16 / 31
《傀儡の箱庭》
しおりを挟む
《次元の狭間》の先は、のどかな雰囲気のある草木に包まれた場所だった。
視界の先には一本の巨木があった。
巨木の枝葉がこの辺り一面の空を覆っていた。
木漏れ日が地面を照らしている。
……木漏れ日?
さっきいた場所は夜だったが、この場所は日中になるのか?
大幅に時間帯が変わるほどの長距離を空間移動しているのだろうか。
『ノア、見てみろ。ここは思ったより狭いようだぞ』
ファフニールの声が背後からした。
振り向くと、後方は針葉樹が隙間なく植えられていた。
自然のものでも人為的に植えられたものでもないと直感した。
これは──。
『結界が展開されているみたいだね』
『うむ。この空間自体がどこか魔力を帯びているように感じるな』
『その通りだと思うよ。言うなればここは箱庭だ。《次元の狭間》で空間移動した先は、別次元に作られた空間そのものだね』
こういった空間を作成する古代魔法はいくつか存在する。
それがなんなのか、特定するには情報が足りない。
この日差しも実在するものではなく、誰かによって作られた魔法だろう。
『とりあえず前に進んでみようか。情報を得るためにこの空間内の探索をする必要性があるようだから』
『うむ』
まずは、あの巨木の根元に向かって進むことにした。
前方に進んでいくと、森があった。
地理的環境を考えると、この森を抜ければ巨木に到着する。
ただ、まずはこの森について調べていこう。
「《生体反応分析》」
これは《素材探索》と似ていて、魔力の波動を流して周囲の状況を分析する古代魔法だ。
目を閉じると、周囲の地形図が映し出される。
古代魔法は論理的に術式を構成する魔法なので、似たような性質の魔法が結構多い。
周囲の地形図には生体反応が表示される。
《素材探索》は価値のある素材を、《生体反応分析》は生体反応を表示するのだ。
地形図の一カ所にいくつもの生体反応が表示されていた。
そして巨木の近くに1体の生体反応がある。
それ以外は何もない。
不思議な分布だ。
これを見る限り、通常の森のように魔物は存在していないのだろう。
このいくつもある生体反応が全て魔物なら話は別だが……どうだろうな。
俺はこの《生体反応分析》の結果から、目的地を巨木から、このいくつも生体反応があった場所に変更した。
『ファフニール、目的地を変更するよ。付いて来てくれる?』
『分かったぞ。それとわざわざ伝えなくとも我はノアに黙ってついてゆくぞ』
『はは、ありがとね。ファフニール』
森の中を駆ける。
風の音、動物の鳴き声、それらが何もない。
地面を蹴る音しか聞こえないこの森は不気味に思えた。
目的地に到着すると、小さな木の家があった。
人形が暮らしているかのようなサイズ感で、あまりにも場違いだ。
『だ、誰……ですか……?』
声が聞こえた。
高い声で今まで聞いてきた言語のどれにも当てはまらない。
それでもなにを言っているのか、分かった。
視界をズラして、声の主を見ると、背中に羽根を生やした小人の女の子だった。
羽根を動かして、パタパタと宙に浮かんでいる。
その姿は書物で見た妖精の容姿に一致していた。
手には小さな木の実を持っていたが、その身体にはとてもマッチしていて、重そうに抱えていた。
『うーん、人間って言えばいいのかな?』
『……えっ、えっ? ど、どうして私たちの言葉が分かるんですか!? 人間とは言語が違うのに……』
『うん、なんかそういう才能があるみたいでね。逆に言えば、それしか才能がないんだけど』
『そ、そうなんですね。そ、それでどうしてこんなところに……? もしかして、何かまた酷いことをしにきたのでしょうか……?』
『酷いこと?』
『と、とぼけないでください……! 私たちの仲間を連れていって、一体何をしているんですか……? お願いですから、もう止めてください……!』
小人は瞳から涙を流した。
話を聞く限り、彼女は間違いなく妖精だろう。
ならば、どうしてこんなところに?
