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「えっと、そろそろ見てみる。」
そう突然聞かれて僕は何のことだかよくわからなかった。ギターの練習を続けて、指もそろそろ冷えてきたからと、片づけて一緒にまたお弁当でも突こうかなと、そんな事を考えている時に聞かれたのだけど。
「あ、忘れてる。星雲、みるって。」
言われてようやく思い出した。
昨日の帰り際、そんな事を言って別れたし。ここに来る前にも、祖母にそんな話をしたはずだ。すっかり手紙とそれのあれこれに気を取られて忘れていたけど、今日はそんな話だった。
「ああ、うん。思い出した。」
「やっぱり忘れてたんだ。」
「来る前は覚えてたけど、忘れてた。ちょっと驚くことも有ったし。」
「手紙、の事かな。」
「うん。」
正直その程度で忘れる、それくらいの興味しかないというのも本当だし、気が付かれているような気もするけれどわざわざ自分から触れずに話を続ける。
「それに、やっぱりうちに来るって、そう言ったのにも驚いたし。」
「なにそれ。」
「なんか、遠慮するのかなって。」
「来てほしくなかったとか。」
「それはないけど。」
それはないけど、楽しみにしていたけど。楽しみにしていたから、彼女が遠慮することを考えていた。来ないかもしれないなと。
「楽しみだったんだけどね。やっぱり来ないかもって。」
「そっか。そうだと嬉しいな。」
「自分で色々調べて、ここまで来たから、それに拘りでもあるのかなとか。」
「えっと、特にないよ。本当に。」
「そうなの。」
僕がそう尋ねてみれば、彼女は天体望遠鏡、今は何処を捉えているのかは分からないそれを見ながら話しだす。
「天体観測がやっぱり一番だから。ここを見つけたのは本当に偶然。」
「うん、聞いたよ。その話は。」
「そうだね。話したよ。だから、ここに来るために色々調べて、たまたま泊まれるところがあって、本当にそれくらい。」
「なかったら、どうしたの。」
「諦めたかも。寝袋を買ってとか、それも考えたけど。」
どうやら見た目に反して、彼女はかなり逞しいらしい。僕は流石に山の中に寝袋だけ持って泊まり込みなんて言うのは、勘弁してほしいと、そう言うしかない。
「車の免許が取れる様になったら、楽になるんだけど。」
「それって、車の中に止まるってこと。」
「そうだけど。」
どうにも彼女が天体観測に注ぐ情熱は、かなりの物であるらしい。
「えっと、すごいね。」
「そうかな。そうかも。」
そういって笑った彼女は、少し先の事も話し出す。
「先々は、それこそ仕事にしたいとか、そんな事は考えてないけどね。アメリカとか、オーストラリア。そっちに行って本当に人里離れた場所、そう言った場所で天体観測をしてみたいなって。」
「大変そうだ。」
「簡単じゃないけどね。」
彼女はそうして、目的を話す。その姿はとても楽しそうで。
僕はひとまずギターを片付けて、彼女の座るブルーシートに乗るために靴を脱ぐ。
「星雲見る前に、お弁当食べよっか。」
「それもいいかも。」
「祖母から暖かい物って、水筒渡されたし、冷める前に。」
今の今まで、それがあるのは忘れていたけど。
「あ、そうなんだ。今夜は冷えるから嬉しいね。本当に気味のお祖母さんには感謝しないと。」
「好きでやってる気もするし。うん、明日会ったときに。」
「そうだね。でも、やっぱり不思議だな。こんなところに、偶然先輩がいただなんて。」
「僕はここに僕以外の人がいたことに驚いたよ。」
そんな事を言い合いながら、持たされた容器を開けるとやはりこれまでとも違った料理が入っている。
おにぎり、昨日の物とは違って、何かが挟まれているようなものではないけれど、それが敷き詰められた容器と、もう一つにはいろんな総菜が並んでいる。
暖かい物と、そう言われた水筒は、水筒に見えて少し違う様で、ふたを開ければそこから容器が二つ出て来る。気っと液体だろうと、慎重に取り出して彼女に一つを渡してから中を開けると、中には汁物が入っていた。
「わ、すごいね。本当にまだあったかい。」
容器を触った彼女がそんな声を上げている。
「こぼさないようにね。」
特に彼女は制服だから、汚してしまえば色々と面倒だろう。
「あ、そうだね。気を付けなきゃ。」
「制服以外は、ダメなんだっけ。」
「一応、校則だと。部活動の一環でもあるし。」
「面倒だね。」
「私もそう思う。」
特に制服が好きに慣れずに、私服が許されている学校を選んだ僕としては、特にそんなことを考えてしまう。
「あ、このお魚美味しいね。」
焼き魚に口を付けた彼女に言われて、覚えのある味に、僕は魚の名前を伝える。
「鰆かな。」
「へー。」
「確かこの時期が旬だったかも。」
「そうなんだ。割とそういった事こだわる人なんだね。」
「気にしたことないけど、言われてみるとそうだったかも。」
彼女に言われて、これまで祖父母の家で食べた物を思い出すと、確かにそこには季節に合わせた彩があったような気がする。
流石に全部の食材を、どの時期に食べるのが良いのかまで把握はしていないけれど。
「キミ、あんまり興味なさそうだもんね。」
「食べて、美味しいと思えるなら何でもいいって、そう思ってるけどね。それを言うならキミだって。」
言われた言葉に、言い返す。天体観測のために、栄養食品に頼る彼女にそう言われるのは流石に納得がいかないし。
