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16 運命は決まってない
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「なんでもいいから、さっさとしろ」
相談者である彼女がそう言うなら、ぼくたちはもう何も言えない。
ぼくは部屋の隅に畳んで並べてある椅子の山から二つ持ってくる。みのるくんがお礼を言いながらその一つを受け取った。
「……では、占いの前に誰かの秘密を教えてください」
その先輩は、ぼくの知らない男子の名前を告げた後、その人が昨日コンビニで万引きしていたと言った。
……犯罪じゃないか!
犯罪の秘密を受けても、サツキくんは態度を変えない。
「……ありがとうございます。それでは、お悩みをお聞きしましょう」
「一年の妹が、三年の森下(もりした)って男に片想いしているんだが……この恋は成就するか?」
内容は、本人ではなく、妹さんの相談。
「妹には、絶対に幸せになってもらいたいんだ。どうなんだ? あたしにできることはあるのか?」
みのるくんが水晶玉を掲げて、相談者の先輩を透かして視る。
水晶玉越し人を視ることで、その人の過去と未来が視えると言っていたけれど、本人じゃない場合はどうなんだろうか。
このお姉さんが、妹さんから彼氏の話を聞いている未来が視えるとか?
「すみませんが、引き受けられません」
サツキくんが深々と頭を下げた。
バアン!
「なんでだよ!」
相談者がテーブルを両手で叩いた。
大きな音に、思わず肩が跳ねる。
サツキくんは涼しい表情のままだ。
「ご本人以外の、第三者からの占いはできないんです」
そんな決まりがあったのか。知らなかった。
「――じゃあ、オレの占い結果を伝えますよ」
初めて知ったルールにおどろくぼくをよそに、みのるくんが水晶玉をズボンのポケットにしまいながら、しゃしゃり出てきた。
「妹さんはね、その片想いしている三年生の、三番目の彼女でいいなら付き合えますよ」
「おい!」
サツキくんが珍しく声を荒げる。
こんなに感情を乱すサツキくんは初めてだ。
しかし、相談者の先輩女子は、みのるくんから目を離さない。
「三番目……だと?」
いぶかしむ彼女に、みのるくんは続ける。
「そ。その彼、今絶賛二股中だから」
Vサインをした右手をひらひらと振るみのるくん。
「そうか……。妹の好きなやつは、二股してんのか…………」
彼女は考え込むように、親指の爪を噛む。
ぼくはみのるくんに感心してしまった。
水晶玉だけでそんなことまで分かるのか。
とはいえ、全校生徒の情報を頭に叩き込んでいるサツキくんなら、その三年生の……森下先輩の恋愛事情まで知っていそうなものだけれど。
「…………ありがとな」
相談者は立ち上がる。
やって来たときとは違って、静かに部室から出て行った。
「…………」
「うわっ!?」
ガタッと大きな音を立てて、みのるくんの座っていた椅子が床を転がる。
サツキくんがみのるくんに近づき、彼の胸ぐらをつかんで持ち上げたのだ。
「サツキくん!?」
一触即発の空気にぼくは仰天した。
「本人でもない相談者に、余計なことを言うな」
みのるくんより身長の低いサツキくんは、下から見上げる形で睨みつけていた。
みのるくんはその視線を受けてなお、余裕の笑みを崩さない。
「本当のことを教えるべきだろ、占い師なら」
みのるくんがサツキくんの手を振り払う。
「運命は変えられないんだ。だったら、それを早く知って備えるに越したことはない」
……確かに。
みのるくんの言い分も、もっともだと思った。
結末を先に知ることができる彼なら、その考え方にも説得力が出てくる。
しかし、占いができないサツキくんは、それでも真っ向から言い返した。
「運命は決まってない」
「……!」
サツキくんの反論が予想外だったのか、みのるくんの表情がわずかに曇った。
「キミの視える結果が運命だとしても、それは努力でいくらでも変えられる未来だ。キミが水晶玉に視ているのは、たくさんある結末の一つに過ぎない」
「……どんなに努力しても、変えられない運命だってある」
みのるくんはそう言うと、ぼくの手をつかんだ。
「えっ」
「ちょっと来て」
そのまま部室の外に連行される。
ぼくはわけも分からず、引っ張られるまま、みのるくんについていった。
相談者である彼女がそう言うなら、ぼくたちはもう何も言えない。
ぼくは部屋の隅に畳んで並べてある椅子の山から二つ持ってくる。みのるくんがお礼を言いながらその一つを受け取った。
「……では、占いの前に誰かの秘密を教えてください」
その先輩は、ぼくの知らない男子の名前を告げた後、その人が昨日コンビニで万引きしていたと言った。
……犯罪じゃないか!
