上 下
5 / 13

しおりを挟む
 ……た、祟る?
 祟りって……神様に祟られるとか、罰当たりとかの、あの祟り?
「あの……言ってる意味がよく……」
 聞き返すと、沙耶さんはわっと一気に喋り出した。
「だから! 三咲を祟りたいの! 今までいろんなおまじないとか試してみたけど、全然効果なかったのよ! 三咲を知ってて、しかも幽霊に協力してもらえたら、確実だと思わない!?」
「おまじない……とは……?」
「ノートに名前たくさん書いたり、お守り作ったり、よ。あとは……」
 あ。
 オレの中で、沙耶さんから、心が一歩引いていくのがわかる。
 この人、ちょっと痛い人だ。
「もう、大丈夫です……」
「そう? 他にもあるんだけれど」
 指折り数えながら実践してきたおまじないを思い出す沙耶さんに、ストップをかけた。
 空を見ると、目が合った。空もちょっと複雑そうにしている。
 ……同じこと考えてたな、こりゃ。
 幽霊が見えているオレが、おまじないを否定するのも、なんだかおかしい話だけれども。
 祟るとか、おまじないとか──ちょっと行き過ぎちゃった占い、って感じだろう。
「どう? 手伝ってくれないかしら?」
「いや、さすがに、お世話になってる先輩にそんなことは……」
 占いもおまじないも信じていないオレだけれども、割と仲良しなほうの先輩に向ける祟りを手伝うっていうのは、二つ返事で了承できることじゃない。
 ブンブンと両手と頭を横に振って、拒絶の意思を示すオレに、沙耶さんはぷくっと頬を膨らませた。
 ……そんなかわいい顔したって、無理なものは無理だって……!
「わたしには、空くんが成仏する方法わかるんだけどなー?」
 チラ、チラ、と視線を寄越してくる沙耶さん。
 空が成仏する方法って……。
「それって、オレがスタメンになる以外の方法ってことですか?」
「協力してくれるなら教えてあげなくもないわよ」
 え、えぇ~……?
 予想外の交換条件に、オレは即決できずに、困ってしまう。
 三咲先輩を祟る手伝いをする代わりに、空を早く成仏させることができる──ってことだよな?
 ……空はどうなんだろう?
 そこまでして、早く成仏したいのかな?
「空……」
『…………』
 顔を見ただけで分かった。
 こいつ、沙耶さんのこと、めちゃくちゃ疑ってるわ……。
 早く成仏するしないの問題以前に、沙耶さんを信用していいかどうかを悩んでいるようだった。
 オレが決めるしかないか……。
「どうしてそこまでして、三咲先輩を祟り? たいんですか?」
「…………」
 沙耶さんは目を泳がせる。一呼吸置いて「話したほうがいいわよね……」と、自分を納得させるように、つぶやいた。
「あいつは、三咲は──わたしを裏切ったのよ」
「『裏切った?』」
 空とハモって聞き返してしまった。
「絶対に来るって……何があっても絶対に来てくれるって、約束したのに──三咲は来なかったの」
 ぎゅ、と拳を強く握りしめる沙耶さん。
 会うって約束したのに来てくれなかったって……デートをドタキャンされたってことか?
「……沙耶さんって、三咲先輩と付き合ってたんですか?」
「そんなんじゃないわよ!!」
 ものすごい剣幕で怒られた。
 否定する割には、顔赤くなってるし……恋人だったけど、三咲先輩に振られたとか?
 それなら、約束を破った元カレをちょっと懲らしめたい、なんて気持ちもわからなくもない。
「付き合ってるとか、そんなんじゃなくて……!」
 沙耶さんは、わたわたと言い訳を取りつくろっている。
 ……待てよ?
 三咲先輩とは、もう過去の人っぽいし、めちゃくちゃ大変な思いをさせたいわけでもないっぽいし──ちょっとした祟りとやらに協力すれば、このあと、沙耶さんといい関係になれたりして……!?
『三咲先輩はイケメンなんだから、陸とは天と地ほどの差があるよ』
「う、うるせ~な~!」
 じと~とした目で、空がオレを見ていた。
 何も言ってないのに、考えていることを読まれた……!
 これだから、双子って面倒なんだ……!
「とにかく、三咲の邪魔をしたいの! 協力してくれない!?」
 沙耶さんはオレの襟首をつかんで、ぐいぐいと前後に揺さぶった。
「わ、わわ、わかりました! そんなにひどいことじゃないなら、協力しますから!」
「本当!? ありがとう!」
 もう月も出ている時間だというのに、沙耶さんの笑顔は、とても眩しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天境のナイチンゲール

秋澤えで
児童書・童話
兄さん、兄さん、こんな天国の島と地上の境で何してるんだい?兄さんみたいないい人そうなのは天国の島へと行けるだろう?……なるほど、泣くことができないのか、それはよくない。涙は神様からの贈り物だ。それじゃあ一つこのナイチンゲールが兄さんから涙をいただこう。可哀想で滑稽で憐れな話だ。どんな人でなしでも咽び泣く!まあ誰にもまだ話したことのないことだけど。まあいいや、一つ聞いてくれないか。たった一人で墓地にいる、幼い墓守の話さ――――

知ったかぶりのヤマネコと森の落としもの

あしたてレナ
児童書・童話
ある日、森で見つけた落としもの。 動物たちはそれがだれの落としものなのか話し合います。 さまざまな意見が出ましたが、きっとそれはお星さまの落としもの。 知ったかぶりのヤマネコとこわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシが、困難に立ち向かいながら星の元へと落としものをとどける旅に出ます。 全9話。 ※初めての児童文学となりますゆえ、温かく見守っていただけましたら幸いです。

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

旦那様、不倫を後悔させてあげますわ。

りり
恋愛
私、山本莉子は夫である圭介と幸せに暮らしていた。 しかし、結婚して5年。かれは、結婚する前から不倫をしていたことが判明。 しかも、6人。6人とも彼が既婚者であることは知らず、彼女たちを呼んだ結果彼女たちと一緒に圭介に復讐をすることにした。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

しずかのうみで

村井なお
児童書・童話
小学五年生の双子姉弟がつむぐ神道系ファンタジー。 春休みの始まる前の日、息長しずかは神気を見る力に目覚めた。 しずかは双子の弟・のどかと二人、琵琶湖のほとりに立つ姫神神社へと連れて行かれる。 そして叔母・息長みちるのもと、二人は神仕えとしての修行を始めることになるのだった。

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

処理中です...