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23 ぼくに、才能はありますか?

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 西棟の三階、隅に位置している空き教室。
 外からは、活動しているかどうかもよくわからない。
 走ったせいで弾んだ息を整えて、深呼吸を一回。
 扉をノックした。
「ごめんください、占い師さん」
 数秒の沈黙。
「どうぞ」
 落ち着いた声がした。
 みのるくんじゃなくて、サツキくんだ。
 扉を開ける。
 初めて来たときから変わらない、シンプルな部屋。
 教室の中央に置かれたテーブルを挟んで、女子生徒用のセーラー服をしたサツキくんが座っている。
 その横には、無念にも、これまたセーラー服を着させられたみのるくんが立っていた。
 ツインテールのカツラがやけに似合っている――占いをするのに、女装が似合わなければならないという条件でもあるのかなって疑いたくなるくらい、似合っていた。
「如月くん」
 サツキくんはぼくの姿を見ても、特にリアクションはしなかった。
 びっくりした様子も喜んだ様子もない。
 ──まるで、ぼくが部室に戻ってくるのが、最初から分かっていたみたいに。
 みのるくんはというと、
「如月……? 如月ちゃんと同じ名前なんだ。珍しいね」
 どうやら、名前を聞いても如月ちゃん=ぼくとはならなかったらしい。
 自身の女装をあまり気にしていないみのるくんを置いて、ぼくはサツキくんと机を挟んで正面に置かれた椅子に座る。
「占う前に、誰かの秘密をどうぞ」
 ロングヘアのサツキくんにうながされ、ぼくは答える。
「……三年生のサツキ先輩が、女装をして占いをしているんですが……これを、SNSで拡散しようと思い」
「分かりました、占いましょう」
 サツキくんはぼくが全部言い切る前に、占いをしてくれるとさえぎった。
 ……ごめんね、サツキくん。
 ずるい手口だとは思う。
 サツキくんが占い活動を内緒にしているのを知っておいて、それをバラすと脅しているのだから。
 ──でも、そうまでしても、聞きたいことが、ぼくにはあるんだ。
「お悩みは何ですか?」
 サツキくんが問いかける。
 ぼくは姿勢を正した。

「ぼくに、才能はありますか?」

 色んな人に言われても、唯一、ぼくだけが認められなかった、ぼく自身の才能。
 サツキくんは目を閉じて、ゆっくりうなずいた。
「人に優しくできる才能があります。サッカー部のマネージャーなんて、向いてますよ」
 サッカー部のマネージャー……。
 ぼくがサッカー部のマネージャーになるのを望んでいるのは弥生くんだ。
 ぼくの欲しい言葉はそれじゃない。
 きっと、サツキくんもわかっていて、イジワルをしている。
 もっと、ちゃんと自分の気持ちを言葉にしろ、と──そう言われている気がした。
「……言い方を変えます」
 何もないぼくを必要としてくれた場所に、ぼくは、本当にふさわしいのだろうか。
「ぼくに、占いの才能はありますか?」
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