犯罪の秘密を受けても、サツキくんは態度を変えない。
「……ありがとうございます。それでは、お悩みをお聞きしましょう」
「一年の妹が、三年の森下(もりした)って男に片想いしているんだが……この恋は成就するか?」
内容は、本人ではなく、妹さんの相談。
「妹には、絶対に幸せになってもらいたいんだ。どうなんだ? あたしにできることはあるのか?」
みのるくんが水晶玉を掲げて、相談者の先輩を透かして視る。
水晶玉越し人を視ることで、その人の過去と未来が視えると言っていたけれど、本人じゃない場合はどうなんだろうか。
このお姉さんが、妹さんから彼氏の話を聞いている未来が視えるとか?
「すみませんが、引き受けられません」
サツキくんが深々と頭を下げた。
バアン!
「なんでだよ!」
相談者がテーブルを両手で叩いた。
大きな音に、思わず肩が跳ねる。
サツキくんは涼しい表情のままだ。
「ご本人以外の、第三者からの占いはできないんです」
そんな決まりがあったのか。知らなかった。
「――じゃあ、オレの占い結果を伝えますよ」
初めて知ったルールにおどろくぼくをよそに、みのるくんが水晶玉をズボンのポケットにしまいながら、しゃしゃり出てきた。
「妹さんはね、その片想いしている三年生の、三番目の彼女でいいなら付き合えますよ」
「おい!」
サツキくんが珍しく声を荒げる。
こんなに感情を乱すサツキくんは初めてだ。
しかし、相談者の先輩女子は、みのるくんから目を離さない。
「三番目……だと?」
いぶかしむ彼女に、みのるくんは続ける。
「そ。その彼、今絶賛二股中だから」
Vサインをした右手をひらひらと振るみのるくん。
「そうか……。妹の好きなやつは、二股してんのか…………」
彼女は考え込むように、親指の爪を噛む。
ぼくはみのるくんに感心してしまった。
水晶玉だけでそんなことまで分かるのか。
とはいえ、全校生徒の情報を頭に叩き込んでいるサツキくんなら、その三年生の……森下先輩の恋愛事情まで知っていそうなものだけれど。
「…………ありがとな」
相談者は立ち上がる。
やって来たときとは違って、静かに部室から出て行った。
「…………」
「うわっ!?」
ガタッと大きな音を立てて、みのるくんの座っていた椅子が床を転がる。
サツキくんがみのるくんに近づき、彼の胸ぐらをつかんで持ち上げたのだ。
「サツキくん!?」
一触即発の空気にぼくは仰天した。
「本人でもない相談者に、余計なことを言うな」
みのるくんより身長の低いサツキくんは、下から見上げる形で睨みつけていた。
みのるくんはその視線を受けてなお、余裕の笑みを崩さない。
「本当のことを教えるべきだろ、占い師なら」
みのるくんがサツキくんの手を振り払う。
「運命は変えられないんだ。だったら、それを早く知って備えるに越したことはない」
……確かに。
みのるくんの言い分も、もっともだと思った。
結末を先に知ることができる彼なら、その考え方にも説得力が出てくる。
しかし、占いができないサツキくんは、それでも真っ向から言い返した。
「運命は決まってない」
「……!」
サツキくんの反論が予想外だったのか、みのるくんの表情がわずかに曇った。
「キミの視える結果が運命だとしても、それは努力でいくらでも変えられる未来だ。キミが水晶玉に視ているのは、たくさんある結末の一つに過ぎない」
「……どんなに努力しても、変えられない運命だってある」
みのるくんはそう言うと、ぼくの手をつかんだ。
「えっ」
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