そう突然聞かれて僕は何のことだかよくわからなかった。ギターの練習を続けて、指もそろそろ冷えてきたからと、片づけて一緒にまたお弁当でも突こうかなと、そんな事を考えている時に聞かれたのだけど。
「あ、忘れてる。星雲、みるって。」
言われてようやく思い出した。
昨日の帰り際、そんな事を言って別れたし。ここに来る前にも、祖母にそんな話をしたはずだ。すっかり手紙とそれのあれこれに気を取られて忘れていたけど、今日はそんな話だった。
「ああ、うん。思い出した。」
「やっぱり忘れてたんだ。」
「来る前は覚えてたけど、忘れてた。ちょっと驚くことも有ったし。」
「手紙、の事かな。」
「うん。」
正直その程度で忘れる、それくらいの興味しかないというのも本当だし、気が付かれているような気もするけれどわざわざ自分から触れずに話を続ける。
「それに、やっぱりうちに来るって、そう言ったのにも驚いたし。」
「なにそれ。」
「なんか、遠慮するのかなって。」
「来てほしくなかったとか。」
「それはないけど。」
それはないけど、楽しみにしていたけど。楽しみにしていたから、彼女が遠慮することを考えていた。来ないかもしれないなと。
「楽しみだったんだけどね。やっぱり来ないかもって。」
「そっか。そうだと嬉しいな。」
「自分で色々調べて、ここまで来たから、それに拘りでもあるのかなとか。」
「えっと、特にないよ。本当に。」
「そうなの。」
僕がそう尋ねてみれば、彼女は天体望遠鏡、今は何処を捉えているのかは分からないそれを見ながら話しだす。
「天体観測がやっぱり一番だから。ここを見つけたのは本当に偶然。」
「うん、聞いたよ。その話は。」
「そうだね。話したよ。だから、ここに来るために色々調べて、たまたま泊まれるところがあって、本当にそれくらい。」
「なかったら、どうしたの。」
「諦めたかも。寝袋を買ってとか、それも考えたけど。」
どうやら見た目に反して、彼女はかなり逞しいらしい。僕は流石に山の中に寝袋だけ持って泊まり込みなんて言うのは、勘弁してほしいと、そう言うしかない。
「車の免許が取れる様になったら、楽になるんだけど。」
「それって、車の中に止まるってこと。」
「そうだけど。」
どうにも彼女が天体観測に注ぐ情熱は、かなりの物であるらしい。
「えっと、すごいね。」
「そうかな。そうかも。」
そういって笑った彼女は、少し先の事も話し出す。
「先々は、それこそ仕事にしたいとか、そんな事は考えてないけどね。アメリカとか、オーストラリア。そっちに行って本当に人里離れた場所、そう言った場所で天体観測をしてみたいなって。」
「大変そうだ。」
「簡単じゃないけどね。」
彼女はそうして、目的を話す。その姿はとても楽しそうで。
僕はひとまずギターを片付けて、彼女の座るブルーシートに乗るために靴を脱ぐ。
「星雲見る前に、お弁当食べよっか。」
「それもいいかも。」
「祖母から暖かい物って、水筒渡されたし、冷める前に。」
今の今まで、それがあるのは忘れていたけど。
「あ、そうなんだ。今夜は冷えるから嬉しいね。本当に気味のお祖母さんには感謝しないと。」
「好きでやってる気もするし。うん、明日会ったときに。」
「そうだね。でも、やっぱり不思議だな。こんなところに、偶然先輩がいただなんて。」
「僕はここに僕以外の人がいたことに驚いたよ。」
そんな事を言い合いながら、持たされた容器を開けるとやはりこれまでとも違った料理が入っている。
おにぎり、昨日の物とは違って、何かが挟まれているようなものではないけれど、それが敷き詰められた容器と、もう一つにはいろんな総菜が並んでいる。
暖かい物と、そう言われた水筒は、水筒に見えて少し違う様で、ふたを開ければそこから容器が二つ出て来る。気っと液体だろうと、慎重に取り出して彼女に一つを渡してから中を開けると、中には汁物が入っていた。
「わ、すごいね。本当にまだあったかい。」
容器を触った彼女がそんな声を上げている。
「こぼさないようにね。」
特に彼女は制服だから、汚してしまえば色々と面倒だろう。
「あ、そうだね。気を付けなきゃ。」
「制服以外は、ダメなんだっけ。」
「一応、校則だと。部活動の一環でもあるし。」
「面倒だね。」
「私もそう思う。」
特に制服が好きに慣れずに、私服が許されている学校を選んだ僕としては、特にそんなことを考えてしまう。
「あ、このお魚美味しいね。」
焼き魚に口を付けた彼女に言われて、覚えのある味に、僕は魚の名前を伝える。
「鰆かな。」
「へー。」
「確かこの時期が旬だったかも。」
「そうなんだ。割とそういった事こだわる人なんだね。」
「気にしたことないけど、言われてみるとそうだったかも。」
彼女に言われて、これまで祖父母の家で食べた物を思い出すと、確かにそこには季節に合わせた彩があったような気がする。
流石に全部の食材を、どの時期に食べるのが良いのかまで把握はしていないけれど。
「キミ、あんまり興味なさそうだもんね。」
「食べて、美味しいと思えるなら何でもいいって、そう思ってるけどね。それを言うならキミだって。」
言われた言葉に、言い返す。天体観測のために、栄養食品に頼る彼女にそう言われるのは流石に納得がいかないし。
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