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図書室、図書館といった類の場所は、ここ一年間避けてきた──空が交通事故に遭ったのが、図書館に行く途中の出来事だったから。
思い出してしまうのが、あまり気持ちがいいものではなかったのだ。
なにより、オレと行動を共にする空もいい気分はしないんじゃないか──と、思っていたんだけど。
オレはチラリと、横目で隣を歩く空を見る。
『だからー、どうして陸はそう、簡単に頼み事を引き受けちゃうかな!?』
図書室へ向かう途中、空はプンプンと小言を重ねていた。
……当の本人だって言うのに、気にしてないのか。
ちょっとムッとするような、ホッとしたような。
オレの気遣いを返せってーの。
「いいじゃねぇか。みんなに褒められて、悪い気はしないっていうか」
『それが利用されてるって、言ってんのさ。いい加減、おだてられてるってことに気づきなよ』
「はいはい。さっさと本返して、帰ろうぜ」
図書室の扉を開ける。下校時刻が迫っているのもあって、図書室に人はほとんどいなかった。机に向かって、勉強をしている高校三年生が数人いるくらいだ。
「返却お願いします」
入口のすぐ横には受付があり、図書委員らしき生徒が席についていた。
監督が借りたらしい本をテーブルに置くと、受付担当の図書委員の人が立ち上がった。
「確認しますね。ちょっと、待っててください」
言われて、ふぅ、と肩の力が抜けるのを感じた。
とりあえず、頼まれたことを、ちゃんと達成できてよかった。
「……ねぇ、きみ、ちょっといいかしら?」
「はい?」
声をかけられて、振り返る──立っていたのは、知らない女子生徒だった。
肩にかかるくらいの長さの髪に、優しそうなタレ目。右目の下にほくろがあるのが、印象的だ。
一言で言うと──
「か、かわいい……」
「え?」
思わず口から漏れた感想に、見知らぬ美少女が聞き取れなかったと言いたげに聞き返してくる。
彼女は、オレの声をきちんと聞こうと、ずい、と顔を近づけてくる。距離を詰められて、オレは思わず一歩あとずさる。
まつ毛、なが……! 目、でか……!
『なに見惚れてんのさ』
空が呆れたように言ってきても、言い返す余裕はない。
「すみません、確認終わったので、もう大丈夫ですよ」
「あ、はい! ありがとうございます!」
背後からかけられた受付の人の声で我に返り、自分の想定以上のボリュームが口から飛び出てしまう。
彼女は、慌てるオレを見てくすくすと笑った。
「しーっ、ダメだよ? 図書室では静かにしなきゃ」
と言って、彼女は人差し指を唇に当てる。一つ一つの仕草に、心臓がドキドキしてしまう。
何してもかわいいな……!?
『陸、何の用か聞かなきゃ』
そ、そうだ。
この美少女は、いったい、オレに何の用なんだ……?
オレが口を開く前に、彼女はくるりと図書室の出入り口へ体を向けた。
「ここじゃなんだから、お外で話しましょ?」
そう言って、スタスタと歩いていく。
そこで初めて、勉強していたはずの先輩たちから、居心地の悪い視線を浴びていることに気づいた。
やっべ……!
図書室から逃げ出すように、オレは彼女の背中を追いかけた。
思い出してしまうのが、あまり気持ちがいいものではなかったのだ。
なにより、オレと行動を共にする空もいい気分はしないんじゃないか──と、思っていたんだけど。
オレはチラリと、横目で隣を歩く空を見る。
『だからー、どうして陸はそう、簡単に頼み事を引き受けちゃうかな!?』
図書室へ向かう途中、空はプンプンと小言を重ねていた。
……当の本人だって言うのに、気にしてないのか。
ちょっとムッとするような、ホッとしたような。
オレの気遣いを返せってーの。
「いいじゃねぇか。みんなに褒められて、悪い気はしないっていうか」
『それが利用されてるって、言ってんのさ。いい加減、おだてられてるってことに気づきなよ』
「はいはい。さっさと本返して、帰ろうぜ」
図書室の扉を開ける。下校時刻が迫っているのもあって、図書室に人はほとんどいなかった。机に向かって、勉強をしている高校三年生が数人いるくらいだ。
「返却お願いします」
入口のすぐ横には受付があり、図書委員らしき生徒が席についていた。
監督が借りたらしい本をテーブルに置くと、受付担当の図書委員の人が立ち上がった。
「確認しますね。ちょっと、待っててください」
言われて、ふぅ、と肩の力が抜けるのを感じた。
とりあえず、頼まれたことを、ちゃんと達成できてよかった。
「……ねぇ、きみ、ちょっといいかしら?」
「はい?」
声をかけられて、振り返る──立っていたのは、知らない女子生徒だった。
肩にかかるくらいの長さの髪に、優しそうなタレ目。右目の下にほくろがあるのが、印象的だ。
一言で言うと──
「か、かわいい……」
「え?」
思わず口から漏れた感想に、見知らぬ美少女が聞き取れなかったと言いたげに聞き返してくる。
彼女は、オレの声をきちんと聞こうと、ずい、と顔を近づけてくる。距離を詰められて、オレは思わず一歩あとずさる。
まつ毛、なが……! 目、でか……!
『なに見惚れてんのさ』
空が呆れたように言ってきても、言い返す余裕はない。
「すみません、確認終わったので、もう大丈夫ですよ」
「あ、はい! ありがとうございます!」
背後からかけられた受付の人の声で我に返り、自分の想定以上のボリュームが口から飛び出てしまう。
彼女は、慌てるオレを見てくすくすと笑った。
「しーっ、ダメだよ? 図書室では静かにしなきゃ」
と言って、彼女は人差し指を唇に当てる。一つ一つの仕草に、心臓がドキドキしてしまう。
何してもかわいいな……!?
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そ、そうだ。
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オレが口を開く前に、彼女はくるりと図書室の出入り口へ体を向けた。
「ここじゃなんだから、お外で話しましょ?」
そう言って、スタスタと歩いていく。
そこで初めて、勉強していたはずの先輩たちから、居心地の悪い視線を浴びていることに気づいた。
やっべ……!
図書室から逃げ出すように、オレは彼女の背中を追いかけた。
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