とにかく、まずはこの少女を落ち着かせることが先決だ。
『信じられないかもしれないけど、俺は君たちを助けに来たんだ。酷く怯えているようだけど、それは闇の精霊が関係しているのかな?』
『し、知っているんですか?』
『詳しくは知らないけど、名前だけは少しね』
『そうなんですね……』
警戒は少し緩んだようだけど、まだ信じきれていない様子だ。
とりあえず、木の実を運んでいるのが凄く重そうだから足下に手のひらを置いてあげた。
『ひっ……!』
『あ、ごめん。驚かせちゃったかな? 重そうだったから運ぶのを手伝ってあげようと思って』
『……あ、ありがとうございます』
妖精はしばらく俺をじーっと見つめた後に、手のひらの上に乗った。
『どこまで運べば良いのかな?』
『そ、そこの家まで……』
『分かったよ』
そう言って俺は、ゆっくりと移動して手のひらを家の扉の前まで持って行った。
妖精は降りて、家の前に木の実を一度置き、扉を開けようとドアノブに手を置いた。
しかし、そこで妖精は立ち止まり、俺の方を振り向いた。
『……あの、本当に私達を助けてくれるんですか?』
『もちろん。何をすれば助けてあげられる?』
『──森の先に見える巨木の根元に、此処を守るゴーレムがいるんです。
巨木の根元にある場所に行けば、ここから抜け出せるんですけど、そのゴーレムが阻止してきて、ここから抜け出せないんです。
お願いします……あのゴーレムを……倒してください……』
妖精は地面に崩れて、泣きながら懇願した。
その涙は、この妖精達が悲惨な状況下に晒されていたことを物語っているように感じられた。
……闇の精霊は一体何が目的なんだ?
『分かったよ、そのゴーレム必ず倒してくるから。待ってて』
俺は妖精の頭を優しく人差し指でなでてあげた。
そして、妖精からの情報を聞いて、この空間がどの古代魔法によって作成されたのか完全に把握出来た。
此処は──《傀儡(くぐつ)の箱庭》だ。
視界の先には一本の巨木があった。
巨木の枝葉がこの辺り一面の空を覆っていた。
木漏れ日が地面を照らしている。
……木漏れ日?
さっきいた場所は夜だったが、この場所は日中になるのか?
大幅に時間帯が変わるほどの長距離を空間移動しているのだろうか。
『ノア、見てみろ。ここは思ったより狭いようだぞ』
ファフニールの声が背後からした。
振り向くと、後方は針葉樹が隙間なく植えられていた。
自然のものでも人為的に植えられたものでもないと直感した。
これは──。
『結界が展開されているみたいだね』
『うむ。この空間自体がどこか魔力を帯びているように感じるな』
『その通りだと思うよ。言うなればここは箱庭だ。《次元の狭間》で空間移動した先は、別次元に作られた空間そのものだね』
こういった空間を作成する古代魔法はいくつか存在する。
それがなんなのか、特定するには情報が足りない。
この日差しも実在するものではなく、誰かによって作られた魔法だろう。
『とりあえず前に進んでみようか。情報を得るためにこの空間内の探索をする必要性があるようだから』
『うむ』
まずは、あの巨木の根元に向かって進むことにした。
前方に進んでいくと、森があった。
地理的環境を考えると、この森を抜ければ巨木に到着する。
ただ、まずはこの森について調べていこう。
「《生体反応分析》」
これは《素材探索》と似ていて、魔力の波動を流して周囲の状況を分析する古代魔法だ。
目を閉じると、周囲の地形図が映し出される。
古代魔法は論理的に術式を構成する魔法なので、似たような性質の魔法が結構多い。
周囲の地形図には生体反応が表示される。
《素材探索》は価値のある素材を、《生体反応分析》は生体反応を表示するのだ。
地形図の一カ所にいくつもの生体反応が表示されていた。
そして巨木の近くに1体の生体反応がある。
それ以外は何もない。
不思議な分布だ。
これを見る限り、通常の森のように魔物は存在していないのだろう。
このいくつもある生体反応が全て魔物なら話は別だが……どうだろうな。
俺はこの《生体反応分析》の結果から、目的地を巨木から、このいくつも生体反応があった場所に変更した。
『ファフニール、目的地を変更するよ。付いて来てくれる?』
『分かったぞ。それとわざわざ伝えなくとも我はノアに黙ってついてゆくぞ』
『はは、ありがとね。ファフニール』
森の中を駆ける。
風の音、動物の鳴き声、それらが何もない。
地面を蹴る音しか聞こえないこの森は不気味に思えた。
目的地に到着すると、小さな木の家があった。
人形が暮らしているかのようなサイズ感で、あまりにも場違いだ。
『だ、誰……ですか……?』
声が聞こえた。
高い声で今まで聞いてきた言語のどれにも当てはまらない。
それでもなにを言っているのか、分かった。
視界をズラして、声の主を見ると、背中に羽根を生やした小人の女の子だった。
羽根を動かして、パタパタと宙に浮かんでいる。
その姿は書物で見た妖精の容姿に一致していた。
手には小さな木の実を持っていたが、その身体にはとてもマッチしていて、重そうに抱えていた。
『うーん、人間って言えばいいのかな?』
『……えっ、えっ? ど、どうして私たちの言葉が分かるんですか!? 人間とは言語が違うのに……』
『うん、なんかそういう才能があるみたいでね。逆に言えば、それしか才能がないんだけど』
『そ、そうなんですね。そ、それでどうしてこんなところに……? もしかして、何かまた酷いことをしにきたのでしょうか……?』
『酷いこと?』
『と、とぼけないでください……! 私たちの仲間を連れていって、一体何をしているんですか……? お願いですから、もう止めてください……!』
小人は瞳から涙を流した。
話を聞く限り、彼女は間違いなく妖精だろう。
ならば、どうしてこんなところに?
