もう興味ないの

よこすかなみ

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いつまでも変わらないわけないじゃない

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 私の人生で初めてにして最大の愛の告白は随分とこっぴどく終わりを告げた。
 中学生の頃、映画の趣味が合う男の子に、私はいとも簡単に恋をした。話していて楽しい、もっと一緒にいたい、と幼いながらに心に秘めた。
 卒業式の日。たまたま近くに誰もいない状況で二人きりになれた。元々友達として仲は良かったので、卒業かぁ、なんて当たり障りのないことを言い合う最中、私は意を決して彼に思いを告げたのだ。
 それに対する返答は思春期の女の子にとってはたいそう酷いものだった。
「俺、ブスとは付き合えないんだよね」
 お前のことは良い友達だと思ってるよ、とだけ言い残して彼は去った。私はその場で泣いた。私が醜いから、彼に振り向いてもらえなかった。彼の言葉は呪いとなり、私を絞めつけ、蝕んだ。止まらない涙と共に決意を胸に燃やして。
 絶対に可愛くなって見返してやる……!

 私は変わった。まずは己を知ることから。自分の体のどこが可愛くなくてどうすれば可愛くなるのか、穴があくほど鏡とにらめっこした。
 最初は体型の改善からということで、ダイエットを始めた。ネットで徹底的にダイエット方法や知識を蓄え、信憑性や効果がどうあれまずはやってみる。続けられそうだったら続けてみる。できないことはやらない。食事制限、有酸素運動、無酸素運動。続けられることを第一に無理だけはしないと決めていた。流石に生理が止まった時は慌てて食事を摂ったけれど。
 次にメイク。ブスと言われたからには黙っていられない。世の中には安くて良い化粧品が沢山出ていて、技術次第でいくらでも可愛くなれると証明して見せるんだ。動画サイトでメイク動画を漁り、持っていないもの今手元にあるもので代用できるもの、正直学生でお金がなかったので、お母さんをなんとか説得しながらメイク道具を揃えていった。道具が揃ったところでメイクがうまくなるわけじゃない。夜な夜なアイラインやアイブロウをひく練習に明け暮れ、肌に合うベースメイクを見つけ、学校でバレないよう盛れるナチュラルメイクを研究した。
 そして中学卒業後に入学した高校では、努力の甲斐あってか、月に三人のペースで告白されるまでになっていた。街を歩いていて、あの子可愛い、と男の子の集団に指をさされたこともあった。
 見た目の変化だけで男子たちの扱いはこうも違うのか、と愕然としたと同時にがっかりしてしまった。言葉遣いも趣味も、中身はあの頃と何も変わっていなかったからだ。

 そしてまた月日は過ぎ、私は大学生になった。
 今日は授業がない平日の午前中、私は地元の映画館に一人で来ていた。この時間帯は比較的に人が少ないので、映画館での人の笑い声が苦手な私にとってはベストタイミングだった。
 人気のない発券機の前で、お目当ての映画のチケットにお金を払おうと財布をカバンから取り出していると、
「……もしかして木原?」
 男の人に後ろから声をかけられた。
 名前を呼ばれ、反射的に振り返ると、中学時代に私をとても酷いセリフで振ったあいつが、大学生の姿になって、片手を上げて立っていた。
「やっぱり木原だ!なに?お前もこの映画今から観るの?」
 私の顔を確認すると、パタパタと駆け寄ってきて、馴れ馴れしくも購入ボタンを押しかけの発券機の画面を覗き込んだ。
 地元の映画館で同じ映画趣味の中学の同級生とばったり出くわすのは、それはまあ自然なことではあった。
 しかし彼は当時私に対して何と言い放ったのか覚えていないのだろうか。私にとっては重く深い傷になり、今も傷口がグジュグジュと痛むというのに。
 彼は過去なんて何もなかったかのように、映画のワンシーンみたいに、昔の仲の良かった同級生として久しぶりじゃん、元気だった?などと揚々と話していた。
「この映画、俺も観るところなんだ。一緒に観ようぜ」
 俺奢るし、と頬を少し赤く染めながら誘ってくる彼を見て、幼い私と彼との会話を思い出した。どんなに仲良しでも映画は一人で観たいよね、と意見が一致したあの頃の会話だ。
 彼はポリシーが変わったのか、それとも、ポリシーを変えてでも見た目が変わった私と一緒に映画が観たいのだろうか。
「……木原?」
 ずっと黙ったまま何も言わない私に彼が不安そうな顔でこちらを見つめていた。
 その時、私は確信した。
 高校生の頃から、私が変わったあの日から、私は沢山の男の子にアプローチを受けてきた。デートにも誘われた。告白もされた。そんな彼らと同じ土俵に、今彼は立っている。

 ……やっと彼が私に振り向いてくれた。
 
 嬉しくてたまらなかった。
 中学生の私が大好きだった彼が、私を気になっている。映画代を奢った上に、あわよくば私をデートに誘おうという空気がビシバシ伝わってくる。経験上、断られるリスクの低い軽いお誘いの後は、これからご飯でも、とデートに誘導されるのはよくあることだった。それを彼がやろうとしていることが分かって、あの頃の私がようやく報われたと思った。
 だから私は、自分の持てる最大限の可愛さを放つべく、とびっきりの笑顔でこう言った。

「どちら様ですか?」

 ってね。



終わり
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