺り一面の空を覆っていた。
 木漏れ日が地面を照らしている。

 ……木漏れ日?
 さっきいた場所は夜だったが、この場所は日中になるのか?
 大幅に時間帯が変わるほどの長距離を空間移動しているのだろうか。

『ノア、見てみろ。ここは思ったより狭いようだぞ』

 ファフニールの声が背後からした。
 振り向くと、後方は針葉樹が隙間なく植えられていた。
 自然のものでも人為的に植えられたものでもないと直感した。
 これは──。

『結界が展開されているみたいだね』
『うむ。この空間自体がどこか魔力を帯びているように感じるな』
『その通りだと思うよ。言うなればここは箱庭だ。《次元の狭間》で空間移動した先は、別次元に作られた空間そのものだね』

 こういった空間を作成する古代魔法はいくつか存在する。
 それがなんなのか、特定するには情報が足りない。
 この日差しも実在するものではなく、誰かによって作られた魔法だろう。

『とりあえず前に進んでみようか。情報を得るためにこの空間内の探索をする必要性があるようだから』
『うむ』

 まずは、あの巨木の根元に向かって進むことにした。
 前方に進んでいくと、森があった。
 地理的環境を考えると、この森を抜ければ巨木に到着する。
 ただ、まずはこの森について調べていこう。

「《生体反応分析》」

 これは《素材探索》と似ていて、魔力の波動を流して周囲の状況を分析する古代魔法だ。
 目を閉じると、周囲の地形図が映し出される。
 古代魔法は論理的に術式を構成する魔法なので、似たような性質の魔法が結構多い。
 周囲の地形図には生体反応が表示される。
 《素材探索》は価値のある素材を、《生体反応分析》は生体反応を表示するのだ。

 地形図の一カ所にいくつもの生体反応が表示されていた。
 そして巨木の近くに1体の生体反応がある。
 それ以外は何もない。

 不思議な分布だ。
 これを見る限り、通常の森のように魔物は存在していないのだろう。
 このいくつもある生体反応が全て魔物なら話は別だが……どうだろうな。

 俺はこの《生体反応分析》の結果から、目的地を巨木から、このいくつも生体反応があった場所に変更した。

『ファフニール、目的地を変更するよ。付いて来てくれる?』
『分かったぞ。それとわざわざ伝えなくとも我はノアに黙ってついてゆくぞ』
『はは、ありがとね。ファフニール』

 森の中を駆ける。
 風の音、動物の鳴き声、それらが何もない。
 地面を蹴る音しか聞こえないこの森は不気味に思えた。

 目的地に到着すると、小さな木の家があった。
 人形が暮らしているかのようなサイズ感で、あまりにも場違いだ。

『だ、誰……ですか……?』

 声が聞こえた。
 高い声で今まで聞いてきた言語のどれにも当てはまらない。
 それでもなにを言っているのか、分かった。
 視界をズラして、声の主を見ると、背中に羽根を生やした小人の女の子だった。
 羽根を動かして、パタパタと宙に浮かんでいる。

 その姿は書物で見た妖精の容姿に一致していた。

 手には小さな木の実を持っていたが、その身体にはとてもマッチしていて、重そうに抱えていた。

『うーん、人間って言えばいいのかな?』
『……えっ、えっ? ど、どうして私たちの言葉が分かるんですか!? 人間とは言語が違うのに……』
『うん、なんかそういう才能があるみたいでね。逆に言えば、それしか才能がないんだけど』
『そ、そうなんですね。そ、それでどうしてこんなところに……? もしかして、何かまた酷いことをしにきたのでしょうか……?』
『酷いこと?』
『と、とぼけないでください……! 私たちの仲間を連れていって、一体何をしているんですか……? お願いですから、もう止めてください……!』

 小人は瞳から涙を流した。
 話を聞く限り、彼女は間違いなく妖精だろう。
 ならば、どうしてこんなところに?
 とにかく、まずはこの少女を落ち着かせることが先決だ。

『信じられないかもしれないけど、俺は君たちを助けに来たんだ。酷く怯えているようだけど、それは闇の精霊が関係しているのかな?』
『し、知っているんですか?』
『詳しくは知らないけど、名前だけは少しね』
『そうなんですね……』

 警戒は少し緩んだようだけど、まだ信じきれていない様子だ。
 とりあえず、木の実を運んでいるのが凄く重そうだから足下に手のひらを置いてあげた。

『ひっ……!』
『あ、ごめん。驚かせちゃったかな? 重そうだったから運ぶのを手伝ってあげようと思って』
『……あ、ありがとうございます』

 妖精はしばらく俺をじーっと見つめた後に、手のひらの上に乗った。

『どこまで運べば良いのかな?』
『そ、そこの家まで……』
『分かったよ』

 そう言って俺は、ゆっくりと移動して手のひらを家の扉の前まで持って行った。
 妖精は降りて、家の前に木の実を一度置き、扉を開けようとドアノブに手を置いた。
 しかし、そこで妖精は立ち止まり、俺の方を振り向いた。

『……あの、本当に私達を助けてくれるんですか?』
『もちろん。何をすれば助けてあげられる?』
『──森の先に見える巨木の根元に、此処を守るゴーレムがいるんです。
 巨木の根元にある場所に行けば、ここから抜け出せるんですけど、そのゴーレムが阻止してきて、ここから抜け出せないんです。
 お願いします……あのゴーレムを……倒してください……』

 妖精は地面に崩れて、泣きながら懇願した。
 その涙は、この妖精達が悲惨な状況下に晒されていたことを物語っているように感じられた。
 ……闇の精霊は一体何が目的なんだ?

『分かったよ、そのゴーレム必ず倒してくるから。待ってて』

 俺は妖精の頭を優しく人差し指でなでてあげた。

 そして、妖精からの情報を聞いて、この空間がどの古代魔法によって作成されたのか完全に把握出来た。

 此処は──《傀儡(くぐつ)の箱庭》だ。
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