とにかく、まずはこの少女を落ち着かせることが先決だ。
『信じられないかもしれないけど、俺は君たちを助けに来たんだ。酷く怯えているようだけど、それは闇の精霊が関係しているのかな?』
『し、知っているんですか?』
『詳しくは知らないけど、名前だけは少しね』
『そうなんですね……』
警戒は少し緩んだようだけど、まだ信じきれていない様子だ。
とりあえず、木の実を運んでいるのが凄く重そうだから足下に手のひらを置いてあげた。
『ひっ……!』
『あ、ごめん。驚かせちゃったかな? 重そうだったから運ぶのを手伝ってあげようと思って』
『……あ、ありがとうございます』
妖精はしばらく俺をじーっと見つめた後に、手のひらの上に乗った。
『どこまで運べば良いのかな?』
『そ、そこの家まで……』
『分かったよ』
そう言って俺は、ゆっくりと移動して手のひらを家の扉の前まで持って行った。
妖精は降りて、家の前に木の実を一度置き、扉を開けようとドアノブに手を置いた。
しかし、そこで妖精は立ち止まり、俺の方を振り向いた。
『……あの、本当に私達を助けてくれるんですか?』
『もちろん。何をすれば助けてあげられる?』
『──森の先に見える巨木の根元に、此処を守るゴーレムがいるんです。
巨木の根元にある場所に行けば、ここから抜け出せるんですけど、そのゴーレムが阻止してきて、ここから抜け出せないんです。
お願いします……あのゴーレムを……倒してください……』
妖精は地面に崩れて、泣きながら懇願した。
その涙は、この妖精達が悲惨な状況下に晒されていたことを物語っているように感じられた。
……闇の精霊は一体何が目的なんだ?
『分かったよ、そのゴーレム必ず倒してくるから。待ってて』
俺は妖精の頭を優しく人差し指でなでてあげた。
そして、妖精からの情報を聞いて、この空間がどの古代魔法によって作成されたのか完全に把握出来た。
此処は──《傀儡(くぐつ)の箱庭》だ。
0
お気に入りに追加
2,085
あなたにおすすめの小説
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で
ハーーナ殿下
ファンタジー
鍛冶師ハルクは幼い時から、道具作りが好きな青年。だが独裁的な国王によって、不本意な戦争武器ばかり作らされてきた。
そんなある日、ハルクは国王によって国外追放されてしまう。自分の力不足をなげきつつ、生きていくために隣の小国で冒険者になる。だが多くの冒険者が「生産職のクセに冒険者とか、馬鹿か!」と嘲笑してきた。
しかし人々は知らなかった。実はハルクが地上でただ一人《鍛冶女神の加護》を有することを。彼が真心込めて作り出す道具と武具は地味だが、全て《超伝説級》に仕上がる秘密を。それを知らずに追放した独裁王国は衰退していく。
これはモノ作りが好きな純粋な青年が、色んな人たちを助けて認められ、《超伝説級》武具道具で活躍していく物語である。「えっ…聖剣? いえ、これは普通の短剣ですが、どうかしましたか?」

神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。
ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。
高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。
そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。
そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。
弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。
※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。
※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。
Hotランキング 1位
ファンタジーランキング 1位
人気ランキング 2位
100000Pt達成!!

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる